自分の手で作ってみる楽しさ
この数年、仕事の傍ら、もしくは仕事の一環として、色々なものづくりに挑戦してきた。一番大掛かりだったのは、遠隔操作できる低速電気自動車「バトラーカー」だ。これは2019年の東京モーターショーに出展した。この2年間くらい続けているのが、丹波篠山で建設中のタイニーハウスだ。四畳半しかないのに中々完成しない。それから、半年前に手掛けたのが、子供たちがものづくりの凄技と触れ合う移動型ものづくりテーマパーク「アソビバ」だ。そして、今絶賛進行中なのが、昨年起業した会社「きづきアーキテクト」の京都神宮道オフィスのリノベーションだ。週末などの空き時間に少しずつ進めている。
バトラーカーは、オープンイノベーション、アジャイル開発といった「今どき」を全部詰め込んだような取り組みだった。モーターショーの開催から5ヶ月前、運転を車から離れたところにいる人に任せて、ゆったりと車窓を寛げる車を作りたいと、某有名デザイン会社の社長に話を持ちかけたのがきっかけだった。スケッチが作られ、あれよあれよという間に、外装は墨田区の町工場、内装は京都の家具屋、遠隔操作は大学の研究室とXRの超有名スタートアップ、、、などと仲間の輪が広がっていった。
ベース車両の選定から、出展まではおおよそ4ヶ月、怒涛の毎日を過ごした。凄技を持った人達が集まった時のパワー、その凄技に触れた感動は、忘れられない体験だった。自らも少しでも貢献できればと、簡単な作業から始めて、少しずつ大胆に難易度の上がった作業にも挑戦していった。モーターショーでは、バトラーカーは大人気だった。特に子供とハンディキャップのある方が喜んでくれた。あれから2年経って、まだ社会実装まで進めていないが、まだ志の火は消えていない。新たな計画を温めているところだ。
丹波篠山のタイニーハウス。伝統工法の棟梁から直々に教えていただくとても貴重な有り難い時間だ。この取り組みに惹かれた理由は、「使う材料は自らで調達すること」というシンプルなものだ。流石に森から木を切り出して乾燥するという工程は省略したが、それ以外はかなりのことを自分達で決めて、自分達でやる。このルールによって、小さな家なのに大変な作業の連続となった。建物の基礎に使う石も自分で拾ってくる。石の形状に合わせて柱の底面をノミで削る。外壁に焼杉を使いたければ、長い杉板4枚を筒状に結び、自分達で杉の表面を焼く。屋根に杉皮を使いたければ、森に入って剥いでくる。
どんどん作業は増えるばかりだった。でも面白いもので、作業の辛さとは裏腹に、一緒にやりたいという仲間がどんどん増えていった。これだけいるなら、あれもこれもやろうとエスカレートする。夢は膨らむばかりだ。色々な学びもある。外壁や柱で地面と垂直の向きに使う木材には上下があった。その木が森に生えていた時と同じ向きに使うのが良いという。節や年輪の形などから上下を判別する方法も学んだ。それから、道具だが、職人が使うものを使わせもらっている。最初はもちろんおっかなびっくりだった。切れ味は良いし、間違ったら家なので何十年も「あれはあの人がやったんだよ」といい伝えが残る。でも、それすら楽しみになっていった。何故なら、至る所に「あれ」、つまり「いい伝え」ができたからだ。全てはいい思い出だ。
ものづくりテーマパーク「アソビバ」は、凄技を持った中小ものづくり企業が8社も参加してくれた。平面に立体を浮立たせる金属加工の会社、驚きの空間を木材で生み出す木工会社、電子基盤とLEDでアートを生み出す電子部品会社など、分野の異なる方々がハーモニーを奏でる。共通の想いは子供達に「ものづくりの楽しさを伝えたい、ものづくりを憧れの職業にしたい」だ。私が子供の頃は、工場見学といえば何よりの楽しみだった。それを現代に甦らせるべく作ったのが「アソビバ」だ。現在、収益化の方法論を確立するべく、知恵を絞っている。それと並行して、VRの世界で先に実現した「アソビバ」を自治体やデベロッパーの方々に見て頂き、仲間を集めている。因みに、このVRは本取り組みに共感してくれた世界一のVRアーティストに描いてもらったものだ。
きづき神宮道オフィスのリノベーションは、こうした体験の中で、自然に始まった。ここは焼杉を貼ればオシャレになる。ここに木を渡してランプシェードをつけよう。洗面所にも木材でペーパーフォルダや小物置きを作ろう。すぐにやりたいことだらけになる。幸いにも近くにホームセンターもあったので、工具も少しずつ揃え始め、簡単なものから取り掛かっている。それ以降、篠山へ行く楽しみが増えた。タイニーハウスの作業の合間に、端材集めが始まったのだ。拾っては、「これはあそこに使おう。あ、ならば、持って帰る前にこの大きさに加工しておこう」と頭がくるくると回り始める。これまで学んできたことを活かそうと必死な自分にふと気づいた。
こんな体験をできていることは、とても幸せだと思う。そして、もっと色々な人に、人それぞれの体験の場があったらといいと思う。気持ちにゆとりが生み出せると思う。でも安心した。少し調べるだけでいくらでも、そんな場があることが分かる。「塗って貼って子供が職業体験」、「自由な表現楽しみ、読者と共創 「ZINE」の醍醐味」、「野外で工作、大人も子供も 自粛疲れに交流と癒やし」、「我が家をまるごとつくってみたら セルフビルドの楽しみ」。手軽なものから、本格的すぎるものまで様々だ。探せばまだまだ出てくると思う。
手を動かすことの楽しさ、動かすことで気持ちが晴れやかになることを実感してくれたのではないだろうか。日常や常識が異なる人との触れ合いを通じて、多様な価値観に触れることもできる。きっと、毎日を楽しく過ごしていくエネルギーも蓄えられると信じている。皆さんもぜひ、手を動かす楽しさを実感して欲しいと思う。
あと、話は変わるが、情報との向き合い方についても一言添えておく。日々流れてくるニュースを眺めて、世相を読み解くことも重要だが、「こんなことをしたい!」、「ものづくり体験をしたい!」と、やりたいことを実現する方法論を見つけるために、ニュースや記事を能動的に活用して欲しいと思う。「やりたいこと」の具体をキーワードにして、情報を探索する。こんな情報との向き合い方をぜひ実践してほしいと思っている。
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