全ての企業は、ソフトウェア企業になる

2020年5月20日に、パナソニックは米国のソフトウェア企業で流通業の業務効率化システムを手掛ける、ブルーヨンダー社の株式20%分を取得することに合意したと発表しました。

津賀社長は「住む世界が違う」ソフトウェアビジネスに踏み出した理由を、以下の二つを学習するためだと明言されています。

・サブスクリプション型のソフトウェア事業を伸ばそうとしているところ
・AI技術を活用するところ

これは、パナソニックのソフトウェア企業化に向けた挑戦の開始だと捉えています。

製造業を例に考えてみますが、これは従来のハードウェア製品が重要でなくなるということでは決してありません。

ハードウェアがソフトウェアと融合していく時代において、ソフトウェア企業のノウハウが必須になってきていると理解するべきです。

最も上手くこの融合を実現している企業は、電気自動車分野を牽引する米国のテスラです。

AIを活用した自動運転技術そのものも、優れたソフトウェアサービスですが、それ以上に経営の在り方がソフトウェアサービスに立脚しているところが特筆するべき観点です。

製品売り切りの姿勢ではなく、販売済の車の提供価値を高めるために、保有車両の走行データを日々収集し、搭載しているソフトウェアを更新し続け、継続的な提供価値の向上を続けています。

テスラを保有している友人が「昨日、ブレーキの制御ソフトウェアが自動更新されて、より気持ちよく止まれるようになったよ」と言っていました。

消費者が、次に新しく買い替えるまで、古くなり価値が低下していく車と、日々使いながら価値が高まっていく車のどちらをより選択するのかは、自明です。

テスラは、2019年に36万7500台を出荷しました。年間1000万台規模を出荷する大手自動車メーカに比べると販売台数は圧倒的に少ない生産量です。

しかし、時価総額では、出荷台数においては30倍も開きのある独フォルクスワーゲンを抜き、トヨタに迫ってきています。

CEOのイーロン・マスク氏の革新性もさることながら、この評価の高さは、すでに新しい企業経営の在り方を体現していることへの期待だと理解をしています。決して、車を電気で動かしていることが評価されているわけではありません。

米国で著名なインキュベーターのポール・グレアム氏のツイートは、端的にこのことを表現しています。

古い自動車メーカーはテスラが電気で動くという点が、自分達との違いであると考えています。しかし本当の違いは、テスラの車はソフトウェアでもあるということです。古い会社も、その大きな乖離にいつの日か気が付くでしょう。

そして、ソフトウェアとの融合は製造業に限った話ではありません。金融、通信、リテール、あらゆる産業において、お客さまとネットワークを介してつながり続けられるようになりました。

対面主体であったサービスは、継続改善を行うソフトウェアサービスとの融合が求められます。

このソフトウェア企業化の流れの中で、日本企業は大きなリスクを抱えています。

日本発で、グローバルマーケットをリードしているソフトウェアサービスは皆無です。つまり、国内には世界に通用するソフトウェア企業を経営するノウハウが存在していないことになります。

近年デジタルトランスフォーメーションが盛んに叫ばれていますが、既存の仕組みをデジタル化することの重要度は、長期的には高くありません。

これまで提供してきた製品、サービスそのものを、いかにソフトウェアと融合させていくかが、生存を賭けたこれからの挑戦になります。

経営者は、これまで積み重ねてきた資産に立脚するのではなく、戦後の焼け野原に立っているような心持ちで、自分たちは挑戦者であり、国外の先進企業から再度多くのことを学ばなければならない、差し迫った状況に追いやられていると認識しなければなりません。

既存企業がソフトウェア企業化する上で、新たに獲得が必要な概念やスキルに関しては、改めて書いていきたいと思っています。

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遠藤 直紀(ビービット 代表)
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