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格差を抑えるには、サービス労働を変えなければならない

格差は、社会を不安定にし、階級闘争をもたらします。全ての人を不幸にします。

拙著『予測不能の時代』でも論じましたが、資本主義経済の下では、意識的に対策をしない限り、格差はますます大きくなる一方です。それは完全に自由な経済活動を選択する限り必然的なものなのです。

格差の拡大を避けるには、どうすればよいのでしょうか。
格差の大きな原因が、知識労働者とサービス労働者との間の生産性の乖離です。ここでサービス労働とは、物流の配送センタや配達、介護や看護、小売店の店員など幅広い業務が含まれます。

データやAIで武装した一部の知識労働者がますます富を集める一方で、マニュアルや時給などの標準化された業務体系に制約されたサービス労働者は、経済的な配分を受けず、その結果として社会的にも尊敬されにくい構造になっています。


格差の対策には、サービス労働の生産性を抜本的に向上することが必要です。

サービス労働と知識労働との本質的な差は、何でしょうか。

サービス労働者は一般に与えられた手順やプロセスに従って、仕事をこなすことが求められます。これはフレデリック・テイラーの「科学的管理法」に端を発する方法です。中核となるのは「標準化と横展開」です。これは20世紀の肉体労働や製造業の生産性向上に大きな役割を果たしました。その結果、今も「標準化と横展開」を生産性向上に有効であると信じられています。私は、これは既に時代に合わなくなったと考えます。

知識労働者は、自ら試行錯誤し「実験と学習」を行うことが求められます。そして、こののための目的や目標の設定、リスクの判断を行います。その結果にも責任を負います。目的は想定通りには成功しないかもしれません。しかし、必ず学習はできます。学んだことを活かし、それまではできなかった次の実験を行います。これを毎日繰り返し、倦まず弛まず目的に向かって前進し、さらに目的も見直しながら、進むのです。

この「実験と学習」の余地が「標準化と横展開」によって制約されているのが、サービス労働なのです。本来これらの多くのサービス労働でも「実験と学習」は大いに必要です。これを阻んでいる様々な要因を今後打破することが必要です。

これは、いわばサービス労働の知識労働化です。

この「実験と学習」が、許されているか、否かが、現代では、社会に一種の階級を創っています。目的を考慮し、状況にあわせた実験と学習の実践とその責任により、あらゆる人は社会的にも経済的にも尊敬を受けられるようにするべきです。

特に「実験と学習」が不要な仕事は、今後ますますコンピュータで置き換え可能な部分が増えてきます。これに対して、「実験と学習」に伴う目的の設定と責任こそが、人間に求められることなのです。そして、その責任にはそれに相応しい報酬と報酬の原資を与えるべきです。サービス労働を知識労働化して、責任に相応しい社会的な尊敬を与えるべきですし、報酬面でも報いる必要があります。

そして、自らのリスク判断の下で日々「実験と学習」を行い、これにより日々成長し、日々昨日の自分を越えていくことことが、幸せの根幹にあるのです。先が見えない状態でも、自分と未来を信じ、現実を受けとめて踏みだし、うまくいかなくとも立ち向かい進むことが持続的な幸せです。

サービス労働にこそ、実験と学習が必要です。
サービス労働の職務の枠組みが、その前提で再設計されることが必要です。
実験と学習が可能なマネジメントの仕組みが必要です。

それこそが、社会の最も重要な挑戦だと考えます。


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