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「選択的週休3日制」を安易に導入すればいいわけではない理由。~必要なのは“制度”よりも“風土”~

皆さん、こんにちは。
今回は「選択的週休3日制」について書かせていただきます。

自民党の一億総活躍推進本部(猪口邦子本部長)は23日、希望者が週3日休めるようにする「選択的週休3日制」を導入するよう坂本哲志一億総活躍相に提言した。労働生産性を高めつつ、育児や介護と両立する柔軟な働き方を実践できる環境をどう整えるか。政府は課題の洗い出しを急ぐ。
坂本氏は提言を受けとり「企業にしっかり周知することが大事だ」と述べた。猪口氏は提出後、必要な予算の確保や対策の検討について「(坂本氏から)意思表明はあった」と語った。
自民党の提言は子育てや介護をする世代でも働き続けられる一億総活躍社会の実現を掲げる。週休3日制を使えば、負担軽減やキャリアの維持につながると期待する。新型コロナウイルス禍で在宅勤務が浸透し始めたのを契機に、働き方の選択肢を広げる狙いがある。
休日には地方で別の仕事を兼ねたり、ボランティア活動に参加しやすくしたりするよう提起した。大学院など高等教育への進学やリカレント教育(学び直し)を促す支援も求めた
重要になるのは働き方の選択肢を増やすだけでなく、労働力の確保にどうつなげていくかだ。少子高齢化に伴う人口減少に対処するには労働生産性を高める取り組みが欠かせない。
厚生労働省の2020年の調査によると「完全週休2日制より休日数が実質的に多い制度」を採用している企業は全体の8.3%選択的週休3日制の普及には、給与体系や労働時間管理の仕組みを変える必要がある
企業は試行錯誤する。
精米機メーカーのサタケ(広島県東広島市)は17年から夏季限定で週休3日制を始めた。当初は全社員が一斉に休む形式を採用し、取引先から不満が出た。19年から社員が分けて休みをとる仕組みに改めた。
月曜日や金曜日を休日にして3連休にすると業務に影響が出るため休日は水曜日に設定する。
水処理大手のメタウォーターは19年から希望者を対象に認めている。出勤日の労働時間を長くして給与水準は維持する設計にした。
利用者は全社員の1~2割にとどまる。同社は「テレワークの活用で週休2日でもワークライフバランスを確保できるうえ、同僚の負担が増えることへの遠慮もある」と分析する。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は20年12月から、希望者が週休3日や4日で働ける制度を取り入れた。給与は週休3日の場合2割減る。業務外で資格を取るために制度を利用する社員が出始めている。
人手が限られる中小・零細企業にはハードルが高い。連合の担当者は自民党の会合に出席し「過重労働にならないように」とクギを刺した。
第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「生産性向上を働きかけるきっかけになり得る」と指摘する。「不向きな業務もある」と見る。飲食店や小売店、警備業など労働時間に応じて報酬が決まることが多い職種をあげた。
「国が減収分を補塡する支援策では生産性は高まらず、生産性以外の効果も計りづらくなる」と話す。普及を支援するため従業員の育児や兼業などを後押しする助成を検討すべきだと訴える。
政府が詰めるべき課題は少なくない。保育所が入所の優先順位を決める場合、点数を付ける施設のが一般的だ。保護者の労働時間や労働日数が多いほど点が増えて優先度が上がりやすく、週休3日の利用が入園に不利になる恐れがある。
賃下げの手段に使われたり、サービス残業の温床になったりしないよう監視も欠かせない。
週休3日制の議論は効率的に働けば賃金を減らさずに労働時間を短縮できる裁量労働制に通じる生産性を高める観点から、日本に根強く残る時間ベースの人事評価を成果重視に改める好機にもなる


まず最初に申し上げたいのが、個人的には「選択的週休3日制」の導入に賛成でも反対でもありません。
サイバーエージェントとしても現時点でこの議論がされているわけでもありません。

どんな制度であれ、制度として会社の中に取り込もう、というのは実は非常に簡単です。
制度を“作る”よりも“なくす”方が労力がかかりますし、制度を“導入”することよりも、“使われる制度・意味のある制度に仕上げる”方が断然、難易度が高いです。

1、制度導入にあたってのワナ

今回の場合、特に「選択的」と言っているわけなので、まずは試しに希望者のみに適応していけば良いのでは、という意見が出ることは自然な流れです。
ただ、希望者のみの適応であったとしても、その制度を使う人と使わない人、使いたくても使えない人や、使いたくないのに使わないといけない人など、立場や置かれる状況が異なる人が複数生じる以上、どうしても「白け」が出てしまう点にも注意が必要です。

大前提として、「働き方の選択肢が増える」「多様な働き方を実現できる」こと自体はもちろん歓迎すべきことで、もっと多くの会社が真剣に社員一人ひとりの働き方について考え、働きやすい環境構築をしていく必要があることは間違いありません。

ですが、制度を導入することがゴールなのではなく、大事なのは、

・なぜ導入するか
・何を目的に導入するのか
・その制度によって何が実現できればいいのか
・どのように運用していくのがいいのか
・どういう形で会社の風土として定着させるのか

などを考えて実行することです。

これらを明確に定義しないうちに、安易に制度導入を判断することは避けた方が良いと考えています。

2、「選択的週休3日制」のメリットとデメリット

改めてですが、「選択的週休3日制」とは簡単に言うと、1週間あたりの休みを1日増やし、週休3日とする制度で、希望する社員が週休3日で働ける制度のことをいいます。
休日を増やす代わりに給料は削減される形が一般的ですが、既に週休3日制を導入している企業の場合、

・休んだ分は減給、または無給
・一日の労働時間を増やし給料を変えない
・生産性を向上し労働時間を減らして給料を変えない

というように、企業によって対応が分かれている状況です。

この議論が活発化してきた背景としては、大きく3つです。

副業の促進など新しい働き方に対するニーズの高まりに対応できる
業績悪化や感染拡大防止などの観点から、従業員の労働時間や出社日数を減らすことができる
少子高齢化による労働力不足問題の観点から、多様な人材を企業間がシェアしてビジネス力の低下を防ぐことができる

引用した記事にあるように、育児や介護などと仕事を両立させるために多様な働き方が選択できる必要性が高まっているのはもちろんのこと、コロナ禍でリモートワークが定着したことをきっかけに、より働き方の選択肢を広げる動きが加速していることが要因です。

この制度を導入した場合の、メリットとデメリットをそれぞれ簡単に記載します。

■従業員のメリット
・働き方の選択肢が増える
・これまで個別事情(育児や介護など)で仕事を断念せざるを得なかった人も仕事を続けやすくなる
・趣味などの自分の時間を確保できる
・大学院への進学など学び直しの機会の創出にもつながる
・副業や資格取得、スキルアップのための勉強に時間を使える
・兼業やボランティア活動に時間を使える
・居住地の制約がなくなり、地方に移住しやすくなる
■企業のメリット
・多様な働き方がSDGsの取り組みにつながる
・労働日数が減ることで人件費を抑えられる
・ワークライフバランスの実現がしやすくなり優秀な人材な確保につながる
・従業員の満足度が高まり離職率を抑えられる
■従業員のデメリット
・給料が減るケースがある
・出勤日1日あたりの労働時間が増える可能性がある
・企業によって週休3日制の運用方針が異なるため、希望通りの時間の使い方ができない可能性がある(副業禁止の会社も多いなど)
■企業のデメリット
・社内で週休3日と2日の人でコミュニケーション不足、情報共有不足が発生する可能性がある
・取引先が週休2日制の場合、取引先とのコミュニケーション不足を引き起こす可能性もある
・給与体系や人事評価の在り方に再考が求められる
・従業員の会社に対するエンゲージメントが下がる可能性がある

このように、「選択的週休3日制」について、政府が導入に向けた検討を本格的に始めていますが、多様な働き方を広げるメリットがある一方、給与が大幅に減少するのではないかなど懸念点も多く、慎重な議論が求められています。


3、「休みを増やす」と「生産性を上げる」動きはセット

実際に、コロナ禍でのリモートワークの普及とともに、

・家族と過ごす時間が増えたことで、生き方や働き方を考え直すきっかけになった
・通勤に費やしていたムダな時間を有意義に使えるようになった

など、働き方の変化に伴って、豊かな暮らしとは何か、人生の中で何を重視すべきかなど、改めて自分の人生を見つめ直した人が多い印象があります。
そんな中で、「休む日を増やす」「自由に使える時間を増やす」ことに対して以前よりも好意的に受け止めている人が増えていることも事実なのかもしれません。

当たり前ですが、従業員にとっては単に休みを増やすだけでは収入が減るだけです。企業にとっても労働者不足が叫ばれる中、週休3日制を実現していくには、生産性を大幅に上げていかないといけません

無駄な仕事を減らして、少ない人数で効率的に仕事をするような体制に変えないとそもそも実現不可能なはずで、週休3日制の導入とセットで労働生産性を抜本的に上げる工夫が必要なのは明白です。


4、制度導入がゴールではなく、風土を作ることがゴール

「働き方改革」を進める上では、「休み方」の改革もセットで行わなければいけません。長時間労働が常態化し、有給休暇の取得率も低い日本は、うまく休めない体質になっています。
うまく休めない理由の一つは、「気軽に休暇を取得できる雰囲気ではない」「他の社員の業務負荷が上がるため休むことを推奨されない」など、会社の風土によるものが大きいです。

リモートワークの導入一つとっても、業種や職種などの制約は別として、「上司が出社スタイルを押し付けてくる」「リモートワークをしているとさぼっていると思われる雰囲気がある」など、リモートワークが完全に普及しきらない理由の一つは、これも会社の風土によるものが大きいのではないでしょうか。

これと同じように、「選択的週休3日制」の導入にあたっても、制度や仕組みだけ整えても、それを取得しやすい雰囲気を醸成していかないと、確実に定着していきません

そして、風土を作るには複数の事例を作っていくことが必要です。

今回のように、「選択的週休3日制」を政府が骨太方針に盛り込み、企業に要請する形であるならば、まずは各企業がそれぞれのカルチャーに合った形で制度を導入し、その中で成功事例をたくさん生み出す必要があります。事例が増えれば、それが風土となっていくからです。成功イメージ、成功のゴールの定義はそれぞれあって良いと思います。

ですが本来ならば、どんな制度であっても、形から入るとか、名ばかりの制度を導入するのは意味がありません。

つまり、

時代の流れ的に「こういう制度、必要だよね?」という“手段”から入る

よりも、

「経営課題がこうだから、これを解決する案ないかな?」という“目的”から入る

方が本来は有効で、制度というのは、「入れればそれで終わり」とか、「入れるだけで何かを解決できる」というものではないのです。


今、各企業ですべきは、制度導入をするかしないかという議論よりも、まずは解決すべき課題を明確化し、その上で解決策を選択肢を広げて模索していくことであって、その延長線上に制度導入の有無をシンプルに判断することなのではないでしょうか。そして、何らかの制度を導入していくのであれば、それが社員にとって、ありがたいと感じてもらえる、使われる制度として機能していくための“風土”を作っていくことではないでしょうか。


#日経COMEMO #NIKKEI

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