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【日経_世界経営者会議】Adobeから考える待ったなしのDXとDX推進者の覚悟

2021年11月9日(火)・10日(水)の2日間にわたって、世界の名だたる企業の経営者が介し、自社の取り組みと将来のビジネス環境について語る『第23回日経フォーラム 世界経営者会議』が開催された。ありがたいことに、昨年に引き続き、今年もオンラインで視聴させていただける機会をいただけた。

そこで、今月は5回にわたって、世界経営者会議での講演内容を題材として、これからのビジネスの変化について考えてみたい。

デジタル・ファーストの世界への移行

世界経営者会議では、Adobe Inc. CEO のシャンタヌ・ナラヤン氏による講演があった。

ナラヤン氏は、米国の大企業経営者として、その辣腕が良く知られている。テクノロジー企業は産業特性として比較的CEOの在籍期間が短い傾向にあるが、ナラヤン氏は2007年から在任している。尚、余談だが、米国企業は日本企業より在籍期間が短い傾向にあると思われがちだ。しかし、大企業経営者に限ると関係は逆になる。ニッセキ基礎研究所によると、TOPIX100の創業経営者を除く日本企業のCEOの平均在任年数は5.1年に対して、ハーバードビジネスレビュー誌ランキングの米国企業のCEOの平均在任年数は13.4年である。

また、同氏は在任期間に大掛かりなビジネスモデルの転換を何度も手掛けており、組織変革に長けた経営者だ。2003年に「Adobe Creative Suite (ACC)」を発売し、それまで単独のソフトウェアとして販売されていたアプリケーションを、統合パッケージとして販売するように変更した。この移行は大成功し、ACCは大ヒット商品となるが、2013年に発売を終了する。クラウドをベースとしたサブスクリプション型の「Adobe Creative Cloud (ACC)」へ移行したためだ。過去の成功体験に引きずられることなく、最新のテクノロジーとビジネスモデルに切り替えている。

ACC の成功は Adobe Inc. の事業に大きな影響を及ぼした。Adobe Inc. の製品は、それまでは比較的クリエイター向けの高価格な業務用ソフトウェアであったが、サブスクリプション型となることで一気に顧客層が一般ユーザーにまで広がった。売り上げも爆発的に増えている。2013年の売り上げが約40.5億ドルであるのに対し、2020年の売り上げは約128.7億ドルと3倍に膨れ上がっている。

大企業がイノベーションのジレンマに陥ることなく、最新のテクノロジーを活用してビジネスモデルを変革することで、これだけ大きな成功を掴むことができるのだという好事例だ。そして、このことは企業規模を問わずに言える。中小企業でも、テクノロジーを活用することで、急激な成長を遂げることが可能だ。大阪のホームセンター向け問屋からDIYのEC企業に事業変革をした株式会社大都や、神奈川県鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」が手掛けるクラウド型ホテル・旅館情報管理システム「陣屋コネクト」など、テクノロジーで事業を大きく転換し、事業成長を果たした事例はいくつも見つかる。

DXの痛みを覚悟できるか?

テクノロジーを活用することで、企業は爆発的な事業成長をすることがある。その反面、テクノロジーを活用すれば、それで成長できるのかというとそう簡単な話ではない。

少し前に、 @reisaikigyou_ma 氏のNOTEの記事がきっかけで「DXはトップダウン必須、無血革命は無理」という話題がSNSで話題になった。

社内コミュニケーションのためにSlackを導入したら4名退社した。残業ゼロ、週休3日の健全経営をDX推進で成し遂げたが、従業員の半数が退職した。このような中小企業でDXを推進するうえで発生した変革の痛みの話は枚挙にいとまがない。

鳥取県米子市で不動産の仲介・管理を営むウチダレックもその1社だ。DX推進をスタートしてから最初の約2年間で社員の半数が退職してしまった。しかし、DXによる事業改革で営業利益2.5倍、コスト40%減、残業ゼロを達成している。

DXを進めるということは、従来の慣れ親しんだ仕事の進め方を捨てるということだ。そして、慣れ親しんだ何かを捨てるということは痛みを伴う。経営者にとっては、そこで難しい決断を迫られる。DXを推進することで従業員が辞めてしまうかもしれない、しかもう古くから会社を支えてくれたベテラン社員が辞めてしまう可能性は精神的に辛いものがある。経営者にとっても難しい決断だ。

Adobe Inc. のナラヤン氏は、世界は既にデジタル・ファーストの時代に突入しているという。「デジタル化が本当にわが社にとって必要なことか、冷静になって考え、判断しよう」という悠長なことを言っていられる場合ではないという意味でもある。「テクノロジーを活用すること」を前提として、意思決定や自分の行動を選択しなくては、これからのビジネス環境で取り残されるだけとなる。

変化の痛みに耐えることができるかどうか、これは大企業か中小企業かを問わずに、日本企業が乗り越えなくてはならない課題となっている。

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