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SZAのアルバムから見る「アーティストの自由」

SZAが先週金曜日に、待望のセカンドアルバム「SOS」をリリースした。

圧倒的なストーリーテリングと楽曲のクオリティの高さで、現代のR&Bアルバムの最高峰の一作として世界に名を知らしめたデビューアルバムから5年、どのような作品になるのかファンたち(自分を含む)はこの瞬間を長らく待ちわびていた。アーティストとして、そして人間としての成長は歌詞や音楽性に現れるのか?アルバムが出る前から大いに話題になっていた。

蓋を開けてみると、「大人になった」自分がいまだに抱える絶望や失恋を乗り越えた先の虚無感、さらには憎しみからくる復讐や報われない孤独感など、前作の初々しさからの心境の変化はありながらも、「相変わらずだな〜」と思う部分がたくさんあった。そこで面白いのが、SZAの新アルバム、デビュー作のCTRLに比べて「共感できなくなった」という人をかなり見かけたこと。 友達ともこの議論をしたけど、彼女は「このアルバムつまらないって言ってる人は全員幸せな恋愛してるかそんなことが言える!!!!」ってキレてて、つい笑ってしまった。

「5年前のアルバムと比べて共感できなくなった」というのを、SZAの曲の良し悪しのせいにするのか、自分の成長が原因だとするのか。今回のアルバムが「はまらなかった」人は、「自分はそういうToxicな恋愛とか卒業してちゃんと安定した恋愛関係になってる」と発言している人も多くて面白い。

「こんなに自己肯定感低いのやばいし共感できない」っていう英語のコメントも見るが、そういう「誰にも言えないどん底の気持ち」を美しい曲に詰め込んで言語化・昇華できちゃうのがSZAの凄さだと自分は思うんですよね。

特に衝撃を受けたのはアルバム2曲目のKill Bill。新しい女に乗り換えた大好きな元カレへの嫉妬や悲しみ、自分への憎悪や孤独感、そして狂気。 「元彼のこと殺しちゃうかも、その次は新しい彼女」「1人でいるより地獄にいた方がマシ」 信じられないくらいえげつないリリック


好きな男のために「普通になりたい」と思って自分を抑制してしまった結果、その男には飽きられるし、残された自分自身は本来魅力だったはずの「特別さ」を失ってしまったことにようやく気づく、という胸が締め付けられるようなストーリーの歌詞。自分を愛せなかったことで自分を失ってしまった悲しみ。

SZAの曲に対して、「共感できる」と「共感できない」がかなりはっきり分かれるのは、こうして自尊心を下げまくってまで好きな人に愛されたいと思えるかタイプかどうか、というのが大きく関わってる。過激な行動に出てまで愛してほしい、という傷を抱えたタイプのリスナーにとってはかなりパーソナルだ。

「SZAの新しいアルバムについて。前作のCTRLは自身のアイデンティティ探し、自尊心の欠如、失恋などがテーマだったのに対して、SOSではそれらを全て見つけられた上でも「何かが欠けている」と感じる(その虚無感や絶望感)が語られている。人間としての心のあり方を描くことが、本当にうまい」

特に、上のこの一連の議論が興味深い。
Lordeが最新アルバムを出した時、たくさんの人が「ハッピーすぎる」として作品をネガティブに捉えた。Lordeの多くのファンが求めていたのはデビュー当時から「Lordeらしさ」とされていたダークで鬱々とした世界観で、今作の比較的ハッピーで明るい歌詞や曲調に衝撃を受けた人も多い。しかしそれは単にアーティストの人間としての変化であり、人間として生きている以上、成長も変化も当たり前に起きる。そして今回のSZAのアルバムに対して「(自分は精神的に健康だから)共感できない」とか「過激すぎる」とか「さすがに精神病みすぎ」として作品をネガティブに批判するのは、もはやアーティストの自由、そして表現の幅を狭めることに加担する行為と言っても過言ではない。そもそもSOSというタイトルなのに、絶望まみれの曲でなければ何を期待していたのか?と聞きたくなる、というツイートも。

さらに、このアルバムが出るまでにもたくさんのドラマがあった。本人はSNS上で「もっと早くアルバムを出したいのに、レーベルが出させてくれない」と何度か発言しており、ファンの怒りは彼女が所属するレーベルTDEの代表Punchに向けられた。このようにアーティストがレーベルやマネジメントに作品のリリースを捕虜に、クリエイティビティを抑制されてしまうケースも残念ながら少なくない。リスナーとして、ファンとして、このようなことも配慮しながら、アーティストたちが出す一曲ずつ、一作品ずつを「当たり前に存在するもの」としてではなく、その瞬間にしか生み出せなかった産物として愛していきたい。


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