「新しい日常」を彫刻するアーティストを支援する “社会彫刻家基金”をはじめます。
新型コロナウイルスの感染が広がったこの1年。
実体経済の先行きが見えない中、経済的不安が広がっています。
しかし、そこで傍観しているだけだと、その間に、大事な文化圏・公共圏が消失してしまうのではないか。
そんな危機感から、昨年の緊急事態宣言下で取り組んだのが、我々MOTIONGALLERYの手数料を放棄して多くの方にお金を届けるサポートをするためのコロナ対策プログラムの設置(2020年はこのコロナ対策プロジェクトのみで流通金額20億円を超える等、飲食店、クラブ、文化施設など多くのサポートを行なわせて頂きました。)であったり、そのプログラムを自ら活用し、発起人としても運営に携わった、「ミニシアターエイド基金」「ブックストアエイド基金」「小劇場エイド基金」といった全国の文化施設を連帯して支える基金の設立でした。
当時の思いはここでも書き記しています。
まさにこのエイド・基金に取り組んでいた時に、現代アート領域でもMOTIONGALLERYさんにアクションを起こしてほしいという声をいただくことが増えました。僕個人としても、『さいたま国際芸術祭2020』にキュレーターとして関わっていることもあり、アート領域に対して何かできることは無いだろうかと思案していたタイミングでもありました。
もしかしたら、この記事でもあるように、現代アート領域は、実態経済とは別の次元として、著名起業家がアートコレクションを増やしていたり、『アートシンキング』というビジネスマン向けの啓発も広がりつつあり、一見安泰に見えるかも知れません。
しかし、有る種「金」と同じような安定資産として、コロナ禍で人気が出ている「投資としてのアート」は、あまり同時代に活動している現代アーティストには関係がないとも言えます。ある程度評価の定まったアーティストの作品の売買などはあくまでセカンダリーマーケットでの盛り上がりが多く、作家自身にお金が落ちる訳ではなかったり、大きなニュースになるものはそれこそ既に作家が存命でないことが多い。
しかし、我々が取り組んでいる各エイド基金は、ビジネスとして短期的な旨味が見出せない為にそのようなビジネス・マネーが投じられないが、将来そのような投機対象となるにしてもその為に今サポートが必要な、1▷10のフェーズで頑張っている作家や、その作家にスポットライトが当たる場所を支えるということが使命です。
美術館の多くは行政が運営に関わっていることが多く、それこそ”公助”で支え続けるべき場所であるため、「美術館・エイド基金」のようなものは行うべきではないと最初から考えていましたが、これからのアートの歴史を作るかも知れない、社会に多様な価値や視座をもたらすような、今まさに挑戦をしている作家に直接届くような「エイド」ができないものか。今回、賛同団体に入って頂いている「NI-WA」さんからも熱烈なアートへのサポートの後押しをいただいたことで、この方向性で、アート領域のエイド基金をつくれないかと『さいたま国際芸術祭2020』が終幕した、2020年秋頃から動きだしました。
NPO法人インビジブルとの化学反応
前述のように、「ミニシアターエイド基金」「ブックストアエイド基金」「小劇場エイド基金」といった全国の文化施設を連帯して支える基金とは全く違う形でのサポートの仕方を考えなくてはならない事が明確だったので、MOTIONGALLERYでのクラウドファンディングを前提としない、アート領域でサポートすべき方々の実態に沿った、まったく0ベースでこの取り組みを組み立てて行こう。それには、仲間が必要だ!
ということで、早速『さいたま国際芸術祭2020』で一緒にキュレーターとして働いていた、アートを触媒に「見えないことを 可視化する」NPO法人インビジブルの林 曉甫さん/Hiroko Kikuchiさんのお二人にご相談しました。
ここでは省きますが、インビジブルの二人と本当に沢山のブレストをし、何が正しかろう在り方なのか、変な権威構造に陥らない形はなんなのか、どんなモノサシの在り方で基金の性格を規定するのか、社会への意味のあるメッセージングを行えるのかなど本当に色々考えました。
その結果行き着いたのが『社会彫刻家』という単語でした。
実はインビジブルとMOTIONGALLERYでの強い共通点って、このヨーゼフ・ボイスという現代アーティストが提唱した『社会彫刻』という概念をフォローしている点にあります。MOTIONGALLERYでも明確にそのコンセプトを明示したりしていて、クラウドファンディングとは『社会彫刻』を社会に実装する手段であるとまで考えているのですが、僕が最初に仮置していた基金名は全く違いました。林さんから「つまり我々の議論をまとめ基金のあり方を示せる単語で、そして我々2社に共通しているメッセージを考えると『社会彫刻』なのではないか?」と言われた時に、痺れました。まさに!インビジブルと一緒にこの基金をやりたいなと思った理由って、言語化できてなかったけど、まさにこの感覚だったのだ!と化学反応を強く感じました。正直『社会彫刻』という看板を背負うことには当初僕はめちゃくちゃ尻込みしてしまいましたが(笑)、今はこれをやっていくんだという使命に燃えています。
「社会彫刻家基金」に籠めた思い
「社会彫刻家基金」は、新型コロナウイルス拡散後の「新しい日常」において、アートを触媒に社会に変化を創り出すアーティストを支援する基金です。
新型コロナウイルスにより、私たち一人ひとりが生活/仕事/移動/コミュニケーション/コミュニティなど、生きる上で不可欠なことを根本から見つめ直す必要に迫られています。
誰も答えを知らない「新しい日常」におけるアートの役割は、従来の「アート」という言葉の定義に捉われることなく、闇夜の中で光る灯台のように私たちが進むべき方向性を指し示すものであってほしい。
そこで、私たちは、ヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」の概念を継承、そして現在の状況下で再解釈しながら実践していくことこそが大切だと考えました。本基金は、こうした問題意識を元にアーティストを支援し、国内外に発信していきます。
今社会の形が転換する大きな岐路に経っている中で、アートが社会に出来ることを本基金で後押しし、「新しい日常」の姿や未来の形を皆様と一緒に現して行ければと考えています。
改めて、設立背景について
新型コロナウイルスにより、リーマン・ショックを経てもなお市場経済への社会の重心が強まり続け”正義”とされてきたスピード/スケール/密集といった価値観の見直しが迫られています。分散型社会に 向かい経済の形 の変化も与儀なくされるであろうことから、これからは、民主主義的な社会に向かうのではというポジティブ な見方が出る一方で、感染拡大防止の為の施策の浸透によりむしろ全体主義・ 監視社会の到来を見据える見解も出てきています。
そこで2020年、クラウドファンディングプラットフォーム・MOTION GALLERYとアートを触媒に「見えな いことを可視化する」 NPO法人インビジブルがタッグを組み、この不透明な時代にこれまで以上に求められ ていくであろうアーティストの活動をサポートし、その意義を社会に広めていく長期的な基金を共同で立ち上げる事となりました。
誰も答えを知らない「新しい日常」におけるアートの役割は、従来の「アート」という言葉の定義に捉われる ことなく、闇夜の中で光る灯台のように私たちが進むべき方向性を指し示すものであってほしい。 そして、これまで不透明な時代に都合よく”アート”という言葉が消費されてきた反省も踏まえつつ、アー トを通じて社会 に変化を創りだす「社会彫刻」の概念を継承した活動がより一層評価/認知されていく ことの必要性を今強く感じています。
「社会彫刻家基金」って一体何をするの?
・「社会彫刻家アワード」設立します。
2021年、本基金初年度の活動として「社会彫刻家アワード」を設立します。
本アワードでは、「調査選考委員」が候補対象となるアーティストの活動を視察し、コロナ禍を踏まえた作品や活動内容、今後のビジョンなどを元に「社会彫刻家アワード」候補者を各1名選定します。選出されたアーティストには、本アワードの贈呈とともに副賞として賞金500,000円の授与と、2021年に活動発表の機会が与えられます(発表場所:九段ハウス)。また、この発表内容などをまとめた本を2022年に発売予定です。
*なお、本アワードの受賞条件に不服がある場合、アーティストは当アワードを辞退することも可能です。
* 選定基準については、各選定委員と議論し共有します。
・調査選考委員
「社会彫刻家アワード」は、3名の調査選考委員が、それぞれ各1名の受賞者を選定します。その年の社会に応 答した作品や活動を行った3名の受賞者によって、その年の社会のかたちが見えてくるはずです。そして、永遠の問いでもある「社会彫刻」という概念は、調査選考委員による選定のプロセスや議論、受賞者の作品・活動 が毎年アーカイブされていくことで、点が面となり見えてくるものと期待しています。受賞者の選定にあたり日常的な活動も勘案すべきと考え、3名の調査選考委員は、式によって初めて公開されます。
・スケジュール
第一回「社会彫刻家アワード」は、現在調査選考中です。
2021年5月12日に結果発表及び授賞式を実施予定で す。
・活動発表の場:九段ハウス
東京九段の歴史を見守り続けた築94年の邸宅。「歴史」と「和」、「現代アート」の融合をテーマに、未 来へ向けたイノベーションを生み出す会員制ビジネス拠点として生まれ変わりました。会員企業の研修会、 オフサイトミーティングなどの場として利用されています。https://kudan.house/
「社会彫刻家基金」の現在地
本日、遂にオープンとなった「社会彫刻家基金」。
HPも公開しました!
実は、5月12日の式に向けて、すでに3名の調査選考委員による選定が佳境を迎えています。しかし、この基金は権威や格付けとは距離を置いた、アートを触媒に社会に変化を創り出すアーティストを支援する基金。ある意味ではグルマンの聖書みたいな「ミシュラン・ガイド」の様に、調査選考委員はアワードが確定し公表される5月12日まではふせられており、アーティストにも原則誰だかはわかりません。
そんなフリーハンドな形で選考されるので、もしかしたら自身がアーティストだったり社会彫刻だったりという自意識がない方がノミネートされるかも知れません。だからこそ生まれる、新しい地平がきっとある。そして書籍によって各調査選考委員の方々が、同時代について、アートの現在地や未来について、社会彫刻という概念についてどの様に考え、選考し、決定したかという事、そして調査選考委員同士でのディスカッションなども公開されます。そこできっと、各調査選考委員の独自の視点から忖度や調整なしに選ばれる事で顕れる社会彫刻家というイメージに、重層的な分脈やリファレンスが肉付けされ、永遠の問いでもある「社会彫刻」という概念が毎年公開された状態でアーカイブされつつ、更新されていくことと期待しています。
こんな「社会彫刻家基金」の現在地について、いろいろな話が多くてもっと伝えたい!という思いもこめて、明日、2月26日20時〜クラブハウスで関係者とともにお話ししてみます。ご興味あるかたは是非ご参加ください!