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「新しい組織」の出現を見た

ドラッカーは、社会の未来に関する予測については、私の知る限り誰よりも当てている人である。本人は予測しているのではなく、すでに起きていることを観察しているに過ぎないという。おそらく、幅広い知見、知識を持っているため、それらを活用した幅広い反証の網をくぐり抜けた観察の視点は、専門分野に視野が狭くなりがちな多くの専門家の限界をはるかに超えているのだろうと私には思える。

1989年に出版した『新しい現実』は、このドラッカーの驚くべき予測力が発揮された本である。まずほとんど誰も想定していなかったソ連の崩壊を明確に断言し、実際にこれは2年後に起きた。

もう一つの重要な予測は、社会は知識社会に入りつつあり、組織の形態が根本的に変わるという予測である。従来の大量生産式の製造業で必要とされた決められたことをきっちり実行する階層組織に代わり、この「新しい組織」は、知識労働者、あるいは専門家から構成され、この専門家による知識の統合によってイノベーションを起こし、新たな顧客を創造する組織になることを予測したのである。

ただ、この新しい組織の実態は、なかなか見えにくかったのが実情である。実は最近、このドラッカーの予測から30年が経過し、「新しい組織」が現実化し、その姿がいよいよ明らかになりはじめたことを感じさせる出来事があった。それはアカペラグループ「Dカペラ」の来日コンサートである。

Dカペラは、ディズニーの正式アカペラグループとしてデビューしたばかりの新人グループである。その意味では全く無名のオーディションで集めた新人男女7人によるグループでヒット曲はまだない。しかるに、当日、渋谷のシアターオーブの3階席までが満杯であった。中身は大変周到に準備され、メンバー個人個人のパフォーマーとしての力量も、グループとしての一体感も極めて高く、全体の構成も、映像も曲も大変満足度の高いものであった。単なるディズニーのブランドに頼った二流の出し物では全くなかった。おそらく会場のほとんどの人が体験に大変満足したものと思う。

ここで、ディズニーの映像などに合わせアカペラで歌う、という無名の新人グループにこれだけの人が集まり、しかも、その期待に見事にこたえ、高い仕事の完成度を見せた点が大変興味深いと思ったのである。音楽の演奏会という従来は「個人の技」で結果が決まる対象に対し、Dカペラでは、「組織の仕事」として高いレベルを示していたからである。

そして、私は、このDカペラにドラッカーの「新しい組織」を見た気がした。このDカペラは、7人のパフォーマーではない。プロデューサ、マーケティング、プロモーション、キャスティング、選曲、アレンジ、衣装などを含た企画の幅広い人たちや、7人の選抜されたパフォーマーに加え、その周りで準備した大勢のスタッフが、Dカペラの実態である。まさに多数の専門家/知識労働者が集結し、ディズニーとアカペラを結合して人々を楽しませ夢を与えるという目的とビジョンの実現に組織的にとりくんだものであった。

ここで大事なのは、人材をオープンに集結し、目的を達成していることである。そして、それぞれの個人の専門レベルが大変高いことである。しかも、既にあるカテゴリー(アカペラグループのコンサート)を超えて挑戦的な融合(アカペラ×ディズニー)に取り組み、新たな顧客と価値を創造している。まさに、オープンイノベーションである。

私は、このDカペラの形態に、今後の新しい組織を見た気がした。今後、多くの仕事では、このようなDカペラのようなアプローチが普通になるのではないだろうか。

ドラッカーは、このような新しい組織には、4つの課題が表れることも予測していた。それは、第1に「知識労働者にいかに報いるか」。従来のように管理職として昇格させることは答えにならないからである。第2に「知識労働者という専門家に、いかに全体感と目的を共有させるか」。専門家は、深く掘り下げることで、価値を生んでいるが、一方で、全体感がなければ、力を発揮すべき方向を失うからである。第3に「タスクフォースベースの仕事や組織をいかに運営するか」。従来のような上司と部下が継続的に関係を作ることができないなかで、柔軟に自律的な運営する組織の在り方を見出す必要がある。第4に「専門家組織に、いかにトップマネジメントを育成し、選抜する」。オーケストラでいえば、フルート奏者から指揮者は出てこないし、なりたくもない。どうやってトップマネジメント人材を準備するのか。

人材の流動性やプロジェクトベースの目的の明確化など、既存の組織が変わらなければいけない点は多い。Dカペラは多くのヒントを示していると思う。

https://www.disney.co.jp/eventlive/dcappella.html

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