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男女の賃金格差:豪政府機関が示すデータと分析の力

豪州の公的機関である職場の男女平等機関(Workplace Gender Equality Agency, “WGEA”)が従業員100人以上の5,000社規模を対象に男女の賃金格差データを公表した。2023年の賃金格差は19%という結果で、日本の21%(OECDデータ、2022年)よりやや低いものの、OECD平均の12%よりかなり高い数字だ。もっとも賃金差が大きい企業では73%という驚きの格差がある。

従業員100人以上という閾値(しきいち)を超える(日本では301人以上)大企業のデータ公表が義務付けられたのは2023年の法改正からだが、WGEAは2010年前半からデータ収集を開始している。2019年4月に私はシドニーのWGEAオフィスを訪れ、当時のディレクターにお話を伺う機会があった。

印象的だったのは、分析と結果の公表により、企業間または産業間の意識覚醒を促すというWGEAの明確な使命だった。例えば、豪州では鉱業と建設業はともに重要かつ伝統的に男性優位な産業として知られる。しかし、二つの産業間で、男女賃金格差には明らかな差がある―当時のデータでは、鉱業14%に対して、建設業は29%だった(2022-23のデータでは、鉱業は13%、建設業は28%)。2023年の平均値19%をあいだに挟んだ隔てがある。

WGEAの説明によると、鉱業は比較的早くジェンダーバランスの重要性に気付いた。女性の採用を増やし、ジェンダー多様性をマネジャーのKPIに採用するなど実行に移したそうだ。現場でも工具を天井からぶら下げて、力の弱い女性でも使いやすくするなどの工夫が見られたという。この工夫により、女性が働きやすくなったことはもちろん、全体の事故率が減ったそうだ。

ところが、このような改革が見られなかった建設業は、2019年時点では男女賃金格差が高止まりしたままだった。「それで何が悪い?」と企業側が開き直ることも考えられるが、WGEAも負けてはいない。セクター別で男性従業員の自殺率は建設業が最悪だと示し、男性優位な文化が実は男性にも働きにくい環境を作ると説明してくれた。WGEAは分析結果をもとに、建設業が鉱業の努力と実績から学ぶよう促していた。

このように、男女格差に関するデータはその報告を義務付けるだけではなく、分析結果を使って行動変革を促すことが大切だ。賃金格差には、水平方向―金融など男性優位の産業の賃金水準が高い―と垂直方向―同じ会社内でも、男性が昇進しやすいため、賃金が高くなる―という二つの要因がある。さらに日本の場合は、非正規労働者に占める女性の割合が高く、垂直方向のバイアスが効きやすい。これらの要因を原因分析し、それぞれの原因に対して処方箋を示すことが肝要だ。もちろん産業や各社の事情はあるものの、原因の分解と処方箋については、ある程度の一般化や類型化が可能なはずだ。豪州WGEAに倣いながら、去年から大企業における男女賃金格差の開示が義務付けられた日本でも、分析とアクションを進めたい。

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