『共感にとって最悪の時代』をテクノロジーの力で乗り越える
米国のテクノロジー企業のリーダーたちは、『共感』を企業経営の中核に置き始めています。
スラック社は設立当初から『共感』を会社のコアバリューとして掲げています。マイクロソフト社のナデラCEOも『共感』が人をよりよいイノベーターにすると確信し、企業文化の再構築を成功させるために『共感』をコアコンセプトにしているそうです。
『共感』は、人類の発展、進化の根底を支えてきた
他者の苦しみや悲しみ、そして喜びを、自分のことのように感じる『共感』という機能が、豊かで平和な暮らしの実現を支えるという考え方に、異を唱える人は少ないでしょう。
アダム・スミスは、国富論で、各自が利己的に自由に競争すると神の「見えざる手」が働き、公益に通じていくと説いていますが、その前提として『共感』の存在が必要であると論じています。
現代は『共感』を破壊する価値観が常識となっている
そもそも『共感』という機能は、進化の過程で、視界に入る他者と関係性を強化するために確立されました。他者への扱いは、そのまま自分に返ってくるため、他者の痛みを感じ、優しくすることが、合理的になる条件が長期間続いていました。
その後、人類が所有の概念を獲得し、縄張り争いが増えると、他者を自分が所属するコミュニティの内と外に分けて「自分たち」と「彼ら」を区別し、共感の発動条件を「自分たち」のみに限定する必然性が高まりました。
その結果、我々は無意識に他者を区別して、『共感』の発動を抑制しながら生きるようになりました。
さらに近年では、米国のノートルダム大学のサラ・コンラス博士の調査結果から、都市化が進展した結果として、『共感』する力は急速に弱まっていることがわかっています。
米国のオバマ元大統領は、まだ上院議員だった2006年に、ノースウェスタン大学の卒業生祝辞で、以下のように述べています。
「国家財政の赤字についてはよく話題になりますが、わたしたちは別の赤字、すなわち共感の欠乏について、もっと話しあうべきだと思っています。今のわたしたちが生きているのは、共感を大切にしない文化です。この文化は、富を築き、外見を整え、若さを保ち、有名になり、身の安全を確保し、楽しく過ごすことを最優先とすべし、とわたしたちにささやきかけます。こうした利己的な衝動を、権力者が奨励すらしているのです。」
都市化が進み、コミュニティに縛られなくなった人類は、結果として誰が仲間かもわからなくなり「自分の身は自分で守るしかない」という自己責任の観念に支配され、他者に優しくする必然性を失いつつあります。
テクノロジー活用には希望がある
世界人口に占める都市人口の割合は、1950年代には30%にも及びませんでしたが、現在その割合は50%に上昇しています。そして、世界の都市人口は2050年までにおよそ66%にまで増加します。
これからも、優しさや助け合いの根幹となる『共感』が、ますます希薄化していくことが予想されますが、書籍「スタンフォード大学の共感の授業 」で紹介されているテクノロジーの活用には一縷の望みを見い出すことができます。
自閉症の人は、他者の顔を見ない傾向にあります。それは表情から感情を読み取ることができないためです。
スタンフォード大学で試作された拡張現実メガネは、目の前にいる人の表情を読み取り、表現されている感情をメガネ上に明示する機能が備わっています。このメガネを使うと、自閉症の人でも、他者の顔をよく見るようになり、他者の感情に対応した反応を行えるようになりました。
この子ども達向けの実験では、表情を読み取られている親側が、自分の表情を後に映像で確認することができます。そうすると、想像以上に不機嫌な顔をしてしまっていることに気付き、より上手に、自分の感情をコントロールするようになり、親子関係が円満になったそうです。
最近では、Facebookが人類の憎悪や断絶を進め、精神衛生に悪影響を与えていると非難されていますが、技術はいかようにも活用可能であり、この事例は「技術が他者との関係性を豊かにする」好例です。
センシングテクノロジーは、人間の『共感』機能を補助し、刺激し、強化することができる、素晴らしい可能性を秘めています。
『共感』の回復は、社会をより良くしていくために絶対に欠かせないものです。テクノロジー企業が共感を重視した経営を始めたことは、人類の平和の実現につながるはずです。
内容に気付きがあったり、気に入って頂けたら、ハートマークのスキを押して頂けると有難いです。励みになります!