海外トップ層の人材を採用するために日本での勤務経験の価値を明確化させよう
アジアの学生に選ばれない日系企業
日経新聞で、「ホウレンソウに不信感 日系企業はアジアで人気低下」という記事があった。ビジネスのグローバル化と人口減少、少子高齢化という日本の現状において、優れた専門性やポテンシャルを持った人材を海外から求めたいというニーズは年々増している。政府は外国人が就労しやすいように制度を改革し、企業も海外の大学でオンキャンパス・リクルーティングを積極的に行うなど、行動を起こしている。しかし、アジアの学生にとって日本企業は魅力的に映らないという。
元々、日本企業の人気はそんなに高くない
この記事を執筆しているのは、香港理工大学の近くだ。ちょうど共同研究について同大学の教員とミーティングが終わったばかりである。残念ながら、多くの日本企業は香港の学生にとって魅力的ではないという。日本企業に魅力を感じない理由は主に以下の通りだ。
私は10年以上、インドネシアの国立大学の経営系学部とも付き合いがあるが、そちらでも学生が日本企業に抱くイメージは大差ない。
このような印象は今に始まったことではない。特に、経済・経営系や理工学系の学生にとっては昔から変わらない。これに加えて、「日本企業は昇進が遅い」「昇進が遅いのに組織の要職は日本からの駐在に独占されてキャリア展望がない」「給与が外資系なのに安い」という要因が学生からの人気を下げている。結果として、外国語学部で日本語を学んだ学生が現地採用の大半を占め、それ以外では外資系に就職したいが不合格だった学生が主だった。
もちろん例外はある。自動車好きな学生がトヨタや日産に就職を希望したり、バイク好きがホンダやヤマハを希望することはよくある。実際に、某欧州系自動車メーカーの採用担当者は日本企業とバッティングすると採用で勝てないとインタビュー調査で応えたことがある。
しかし、そういった一部の例外を除いて、多くの日本企業はアジアの学生にとって魅力的とは言い難いのも現実だ。しかも、アジアの学生が問題視していることは、日本企業の文化や価値観、組織構造に起因するものが多く、なかなか「それでは、変えよう」と言い難いのも悩みの種だ。
日本での経験でキャリアの付加価値を高めることができるか
一般的に、優秀と言われる人材ほど、自分のキャリア構築に対してどん欲であり、自分でコントロールしたいと考える傾向にある。近年の日本でも珍しくはなくなってきたが、そういった人材にとって、長期雇用で企業に忠誠心を尽くすという価値観が自らのキャリアの可能性を著しく損なうとみられがちだ。反面、キャリア構築にどん欲であるからこそ、職務経験を通じて、自らのキャリアの付加価値を高めることに積極的でもある。
例えば、今から10年前だとロボティクスの分野で積極的に投資をしているのは日本企業が中心だった。そのため、ロボティクスについて経験を積み、自分の付加価値を高めたいと考える海外のエンジニアは多かった。また、ドイツのデュッセルドルフのように日本企業が国外の中心的な拠点を置くことが多い都市では、日本企業での経験が付加価値として地元企業からも重宝されやすい。
つまり、アジアの学生を採用するときに、どれだけ従事する業務やプロジェクトによって自身のキャリアに有用かを明示する必要がある。このように、キャリア構築にとってどれだけメリットがあるのかを明示化することを「従業員価値提案(Employee Value Proposition)」という。アジアの学生にとって日本企業の魅力がないと言われるのであれば、「従業員価値提案」をどれだけ充実させることができるのかが焦点となる。