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就業者数の増加は必ずしも喜ばしいことなのか?一方で減少傾向にある総労働時間

就業者数の増加は必ずしも喜ばしいことなのか?一方で減少傾向にある総労働時間

日本の就業者数が過去最多を記録した。総務省の発表によると、2024年の就業者数は6,781万人となり、前年より34万人増加。これは1953年以降の統計で最も多い数字だ。しかし、この増加は単純に「良いこと」として受け止めてよいのだろうか?

確かに、労働力人口が増えることは、経済活動の活発化や税収増、社会保障制度の安定など、社会にとって多くのメリットをもたらす。しかし、就業者数の増加と労働生産性の向上が必ずしも一致するわけではない。特に、総労働時間の減少というトレンドを考慮すると、単なる「人手の増加」ではなく、「生産性の向上」がより重要な課題であることが見えてくる。

増える就業者、減る労働時間

厚生労働省のデータによると、日本の総実労働時間は長期的に減少傾向にある。特に近年は、働き方改革の推進やテクノロジーの活用によって、労働時間の短縮が進んでいる。今回の就業者数の増加も、労働時間の増加を伴っていない点に注目すべきだ。

背景には、多様な働き方の浸透がある。女性や高齢者の就業率が上昇し、短時間勤務の正社員が増加していることが要因の一つだ。例えば、パートやアルバイトから正社員へと転換するケースが増えているが、その多くがフルタイム勤務ではなく、柔軟な労働時間を選択している。

ワークシェアリングと労働生産性の課題

人手不足の問題に対応するため、多くの企業がワークシェアリングを進めてきた。ワークシェアリングとは、労働時間を分け合うことで、より多くの人が働ける環境を作る取り組みだ。その結果、就業者数の増加につながったが、労働生産性の向上という視点ではどうだろうか。

労働生産性は、以下の式で表される。

労働生産性 = 生産量(アウトプット) / 労働投入量(労働者数 × 労働時間)

これまでの日本の労働市場は、労働投入量(分母)を確保することで対応してきた。しかし、今後は単に人数を増やすのではなく、分子であるアウトプットを増やす取り組みが求められる。

日本企業が国際競争力を発揮しているのは、主に成熟した産業が中心であり、成長産業や新興分野では必ずしも優位性が高いとは言えない。国内市場の縮小を踏まえると、これらの分野で国際競争力のあるビジネスモデルを創出できる人材の育成が喫緊の課題となっている。

就業者数の増加は、一見すると日本経済にとって肯定的なニュースだ。しかし、総労働時間の減少や短時間勤務の増加を考慮すると、単に働く人が増えたことを喜ぶだけでは不十分だ。今後は、労働生産性の向上に注力し、アウトプットを増やす仕組みを構築することが、日本経済の持続的成長の鍵となる。

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