大人気インフルエンサーブランドの矛盾と批判
お洒落なライフスタイルやファッションに憧れを持つZ世代にとって「神的存在」であるスウェーデンの26歳インフルエンサー、Matilda Djerf。いわゆる"scandigirl(北欧ガール)”の世界観の火付け役と知られる彼女だが、代名詞であるボリュームたっぷりの流し前髪を取り入れたブロンドヘアはダイソンエアラップの売り上げを爆発的に伸ばしたきっかけになったと言われるほど、その影響力は大きい。
その彼女が今、TikTokで批判を受けている。Matildaが2019年に設立したブランド”Djerf Avenue"は、「毎日着られる定番アイテム」を取り扱い、オーバーサイズの白いシャツやタック入りのワイドパンツなどが人気。2022年には3400万ドル以上の売り上げを達成した。消費者直販モデルとライフスタイルに焦点を当てたアプローチで瞬く間に成功を収めた。要は「Matildaが実際に着ているのと同じようなもの」が、そのブランドのサイトで手に入るのだ。しかし、TikTokでは小規模なクリエイター(インフルエンサー)たちが、”Dupe(そっくりアイテム)”としてアマゾンなどで買える、より手ごろな代替商品を取り上げた動画を投稿したところ、Matildaのブランド側から彼らのコンテンツに対して著作権侵害の警告申請を行い、そのことが今大いに議論されている。
Dupe、つまりデザイナー製品の低価格な代替品は、長い間存在してきた。しかし、ここ数カ月でTikTokで人気が高まり、その影響力について議論が巻き起こっている。デュープはより手頃な価格で、低予算の消費者にも手が届きやすい反面、デザインの盗用を助長し、ファストファッションの浪費を助長するという批判もある。『#Z世代的価値観』でも、このZ世代の間でのDupeブームについて一章を用いて解説している。
問題点としては、Matildaのブランドの商品自体が、特に革新的なものではなく、比較的どこにでも手に入るような「定番アイテム」であるという矛盾自体が指摘されている。そしてそもそもMatildaがインフルエンサーとしてキャリアを形成できたのは、他のデザイナーブランドや高級ブランドのデザインに似たアイテムを取り扱ったことから人気を得たという背景もあり、他のインフルエンサーが彼女と同じ行動をとることで罰則を受けるのは理にかなっていない、と批判されている。また、Djerf Avenueの商品の品質について、より手頃な価格の代替品と比較して品質が低いという意見もあった。
この論争を受け、マチルダは個人のTikTokアカウントを停止した。Djerf Avenueは声明を発表し、自社のデザインやプリントを使用した製品を販売するウェブサイトが急増していることに触れた上で、知的財産を保護するために行動を起こすに至ったと述べた。
この論争は、新しいものではない。インフルエンサーの名前を使って低品質のものを高値で売ったり、ファストファッション同然の品質の商品が有名ブランドで売られていることなど、ファッションやインフルエンサー業界でじわじわと話題になってきている問題だ。
Djerf Avenueは、類似製品を販売している製造業者ではなく、個人のインフルエンサーをターゲットにするという選択をとったため、反発を招いた。TikTokでは#djerfavenuedramaで見られるように、「弱小インフルエンサー」に対する厳しさに、彼女のファンコミュニティでは懐疑的なムードが広まったのだ。
そもそも、「誰もが憧れる、手の届かない夢のようなライフスタイル」を「売る」ことがインフルエンサーという存在の定義であるのにもかかわらず、より手頃な方法で似たような商品を買おう、と思う一般人に罰則を与えるのか、というファン(購入者)の気持ちと、ブランドの権威や著作権のうルールを確立させたいと思うブランド側で、意見が対立している。何よりもレギュレーションを嫌い、「自由」を重視するアメリカだからこそ、大いに議論される話題なのかもしれない。
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