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総選挙後のマーケット反応について

1週間を切った総選挙
10月27日の衆院議員選挙の結果を受けて各資産市場の値動きはどうなりそうかという照会が増えています。実際、類似の記事や報道は増えてきました:

現状、言えることは決して多く無いものの、分かる範囲で論点整理をしておきたいと思います。選挙戦の見通しに関しては、メディアごとに様々な見方が交錯しており、選挙結果自体に関しては「自民党が単独過半数(233議席)を割り込むものの、自公連立では過半数を維持」が予想の中心と言って良さそうです。要するに、このままいけば政権枠組みが辛うじて維持されるというのが政治面でのメインシナリオにはなります:

しかし、この辛うじてが曲者です。政治的なメインシナリオを受けて、株・債券・為替の3市場に対する見通しのメインシナリオはどうなりそうでしょうか。この点に対する見方は一様ではなさそうです

メインシナリオである「自民党・公明党が過半数維持(自民党単独では過半数割れ)」は石破首相の設定する勝敗ラインでもあります。この勝敗ライン自体は定番の設定で、直近4回の衆院選に限って言えば、この勝敗ラインが設定される中でも自民党単独で過半数が確保されてきた経緯があります。

しかし、今回、その点に対する期待は大きくありません。時事通信が10月11~14日に実施した石破内閣にとって初となる支持率調査は28.0%とかなり低い水準にとどまったことが話題になりました。これは2000年以降に集計された発足時支持率としては過去最低だそうです。一般的には危険水域と評される20%台からのスタートを踏まえれば、後述するように、もはや「自民党・公明党が過半数維持(自民党単独では過半数割れ)」すら盤石とは言えないという趣旨の報道も一部出ています:

元々党内基盤が脆弱と言われているところ、世論の支持も薄いとなれば、来夏の参院選を見据えた「石破おろし」はいつ何時でも起きかねないでしょう。言い換えれば、日本政局への不安を払しょくするには自民党単独過半数が必要であるものの、今回、それは叶いそうにないという整理になります。

金融市場の反応<メインシナリオ>
とりあえず「自民党・公明党が過半数維持(自民党単独では過半数割れ)」のメインシナリオが実現した場合、金融市場のファーストリアクションをどう考えるべきでしょうか。現状のところ、筆者は円安・株高・債券高(金利低下)を想定します。この点、いや、そうではなく円高だ、という記事も出ており、今日はこれが結構話題になっていました:

しかし、リスクオフの円高と言われたのはもはや昔の話であり、近年、日本への不安はストレートに円売りに現れやすくなっています。この記事中でもふくおかFGの佐々木さんは円高のファーストリアクションには言及しているものの、最終的には円安に収斂する見通しに触れています。現状、CFTCの円ポジションはネットロングですから、リスクオフでポジションの手じまいが起きるとすれば、それは円安を助長するはずです

こうした状況下、私自身、やはり選挙結果に対しては円安地合いに構えたいという立場ではあります。自公過半数を押さえることができても、自民党の党勢失速が悲観される中、為替の反応は円安に振れるという基本認識です。

一方、株や債券に関しては難しい部分が残りそうです。勝敗ラインが一応確保され、与党勝利とのヘッドラインが立つ中、株のファーストリアクションに関してはご祝儀的に株高を想定しておきたいとは思っています

ですが、金利反応次第ではその限りではない、という難しさもあります。債券市場の反応はかなり悩ましいところです。「自民党・公明党が過半数維持(自民党単独では過半数割れ)」という結果は見方を変えれば「公明党への依存度が高まる」という結果に読み替えられます。必然的に現金給付に象徴されるばら撒き型の拡張財政路線に歯止めが掛からないという思惑は強まりやすく、円金利が上昇(債券価格が下落)する展開も十分考えられます。既に公明党による低所得世帯への10万円給付案が取りざたされています:

現役世代としては、これで何度目か・・・と辟易せざるを得ない事案ですが、自民党単独での過半数が絶望視されている状況下、この案は与党内で現実味を帯びるはずです。かかる理解の下、金利上昇から株安というリアクションも十分想定されるところです

しかし、筆者は金利低下方向で予想はしています。辛うじて世論の信認を取り付けたに過ぎない石破政権からすれば、金利上昇は極力許容したくないというのが本音でしょう。金利上昇は変動金利による住宅ローンの返済負担を重くし、株安もセットで促すことになります。新NISA稼働を契機として資産効果が少しずつ拡大していると考えられる日本において、こうした相場変動は時の政権支持率に良い影響を与えないでしょう。かかる状況下、石破政権は緩慢な金融政策の正常化ペースについての希望を隠さないのではないかと思います。結果、金利は低位安定する、、、というのが筆者の予想です。

しかし、これらの見方については正直、自信はありません。繰り返しになりますが、上記の給付金や各種補助金のような目先の世論に迎合する拡張財政路線が露骨になれば、円金利は逆に上昇する可能性も残ります。その場合、株価は「円安だから上昇」とも言ってられず、連れ安になるリスクもありましょう。政治面でメインシナリオ通りに事態が進んだとしても、株や債券を中心として金融市場への見通しは流動的です。

こうした状況をまとめると「自民党・公明党が過半数維持(自民党単独では過半数割れ)」となった場合の金融市場のファーストリアクションに関し、円安は堅いとしても「金利低下&株高」と「金利上昇&株安」のどちらの可能性が高いのかは正直読みが難しいと思います。一応は経常黒字国の日本では財政懸念からの金利上昇はまだメインとはなりづらく、「円安・株高・金利低下」になるではないか・・・というのが筆者のメインシナリオとはしておきたいと思います。

金融市場の反応<リスクシナリオ>
もっとも、上記は与党が設定する勝敗ラインをクリアした上での出来事であるため、リスクシナリオではありません。リスクシナリオはそれすらクリアできなかった場合、すなわち「自民党・公明党(与党)でも過半数割れ」となった場合です。党内の反対勢力を押し切って石破首相は裏金問題に絡んだ議員を非公認としたわけですが、現状の世論調査を見る限り、国民は納得していないのでしょう。とすれば、可能性は高く無いとはいえ、「絶対にない」とも言えないのが与党過半数割れのリスクシナリオです。

厳密には大きく過半数割れなのか、辛うじて過半数割れなのかという「負け方」でも類別できそうですが、いずれにせよ日本の政局流動化を決定づける結果でもあるため、「負け方」はどうあれ自公過半数割れはそのままトリプル安になるリスクを警戒したいと思います。細かい話をすれば、「辛うじて過半数割れ」の場合、非公認候補の追加公認という形で乗り切る可能性もありましょう。そうなれば形式的に現行の政権枠組みは不変ということにもなります。しかし、その世間的なイメージはかなり悪そうです。

もしくは、追加公認ではなく一部野党(例えば国民民主党など)を取り込むという選択もあるかもしれない。しかし、その場合の財政・金融政策は一段の左傾化が懸念されるようになるはずです。それ自体はやはり円安を招くのではないかと思います。その際、「円安だから株高になる」と言っていられる状況でしょうか。そもそも株高は「制御不能なインフレの賜物」というネガティブな側面もあるため、その可能性もないわけではありません。

しかし、日本政局の不安定化が定着するという不安の中で株安が進むという可能性は相応に高いように思います。左傾化ゆえに緩和の継続、即ち債券高(金利低下)を予想することも可能ですが、この期に及んで加速する拡張財政路線をそこまで楽観的に評価するのは無理筋に思えます。自公過半数割れはトリプル安という想定を持っておきたいと思います。

いずれにせよ円安は堅いか
こうして見ると、総選挙のコンセンサスは「自民党・公明党が過半数維持」であるものの、この想定を少しでも上回るないし下回るような結果では市場が安心することはなく、資産価格の落ち着きどころが非常に不安定になりそうです。

ただ、こと為替市場において円高が起きるシナリオは自民党が単独過半数を獲得した上で、「石破カラー」であるタカ派的な金融政策観を実現できる場合に限られそうです。その意味で今回の総選挙は円相場の続落を警戒するイベントと筆者は整理してはいます。もっとも、「材料視されずに動意なし」も無い話ではなさそうですが、無風のケースは今回脇に置くとします。

円安を受けた株式市場の反応は一義的には株高で良いと考えるものの、日本売りの意味合いもあって円が売られる中、果たしてどこまで株高が期待できるのか。何より債券市場でも売り(金利上昇)が先行してしまえば株高は付いてこないでしょう。メインシナリオであろうと、リスクシナリオであろうと、トリプル安への懸念が根絶されない怖さが払しょくできない状況に一種の不気味さは覚えます。

総選挙や米大統領選挙を受けた金融市場のリアクションは流動的な部分が非常に大きく、確度の高い話ではありませんが、「危ないことがあったら、不安なことがあったら円高になる」という脊髄反射的な想定は過去のような定量的根拠を失っており、アップデートされていない見方にも思えます

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