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リスキリングによるクリエイターという仕事の「再発明」の可能性

クリエイターの皆さん、「リスキリング」って単語はご存知ですか。「学び直し」ってのが基本的な意味なんですが、特にDX時代のデジタル化が進む中で生まれる新しい職能や職域に対応していこうという姿勢というか、流れというか、まあそういう単語です。経産省のこの辺りを貼っておきます。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf

コンパクトにまとまってるんですが、特に強調されているのは、「自分の現職を生かす形での学び直し」という点、さらにそれが「自分(企業)の新しい経済的価値を市場において創出する」という点です。これらが目指すところは、いわゆる「終身雇用性」が今のところまだ日本の経済・雇用システムを硬直化させている状況において、流動的な「ジョブ型」の雇用システムを進めていきたい、そしてそれによる経済の活性化を目指したいということなんだろうと思っております。

なので、リスキリングというのは単に「個人がまた学ぶぜー」っていう以上に、実は国家百年の計みたいなものが裏にある、割と官製の運動のように思います。それを裏付けるように、先日政府から10月末の総合経済対策の一つとして「リスキリング支援」が挙げられています。

まだそれほど「リスキリング」と言う単語が一般的に普及していないこの状況下での、割と前のめり気味の支援の宣言を見ても、相当ここに突っ込んでいくんだろうなあという印象を受けております。

(1)フリーランスのクリエイターにとっては当たり前のこと

で、実はこの「リスキリング」と呼ばれる活動?潮流?ですが、フリーで写真家/クリエイターをやっていると、僕らずっとリスキリングをしている職種なんですよね。

この10年を振り返ってみても、 カメラ機材のデジタル化の浸透から始まり、現場でのソフトウェア使用の高度化と多様化、SNSの浸透とそれへの対応、さらには写真と動画の機材的な面での境界線の消失から、仕事としての写真と動画の流動化という局面、そしてそこに仮想通貨やNFT、メタバース、Web3.0といった「次のインターネット」への対応の模索と、こんな感じで、15年前だったら写真を撮って展示をしていれば基本的にはOKだっただろう写真家という仕事は、現在では「動画撮って」と言われたり(撮ります)、「SNSでプロモーションにも参加して」と言われたり(参加します)、挙句は写真家の中には企業のビジュアルディレクターになったり、自治体のコンサルタントになったり、コミュニケーションアドバイザーになったり(わいです)、職域の範囲が大幅に更新されてきました。そしてその度に必死に新しい技術や知識を、突貫の「リスキリング」でなんとか凌いできたってのが、この10年のクリエイターたちの動きなんです。

そう、クリエイターたちは、ずっと「リスキリング」をやってきた。今更言われたって、そりゃもうやってらあって話なんですが、でもこのタイミングでもう一度この流れを自分のキャリアの形成を振り返るチャンスでもあるってのが、全国のフリーでやってるクリエイターの皆さんに伝えたいところなんです。

(2)国が支援しているということの意味

というのは、上の記事からはまだ「リスキリング」に対してどんな支援をするのか具体的にはわからんのですが、おそらく「リスキリング」の号令は、「学び直してね」というだけではなく、学び直すことによって出来上がる新しい職業領域への対応を政府もまた早めたい、拡張したいという意志の現れのはずです。今のままの職業構造では、日本は全体として貧困になっていることは見えている以上、新しい働き方や新しい価値の創出を図っていかなきゃいけない。だから多くの人間に「リスキリング」させる過程において生まれる「新しい領域」を、政府なり自治体なりといった上部構造が施策の中に取り入れる可能性があるということです。

机上の空論じゃね?と思われるかもしれません。現場でどんなことが起こりつつあるのか。例えば僕の例で恐縮ですが(しかもまだ裏で進行中の話なので具体的なことあんま言えないんですが)、「地方の写真家」を、自治体の「講師」として、「外国人観光客向けツアーガイド」さんたちに「映える写真の撮り方」を学んでもらうようなフレームを作ろうと、いま裏側で暗躍しています。こうすることで「インバウンド」と総称される、外国観光客向けの自治体の観光事業に、新しい価値を付加することができると睨んでいるからです。

各プレイヤーにとってのアドバンテージを見てみましょう。まずは外国人観光客たち。ツアーガイドが絶景の知識や写真の撮り方をわかっていれば、外国人観光客たちは労せずして絶景ポイントで良い写真を撮ることができます。ツアーガイドさんたちは、「写真の撮り方」をプロから学ぶことで、単なるガイドではない、満足度の高い体験を提供できるようになります。写真家は自分の知識を単に写真というクリエイティブで表出するだけではなく、知識として伝達する「講師」としての役割を果たすことができる。それぞれの職能に新しい価値を付加することによって、全体としてはインバウンド観光事業で展開できる領域そのものが拡大します。それは最終的には、価値の拡大を生みだし経済的な利益を拡大することになるでしょう。特にこれから地方の疲弊が一気に進む中では、このくらいの規模での価値の拡大でさえ、自治体の命運を分ける要素になる可能性さえあります。

こういう感じの動きが考えられるんです。そしてそこにクリエイターが絡んでいけるんですね、「リスキリング」という流れの中では。

(3)クリエイターの仕事が多様化するという世界

それは同時に、これまで各ジャンルのクリエイターが専門性に特化するがゆえに、環境の激変によって仕事が立ち行かなくなるような状況を回避するための、いい処方箋になるという期待も持っています。

15年前だったら、写真を撮って現像しているだけで写真家は食えただろうと思うんです。でもおそらく、今後それだけで食べていける写真家は、本当に少なくなっていくはずです。だって、StableDifussionのような、一瞬で画像を生成するAIが、今恐ろしい勢いでクオリティをアップさせています。その凄まじい勢いを考えると、早晩、今の写真とほぼ同等かそれ以上の「圧倒的に美しい風景・人物・建造物」の「写真に見紛うばかりのCG」が溢れかえることになるでしょう。そうなった時、既存の写真が対抗できる領域が確保されているのかというと、不安を覚えるわけです。ていうか、不安を感じてないクリエイターはほとんどいないと思うんです。

でも、例えば先ほど挙げたように、写真家が「講師」も兼ねることができたら?あるいはディレクターやコンサルタントやアドバイザーのような仕事ができるようになったら?クリエイターが、単に一つの専門的な領域でクリエイティブを作り出す仕事ではなくて、そのクリエイティブを核として、さまざまな社会的・経済的な価値を生み出す「ハブ」のような存在になり得るとしたら?

それは、クリエイターという仕事自体が「リインベンション(再発明)」される可能性に繋がっていきます。reinvention、世界を広げるのが得意だったスティーブ・ジョブズが好きだった言葉ですね。それを可能にするのが、我々がこの10年間必死でやってきた「リスキリング」であり、そこに今脚光が当たっているという状況なわけです。

というわけで、クリエイターの皆さん。この数年は毎年のように激動の時代を生きていると思いますが、本当の大きな波はここからきそうな感じがしております。オープンマインドで色んなことへと挑戦する時代が来るかもしれませんよ。

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別所隆弘
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