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格差拡大の阻止には、意図的な仕組みが必要

6月末、米最高裁が一部大学による人種に基づく積極的な差別是正措置(アファーマティブアクション)を違憲と判断したことは記憶に新しい。アイビーリーグ8校の学長は遺憾を表明したものの、FTコラムニストEdward Luceは、これらトップ校によるアファーマティブアクションは結局、白人特権階級の再生産を助ける仕掛けだと論じている。

米国における経済・社会格差は、株主資本主義の助けを借りずとも自己拡大する傾向があり、回りまわって自ら国力を弱める原因となっていると考える。日本がさまざまな面で米国を手本にしながら経済再生を図ることは否定しないが、同時にいたずらな格差拡大にブレーキをかける仕組みを社会にあらかじめ埋め込む必要がある。

まず、格差はどうやって自己拡大するのか?格差が開くと、自分の属する経済的・社会的階級がはっきりするため、同じようなひとが集まる「バブル」に住む傾向が強まる。例えば、高学歴・高収入の港区住民の周りには、同じような属性が集まるわけだ。同質性はバブルの住民にとって心地よい反面、自分と異なる属性のひとたちとのつながりが希薄になり、社会から寛容さや思いやりが失われる。すると、「自分たちだけ良ければ」という意識が強まり、特権階級の意思を反映する政策が取られやすくなる。結果、格差はさらに開く。

実は、この循環は社会全体の活気を奪うばかりか、国家運営に不安定さをもたらす。例えば、サンフランシスコのような大都市は、90年代まではグランジやヒッピー文化が残り、いろいろな階級が入り混じることで都市の魅力が生まれていた。ところが、いまや一部テクノロジー企業の高給取りしか住めないほど家賃水準が上がり、都心からすっかり「雑味」が失われてしまった。格差拡大の結果、活気がなくなってしまったのだ。

さらに、過度な格差拡大は、相対的に下へ追いやられる大多数の憎悪を生む。バブルに住む上流階級の気が付かないうちに、社会の底辺にうずまく負の感情はポピュリズムをはぐくむ培地となり、分断が起こる結果、社会全体の安定が失われてしまう。実際に米国で現在進行形の事象である。

では、日本がこのような結果を招かないためにどうしたらいいのだろうか?意図的にバブルを壊す社会の仕掛けが必要だ。いろいろな家庭背景を持つ子供を受け入れ、等しく上質の教育を施す低コストの学校、開かれたコミュニティなどが該当する。都会で第一のキャリアを終えたサラリーマンが定年後に地方で活躍できる場所を作ることも有効だろう。

日本でもこのような動きはあるが、草の根でできることには限りがある。資本主義は格差を生み、さらに格差は自己拡大することから目をそらしてはいけない。実際、「総中流社会の日本」はもはや過去のものだ。手が打てるうちに、極端な格差拡大に抗うシステマチックな政策的取り組みが望まれる。

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