電力サービスやコンテナ箱に学ぶ、デジタルトランスフォーメーション(日本を強靭化するDX #4)
デジタル・トランスフォーメションは「デジタル」の話でしょ?いえ、違います。事業改革の話です。
デジタル・トランスフォーメーションについては、連日のように報道があります。その内容は、本当に様々です。
これも、デジタル・トランスフォーメーションです。
これも、デジタル・トランスフォーメーションの話題です。そして、デジタル・トランスフォーメーションは、あらゆる領域で進行中で、まだ正解はありません。
しかし、デジタルという接頭語があるために、どうもデジタルに明るい人が、デジタル・トランスフォーメーション担当になることが多いようです。私は、そのことこそが問題だと思います。むしろ、デジタルに詳しくない人、そして改革したいと思っている仕事に詳しくない人ほど、良いデジタル・トランスフォーメーションについて、考え、提案できるチャンスがあるのではないかと考えています。
実際に、デジタル・トランスフォーメーションではないのですが、電力、そしてクラウド・コンピューティングの話。そして、海運業におけるコンテナの導入は、まさに当時のトランスフォーメーションでした。そのことには、学びが多く、多くのビジネス・パーソンが、デジタル・トランスフォーメーションについて、考えるべきだと、思うようになるのではないでしょうか?
そのことを、2つの本を紹介しながら、一緒に考えたいと思います。デジタル・トランスフォーメションは、デジタルを使った事業・仕事の変革であるという信念に基づいて。
発電機を自分で持つより、共有しよう。それが、クラウド・コンピューティングにつながる
まず、ご紹介したい本は、ニコラス・G・カー氏の「クラウド化する世界~ビジネスモデル構築の大転換」です。日本語版が登場して、12年がたちますが、内容は普遍的で色あせていません。
この中には、GEの発電事業の話が書かれています。トーマス・エジソンが作った発電機が、ある時期GEの主力製品でした。大きな工場を持っているお客様に、発電機を売り、その工場の生産計画が増えれば、2代目の発電機を売る。こうして、GEは発電機を売り、そして電力化された工場をGEは支援をしていました。それ自身は、当時、問題のある考えではありませんでした。当時は、まだ発電所がなかったので、電力は、工場を持っている会社が、自分たちで、発電して確保することが普通だったからです。
ある時、GEの社員が、面白いアイディアを思いつきました。多くのお客様のところで、発電機が眠っている。ピーク時には、すべての発電機が稼働するが、常に稼働ではない。そして、増産の時には、また発電機を買わないといけない。だったら、GEで、まとめて発電して、売ったらどうだろうか。
これが、まさにビジネスのトランスフォーメーションです。もちろん、実現には大きな課題があります。何しろ、GEの事業計画も変わります。しかし、この発電方法は、今でも私たちが使っています。つまり、成功したのです。電気が、水道と同じように、使いたいときに使える状態、「ユーティリティー」になったという、大きな変革です。
そして、このことになぞって、コンピューターを使いたいときに使えるようにしたのが、クラウド・コンピューティングです。これも、大きなトランスフォーメーションです。「クラウド化する世界~ビジネスモデル構築の大転換」では、電力のユーティリティー化とコンピューターのユーティリティ化を比較しながら、わかりやすく説明しています。そして、今のビジネスのヒントもあります。
さて、この2つに共通しているのは、トランスフォーメーションとは、大きな社会的な課題解決にもつながっている点。そしてそのトランスフォーメーションされた事業が、今も残るくらい、大きな変革だということです。
このような、アイディアを、デジタル・トランスフォーメションで、考えるのは、誰でしょうか。デジタル・エンジニアにもチャンスがありますが、経営者の方がより向いているのではないでしょうか。経営者は、課題発見、解決のプロなのですから。課題を見つけたら、経営者がリーダーとなり新しい解決方法を、デジタルに詳しい人と一緒に考えるのが、デジタル・トランスフォーメションなのです。
コンテナ箱も、船の荷裁きの問題解決策。そして、今では、箱の共通のサイズに
もう一つ、デジタル・トランスフォーメションのために紹介したい本は、マルク・レビンソン氏の「コンテナ物語 世界を変えたのは『箱』の発明だった」です。
皆さんは、コンテナを知っていますよね。貨物船、貨物車両、トレーラーに積まれている、あの直方体の金属製の箱です。実は、昔の貨物船には、このコンテナというものがありませんでした。結果、船の荷裁きは大変複雑な仕事であるばかりではなく、荷物も効率よく運ばれませんでした。
そこで、当時なかった「コンテナ」という箱を発明した人がいるのです。今でこそ、この「コンテナ」という箱は、運送業の標準の「箱」です。しかし、当時なかったコンテナを開発することで、周辺で開発したモノは、たくさんあります。まず、船のサイズを、コンテナに最適化しないといけません。コンテナを上下に動かす、クレーンも必要です。陸上輸送用のトレーラーも必要です。フォークリフトも、コンテナのために標準化されています。
しかし、このコンテナの発明により、船の荷裁きは大きく変わり、海運業も変わりました。これこそ、トランスフォーメーションです。なんと今では、運送と関係ない、コンピューターのデータセンターも、コンテナを標準的な建物の単位として、活用しているくらい、この変革は有効でした。
では、このコンテナは、「箱」の専門家によって開発されたのかと言えば、違います。海運を変えたい人が、キーパーソンです。
仕事を変革したい人が「デジタル・トランスフォーマー」
つまり、この2つの事例からの学びは、今私たちが取り組んでいる、デジタル・トランスフォーメションも、キーパーソンは、仕事を変革したい人であり、デジタルのエンジニアではない可能性が高いのです。
多くの企業で、デジタル・トランスフォーメションの担当を、情報システムン部門が担っています。しかし、それは正解ではないかもしれません。まずは、しっかり「見たくないけど」自社の課題を明確にする。そして、その課題を解決したいか、議論する。そして、その課題の解決方法を議論するときに、多くの専門家、ここにはデジタルの専門家を入れる。これが、正しい取り組みなのでしょう。つまり、仕事を変革したいっ人=経営者が「デジタル・トランスフォーマー」なのです。
まちがっても、今の仕事にデジタルを混ぜることではなありません。味は変わりますが、後世に残る、「おいしい一皿」にはならないのですから。