「誰と」働くかを、もっと多様に
「働き方」というと、どうしても自分のことを中心に考えてしまいがちではないだろうか。だが、多くの人は社内外を問わず「チーム」として他の人と一緒に働いているだろう。そして仮に1人でやっている仕事だとしても、相手には広い意味での「お客さん」がいるという点では、誰かと無関係に仕事をしているという人は皆無と言ってもいい。
そういう中でこれからの働き方の新モデルについて、私は「誰と」働くかという視点で考えてみたい。
働く自分も人間である以上、気が合う人や波長があう人など、人と人のことには「相性」というものがあることは間違いがない。そうした相性の良い人と働くことが素晴らしい体験になることは言うまでもないだろう。また、必ずしも相性が良かったり波長が合わなかったとしても、自分とは異なった視点を持っていたり自分にないスキルを持っている人と一緒に働くということも、優れた結果を生み出す要素であり、素晴らしい体験だと思う。
こうした、波長の合う人や、自分と異なる能力・特質を持っている人と仕事をすることは、有意義に働く上で大事な要素であるが、これまでは、そうした人たちの中に障がいを持つ人が入ってくることがなかなか難しかった。 例えば、車椅子に乗っている人だとした場合に、同じオフィスで働く場合は、スロープをはじめとするバリアフリーの環境がどうしても必要だ。また、出社してもらうことを考えた場合に、混雑した通勤電車に車椅子の人が乗れるのかといった通勤の問題も出てくる。物理的に可能だとしても心理的なハードルも問題になるし、それを軽視すべきではない。 このような理由から、一定以上の規模の企業には法律で障害者雇用が義務付けられているにもかかわらず、なかなか健常者が働くなかに障がいをもつ人が混じって働いているというケースは、外国人と一緒に働くケースよりもさらに少なかったと、自分の経験を振り返って感じる。法律の規定を満たすために、その会社のいわば「本業」とは異なる仕事で活躍している、というケースが多いのではないだろうか。
この記事にあるように、障がい者がテクノロジーによって失われた機能を取り戻すことも大変素晴らしいし、近未来において実現可能性は高いのだと思う。ただ、それを近未来とはいえ10年20年という時間をかけて待つ前に、働き方については、今回のコロナ禍で広く認知され体験されたリモートワークを活用することによって、職種によっては、すでに障がいを持つ人が一般の人と同じように働ける条件は整っていると考えられる。
冒頭のイラストのように、zoomをはじめとするオンラインミーティングは上半身だけが見える状態で行われるのが通常だが、そこで車椅子に乗っているとか、松葉杖をついているか、といったことは分からないし、また分かったところでミーティングへの支障はない。
新型コロナウイルスとの共生の時代を迎えて、働き方についてはすでに様々な議論が起きている。例えば、脱都心であるとか I ターンや U ターン、ないしはいくつかの仕事を掛け持ちするようなワーキングスタイルなど、「自分が」どう働くかについては、関心も高く、多くの取り組みが始まろうとしているし、また一部の人が実行に移し始めている。一方で、「誰と」働くか、ということについては、私が見る限りまだあまり議論の俎上にのっていない気がするのだ。
人生100年と言われている時代に、私たちは、今は特に障がいを持っていないとしても、これから自分が障がい者になっていく可能性がある。例えば、事故や怪我などもそうだし、病気や加齢によって身体の自由を失う可能性だって十分にある。その時に、自分に残されている能力を使うことができるかどうかで、その先の人生の意味が、大きく変わってくるだろう。
そう考えれば、障がいを持つ人たちと一緒に働くことを考えることは、自分が未来にどのように働くかということを考えることでもある。障がいを持つ人は、自分よりも先をいく経験をしているいわば「先輩」であると捉えられるのだ。冒頭で「誰と」働くかという他者の問題として本稿を始めたが、実はこれは未来の「自分の」問題でもあるのだ。
せっかくリモートワークが社会的に認知されてきたことでもあるので、企業の人事担当の方々には、こうした観点で障がい者雇用の可能性ということを改めて捉えなおして頂けるなら嬉しい。
この記事にあるように、障がい者支援に経営の視点を取り入れるということももちろん必要だが、さらに一歩進んで、障がい者も分け隔てなく一緒に働くというノーマライゼーションにまで踏み込める時代になってきている。 法律に定められた数を満たす(法定雇用率)ため、ということではなく自社の健常者と変わらない働き手の一部に、たまたま障がいを持つ人もいる、という発想で考えて欲しいのだ。そういう人がいることによる視点の多様性は、単に働く人同士のプラスを生むだけではなく、作り出される商品やサービスがより多くの人に受け入れられる可能性も高めるはずだと思う。
こうして障がいのある人もない人も当たり前に一緒に働けること、それが働き方の新モデルになったら、働き手も、社会も、もっと豊かになるのではないか。
もちろん、すべての障がいを持つ人がそのような形で働けるとは限らないと承知しているし、仕事によっては、例えばエッセンシャルワーカーの仕事の一部のように、身体に障がいを持つことが仕事をこなしていくうえで支障となり、リモートワークだけでは解決しない問題もある。
ただ、リモートワークを導入し常態化することで解決するような仕事もまだまだたくさんあるはずだ。少子高齢化で働き手が不足すると言われる日本の中で、どう働き手を確保していくかという観点からも、障がいを持つ人とともに働く、ということは重要な視点だと思っている。そういう中で、COVID-19の感染拡大が沈静化したことでリモートワークの可能性を再び閉ざしてしまうことは、こうした可能性をも閉ざすことになる。
・・・そんなことをある友人と会話していたら、乙武さんが書いていたよ、と教えてくれた。なにより当事者の言葉が一番重く説得力があると思うので、最後に紹介したい。