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休眠預金も投入されるインパクト投資による公的医療費の軽減策

 公的医療費を削減するヘルスケアサービスのように、社会的課題の解決に取り組む事業への投資は「社会的インパクト投資」として注目されている。内閣府と金融庁が行った調査によると、日本国内の社会的インパクト投資額は、2014年に170億円だったが、2017年には718億円にまで伸びている。

現在の主な投資家層として参加しているのは、都市銀行、生命保険会社、ベンチャーキャピタルなどだが、今後は全国の銀行や信用金庫に放置された休眠預金を社会インパクト投資に投入していくことが、政府の方針として計画されている。

これは、2018年1月に施行された「休眠預金等活用法」に基づくもので、預金者が名乗りを上げないまま10年以上放置されている預金は、民間の公益活動に活用することができるようになっている。休眠預金は、預金者が申請をすれば引き出すことができるが、口座で眠り続けている資金は社会問題の解決に活用しようとする取り組みである。

金融庁の統計によると、各金融機関に眠る休眠預金は、申請による払戻額を差し引いても毎年500~700億円が生じている。その資金が社会インパクト投資に活用されることの効果は大きい。具体的な休眠資金の運用は、社会事業を行う団体への融資や出資の形で行うことが検討されている。

具体的な社会インパクト投資の事業テーマとしては、糖尿病は高血圧など慢性疾患の重症化を防ぐためのヘルスケアサービスや、認知症の予防サービスなどが浮上している。

糖尿病が重症化すると、腎機能が低下して人工透析へと移行する確率が高くなる。日本透析医学会の統計によると、現在の人工透析者は全国で33.4万人いるが、その中の44%は糖尿病の重症化が原因である。人工透析にかかる医療費は、患者1人あたり約500万円/年と、非常に高額であることから、糖尿病の重症化を防ぐことは、公的医療費の負担を減らす上での重要課題になっているのだ。

また、認知症患者が増えることの社会的負担も大きい。慶應義塾大学医学部が2014年に発表した研究レポートによると、認知症患者にかかる社会的負担には、通院や入院による医療費、介護サービス利用による介護費、家族による無償の介護負担(インフォーマルケアコスト)の3種類があり、トータルで約14兆円ものコスト負担がかかっている。

認知症の予防策としては、簡単な計算問題や読み書き問題を解くこと、カラオケや楽器の練習などでも効果があることが実証されており、学習塾チェーンの公文や、カラオケ機器メーカーの第一興商なども、この市場に参入しはじめている。

これからの起業家は、単に利益を追求するだけでなく、社会問題の解決を事業テーマとして、かつ営利事業としても収益性が高いビジネスモデルを生み出すことが、投資家からの支援が受けやすくなる。もちろん、そこから株式上場を目指すことも可能であるし、社会問題解決型の企業は、市民からの賛同も受けやすく、クラウドファンディングとの相性も良い。

社会的なリターン(社会問題の解決)と経済的なリターン(投資による利潤)、両方の獲得を目指すことが社会インパクト投資の目指す道であり、今後は社会問題解決型の金融商品も、次々と登場してくることになるだろう。

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