見出し画像

理念と行動の溝を埋める「ガイドライン」と「プロセス」

歴史価値の高い裁判記録が裁判所によって破棄されていた件について、最高裁が非を認めた。報告書によると、「「保存記録の膨大化防止に取り組むべきだ」という最高裁の通知が、原則廃棄という誤ったメッセージとして伝わったことが原因」という。

まるで残念な伝言ゲームのように聞こえるが、実はこのような失敗は企業経営でも決して少なくない-経営層は市場や歴史の大局を読みながら、トレードオフを周到に計算したうえ「わが社はこうありたい」と理念を打ち出すものの、現場ではうまく咀嚼できなかったり、意図せず曲解されてしまったりする。その後始末には大きなコストがかかり、理念の実現とはかけ離れた結果に終わってしまう。

このような理念と行動の溝を埋めるには何が必要だろう?まず、現場が理念に沿った正しい行動をとれるようなガイドラインが示されれば、理念が組織の末端まで正しく浸透する確率は高くなる。経営企画や経営戦略とよばれるコーポレート部門は、理念を単純にかみ砕いて繰り返したり、無批判にその実行を追跡したりするのではなく、正しい浸透率を上げるためのお膳立てをみずからのミッションとしなければならない。

例えば、「保存記録の膨大化防止」という理念に対し、では何なら保存するかの具体的な基準が示されたのは2020年だ。裁判記録のケースでは、抽象的なオーダーだけが独り歩きした結果、「原則廃棄」という現場での曲解が根付いてしまった。

さらに、ガイドラインができてもその運用が現場任せでは、正しい浸透は期待できない。誤った記録廃棄の再発防止対策として、最高裁は保存・廃棄の判断を「できるだけ全国一律のプロセスにする」としている。

何事も融通の利かないさまは「お役所仕事」と揶揄されるが、必要最低限な一律化のためには、運用プロセスの統一が欠かせない。もちろんガバナンスと人材の優れた組織では、多少アナログでもプロセス統一を実行できるものの、変化の速い環境、多様な人材を抱える現代の組織背景とICTの向上を鑑みれば、コスト効率の良いプロセス統一のためにデジタル技術を利用しない手はないだろう。IT部門の戦略性が増しているゆえんである。

このように、最高裁を含め組織の戦略実行には、外から見えにくく地味ではあるが、ガイドラインとプロセスへの目配りが欠かせない。その司令塔を務めるのは究極的にはCOOであり、経営企画やITを含めるコーポレート部門の責任は重い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?