上がりにくくなった原油価格【3つの理由】
新型肺炎リスクを受けて中国経済の減速ひいてはこれに伴う原油価格の下落が年初より顕著です。OPECに代表される産油国の減産によって再び油価が戻りつつありますが、昨今の情勢を見る限り、原油価格がかつてみたような(1バレル100ドルを超えて上伸するような)動きを取り戻す可能性は高くないように思えます。
原油価格が上がりそうにない3つの理由
複数の理由が考えられるでしょうが、3つの理由を挙げてみたいと思います。
第一には、やはり中国の需要が見込めないことが上げられます。新型肺炎の騒動を抜きにしても今後の中国に残された限界的な成長余地は徐々に、しかし確実に小さくなっていくと予想されます。これを穴埋めするだけのフロンティアは今の世界経済には見つかっていないのが実情でしょう。これは原油への需要を縮小させるはずです。
第二に、欧州を筆頭とする環境意識の高まりによって、温暖化対策としての「脱炭素」が常識になりそうな機運があることが挙げられます。温暖化の原因が二酸化炭素(CO2)にあるかどうかという因果関係はさておき、CO2排出を伴う石炭や石油といった化石燃料を原料とするエネルギーは今後「脱却が吉」というのが企業行動の基本になってくる可能性があります。これも根本的に原油への需要を小さくするでしょう。
世界最大の産油国「米国」
上述したものは需要面の要因ですが、最後に供給面からの要因も指摘したと思います。それは米国が産油国化しているという事実です。2019年の米当局の発表ではシェールオイルの増産によって2018年の原油生産量が45年ぶりに世界最大になったことが話題となりました。
これと整合的に米国の対外収支構造も変わりつつあります。米国の原油貿易収支はもはや断続的に黒字化しています。2019年通年の米貿易赤字が6年ぶりに縮小したことが話題となったばかりですが、これは保護主義的な対中政策のほか、原油輸入が大幅に落ち込んだことの結果でもあります。もちろん、これら3つの要因だけではないでしょうし、投機的な理由で原油価格が思わぬ乱高下することは今後あり得るでしょう。しかし、客観的に見て「原油価格が上がりにくそうな世の中」になりつつあるようには見えます。なお、仮に3つ目の要因でもご紹介した米国の貿易赤字の拡大が止まり、顕著に縮小に向かうような流れが基調となれば、それ自体がドル高(円安)要因として為替市場において捨て置けない論点となる可能性があります。
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