アリババの中国メディアへの影響力の大きさ。ネット民は政府の規制を歓迎してるかも
先日書いた中国政府によるメディアへの対応のnoteはたくさんの人に見られました。中国のメディアの動向と報道の方針には興味がある人が多いようですね。
中国のメディアのかたちは日本で知られているよりはるかに多様で複雑だと思います。そして、中国のメディア事業においてアリババの影響力がヤバいことはあまり知られていないと思います。
アリババといえばジャック・マーを連想しますよね。2017年の公式なカンファレンスの場でジャック・マーは「私自身がニュースを尊重しなければならないと感じているので、いかなるメディアの運営にも干渉することはない」と発言しています。
でも実はかなり...なので順をおって説明します。アリババは香港のメディアのSouth China Morning Postや中国の大手メディアであるCaixin Media(财经)に多額を出資しています。なかでもCaixin Mediaは2009年に設立され、中国で最も影響力のある金融・時事メディアの一つ。2016年3月からCaixin Mediaに資本参加をはじめています。
また、アリババは2012年頃からその他のメディアへの投資を始め、いわゆるメディア以外のSNSにもたくさん出資しています。例えば、ソーシャルメディアツールの「陌陌」にも数千万ドルの投資を行いました(まぁ「陌陌」ははっきりいってマッチングサービス。 当時の解釈では、アリババがSNSの世界に参入しテンセントに対抗しようとしているのではないかと言われていたけれど)。その後は中国最大のSNSとなったWeiboにも出資。
そして約10年を経て、結果として”アリババメディア帝国“を築きました。「野马财经2021」のデータによると、配信プラットフォーム、PRなど93のメディア企業をコントロールしていると報告されています。
↑もはや全部把握できる人がいるのかというレベルの網羅感
特徴としてはネットメディアと経済や金融がほとんどで、まだ時事問題のコンテンツにはあまり手を出してないことがわかります。経済ではCaixin Mediaのほか、日本のみなさんにもおなじみの36krも。
また、個人メディアの発展にも注目していて、「大鱼号」「趣头条」「财富号」などの個人メディアプラットフォームを作っています。 さらに、メディアと読者の間に立つ広告代理店にも手を出しました。2017年に世界最大の広告代理店グループWPPの中国事業の20%の株を獲得しています。
アリババのメディア事業参入には確かに自社事業のための配慮があると納得はできるし、個人の発信を応援しているようにポジティブに思えますが、それ以外にも狙いがあるのではと批判をうけています。世論をコントロールし自分たちの都合の悪い事実を隠す行為を行っっていると中国のネット民が実感しています。ここで2つ有名な事件を紹介します。
一つは2020年4月。アリババのECプラットフオームである「Tmall」の社長だった蒋凡氏が有名なインフルエンサーと浮気していた、しかもビジネス上で彼女を不正に優遇していたことが暴露されたんですが、Weiboでこのニュースが積極的に制限されたり関連する投稿が削除されました(Weiboの年次報告書によると、アリババグループはWeiboの第2位の株主であり約30%の株式を保有)。その後国家インターネット情報局がWeiboの担当者に聞き取り調査を行い、事業見直しとトレンドサービスの一週間停止の行政指導されたことは、アリババからの圧力で情報を制限させられたことを認めたのと同然です。
もう一つは2020年12月18日、ビジネス情報プラットフォーム「虎嗅网」が突然、1ヶ月間の更新停止と、より良いインターネット環境を作るために改善すると発表されたこと。一方的な発表にも見えますが、インターネット管理部門による行政指導が入ったのだと考えられています。
実はその前日に「虎嗅网」は、国家市場監督管理局がアリババの銀泰買収に課した50万元の行政処分を受けたことについて、国家市場監督管理局のやりかたを批判する投稿を行っていました(2014年、アリババグループは「虎嗅网」に2484万元を投資している)。
こんなことで行政指導が入って言論の自由に支障があるかどうかは別にして、政府だけではなく、ネット民からみてアリババが大量資本の入ってる影響力のあるところだけこんな記事が出るなんて面白くないでしょう。特に膨大な資産と国民のデータを持つジャイアント企業でこれからますますメディアをコントロールすればそれこそ政府がコントロールするよりもっと危険が感じられます。
この大きな2つの出来事でも明らかなように、アリババのメディアへの影響力とメディアのコントロールは明らかに不健全で、これを問題視する人たちから批判が殺到。アメリカでのFacebookによる大統領選への悪影響などが引き合いに出されネットで盛んに議論されていました。先日の中国政府による報道への指導にも影響を与えたと思われます。
最近、アリババがCaixin Mediaの株式と湖南テレビ局が所有するマンゴーグループの株式をすべて売却した、と報じられたことはご存知でしょうか。
中国政府からアリババグループにプレッシャーがあったとも噂があります。
外国のメディアやSNSでは、国の規制がきついとか、やっぱり中国だから政府からのプレッシャーが大きいとか批判的な目で見る人が多いでしょう。一方で中国にいると客観的にもかなり違う感じを持ちます。みんながアリババのサービスを使いながら、巨大企業アリババの問題や感じる違和感への批判や反応は大きく、政府がそろそろなんとかしないと逆に文句が言われていたように思います。
政府による民間企業へ報道規制についてはハイテク企業以外にも、それなりの理由で期待・評価している事例があります。よければこれもあわせて読んでみてください。
ということで、日本で報道されている内容やSNSで書かれているのとは違った話だったかもしれません。今後も、北京に住んでる人からのこんな話を読みたくなったらこのnoteに来てくださいね。
(参考資料)