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コロナ禍で変わる舞台芸術の「参加」の経験 ー演劇のアクセシビリティとAR

2020年よりはじまったコロナ禍において、ぼくたちは「移動」と「集い」の自由を制約されています。人が劇場まで足を運び、集まることで成立していた舞台芸術のかたちもまた、変容を迫られています。

たとえば、歌舞伎俳優の松本幸四郎さんらは、ZOOMに着想を得た「図夢歌舞伎」を制作・配信し、歌舞伎の形を新しく変化させています。劇団テレワーク、劇団ノーミーツなどの活躍も話題となりました。

今回ご紹介したいのは、こうした舞台芸術におけるオンラインの可能性です。

舞台芸術における「参加」とは?

ぼくは、舞台芸術における最大の魅力は、「参加」することにあると考えています。能動的・意識的な参加だけでなく、観客として席に座っているだけで「参加」になります。

たとえば、客席にいて不意に起こってしまう笑いやあくび、のめり込む姿勢の変化などが、舞台上の俳優たちに何らかの影響を与えていきます。人々の身体が集って影響を与え合うことを、演劇は前提としてきたのです。

このような観客の「参加」は、ZOOM演劇などにおけるチャットやSNSでのコメントによる参加とは異なります。チャットやSNSは意識的にするものであり、身体ではなく「言葉」によって行うものです。一方、劇場における観客は、言葉を発しなくても、あるいは意識しなくてもしてしまう「身体」によって演劇空間に参加しています。

このように、観客がその身体をもってオンラインを通じて演劇に参加することは、いかにして可能なのでしょうか?いま、現代演劇の世界でもさまざまな試みがなされています。

THEATRE FOR ALL

たとえば、2月にオープンする、アクセシビリティに特化したオンライン劇場『THEATRE FOR ALL』があります。ぼくは、このプロジェクトにおける「ラーニングプログラム」のアドバイザーとして参加しています。

Theatre for Allは、現代演劇、映画、ダンス、メディアアートなどさまざまな形式のアート作品を鑑賞することができるプラットフォームです。その特徴は「アクセシビリティ」に特化している点にあります。

アクセシビリティとは、もともとは「近づきやすさ」を意味する言葉です。車椅子の方々が利用しやすい建築や、手話通訳や音声ガイドを用意することで、多様な身体をもつ人たちがさまざまな場所や情報にアクセスできるようにしていきます。

Theatre for Allでは、現代的な舞台芸術や映画など、これまでどうしてもアクセシビリティが低くなりがちだった作品を、誰もが鑑賞できるかたちに開いていくことを試みています。

たとえばぼくも子育てをするようになってからすっかり劇場から足が遠のいていました。しかし、このオンライン劇場であれば、家にいながら上手く時間をつくってさまざまなアートにアクセスすることができます。このように、子育てや介護などで劇場に足を運ぶことができない方々のアクセシビリティを高めることにもつながります。

また、鑑賞前に視点を提供するトレイラーや、対話や表現活動を通じてアーティストと出会っていくワークショップなどのラーニングコンテンツも充実しています。

たとえば、1月23日に開催されるワークショップ「チェルフィッチュと一緒に半透明になってみよう」では、家の中にあるものや部屋の一部と身体を一体化させるようにして「半透明」を演じてみます。オンラインであり、部屋にいることを前提とした身体のまま、演劇の創作をしていくのです。

こうしてぼくたちがその身体を通じてアートにアクセスし、インスピレーションを生み出し、生活のなかで多様な他者とのコミュニケーションを変えていくことが可能になっていくはずです。

シアターコモンズ’21

また、今月末にチケット販売が開始される『シアターコモンズ'21』においては、「リモート参加」という枠組みが設定されています。

シアターコモンズは、2017年より「都市に新たなコモンズ(共有地)」を生み出すことを標榜し、演劇の知や発想を活用することで、新しい劇場の形を提示することを目指して、様々な演目が上演されています。

2020~21年にかけて、コロナ禍において「集うこと」を過度に制限されたなか、演劇はどのような可能性を提示することができるのかが問われています。その問いに対して、現実空間だけでなく仮想空間で対話し、集うことを試みる作品が多数上演されます。自宅にいながらヘッドセットで参加することができるのです。

たとえば、映画監督・作家の中村佑子さんは、「病の親を持つ子どもたち」をテーマとしたAR作品を制作されています。その紹介文を引用します。

中村は「病気の親がいると、家のなかに病や死の予兆がある。その予兆のなかで世界を感じると、高い解像度をもって世界の像が子どもに迫ってくる」と語る。観客は、かつてある家族が住んでいたであろう家を一人ひとり訪ね、ある子どもの視点から二重化された世界を体験する。

この作品が興味をそそるのは、家でヘッドセットを使って観ることによって作品の経験が増幅するであろう点です。自分の家にいながら他人の家に入っていく。何重にも現実が重なることで、新たな世界を体験することになるでしょう。

リモート参加チケットを購入すると、中村さんの作品だけでなく、その他のAR/VR作品はもちろん、アーティストトークなども同じチケットで視聴することができます。そのようなチケットの仕組みも珍しく、観客としては嬉しい限りです。

観客が参加することで芸術は持続する

2020年3月に、ドイツのモニカ・グリュッター文化相は「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と断言しました。

日本でも持続化給付金などのサポートの施策もありますが、なにより、観客であるぼくたちが芸術にさまざまな方法で参加することが芸術を持続させるでしょう。リモートでも、アートにアクセスし、アートからインスピレーションを生み出し、生活をより豊かに営めるようになっていくことで、芸術は文化をつくりだしていきます。

こうしたコロナ禍においても、ぼくたち観客が今だから経験できるアートにアクセスできるよう、果敢なチャレンジをされているアートプロデューサー、作家、マネージャーのみなさまを深くリスペクトしています。

みなさんも、ぜひ参加を。


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臼井 隆志|Art Educator
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