各SNSを「キャリアのポートフォリオ」として考える思考
0. 新経済圏としてのSNS
先日友人と話していると、「あまりにもたくさんSNSがあって、何をどういうふうに使えばいいのかわからない」と、嘆息とも愚痴ともつかぬ相談を受けました。彼から見ると、僕は割とちゃんとSNSを「使えている方」に属しているようなのです。僕自身はSNSは苦手だし、あんまりうまく使えていない気がしているのだけど、確かに、ある程度は使えているように見えるのかもしれません。
ただ、それは楽しみでやっているからではなく、僕の場合は、フリーランスとしてSNSはもはや「仕事場」に近い感じでやっているので、対応せざるを得ないというのが本音のところ。そしてそのような感触は、最近ではさらに高まりつつあります。先日出た日経の記事を見てましょう。
このようなクリエーター・エコノミーの広がりの背景には、コロナ禍で収入手段が限られてしまったクリエーターの存在がある一方、ファンやフォロワーから直接支払いを得ようとする「広告離れ」の要素もありそうだ。「稼げるクリエーター」の争奪戦と、広告にとどまらない「稼ぐ仕組み」の開発ラッシュが、新たな経済圏を盛り上げそうな気配だ。(上記記事より引用)
この引用にもあるように、コロナ禍がきっかけに、従来の経済圏の一部は機能不全を起こし、フリーランス的な働き方、特にクリエイター界隈には、むしろチャンス拡大のタイミングが訪れつつあり、それはもはや「新たな経済圏」と言えるものでしょう。このような経済圏におけるフリーランスとしての立ち位置を、先日僕もこの記事で少し考察しました。
こうした「自分で自分の仕事を名付けるという生き方」、つまり本業フリーランスと言えるような働き方が可能になったそもそもは、SNSが老若男女津々浦々にまで普及したからですし、その人の運用次第で、個人がこれまでの大メディアと同じくらいの情報発信力を持てるようになったからです。僕自身のことで恐縮なんですが、例えば僕のTwitterだと、だいたい月の平均的なインプレッションは500万程度で、何か一つバズが起こると、1000万インプレッションを軽く超えてきます。
1日で平均10万アカウント程度には情報が届くということです。これは端的に、驚異と言っていいし、僕程度でこれなら、例えばヒカキンさんのような超巨星クリエイターの場合だと、一ツイートで全国民にまで一瞬で情報を届けられるようになるでしょう。一昔前では考えられないほどの状況が、「個人」にまで降りてきています。
でもですね、いつも悪い癖なんですが、僕はこういうことを分析して状況を語るのは得意なんですが、あまりノウハウを書かないんですね。どうすればバズるとか、どうすればフォロワーが増えるとか、そういう仕事とかお金とかに直結しそうなやり方。言い訳をさせてもらうと、正直僕にはそれはよくわからないんです。上の画像にあるバズったツイートは、多分僕のこれまでのキャリアの中でも最も安い機材(iPhone)で撮影した写真で、投稿までせいぜい3分と言ったところでした。
どこでバズが起こるか、そしてそのバズがきっかけで人が増えるかは、突き詰めると「神のみぞ知る」というところだと思うんです。
でも、各SNSをどのように使うべきなのかは、ある程度わかってきたところがあるので、それを今日は書いておきたいと思います。結論を先に書いておくと、「株式のポートフォリオみたいに、各SNSを分散投資的に運用すること」です。
では以下から各論です。
1. とりあえず使ってみる、なるはやで
まず最初に大事なことなんですが、SNSというのは、初期の参加者、つまりアーリーアダプターが、先行者利益を大きく得ることができるシステムだということを認識することが大事です。これはSNSというメディアの特性からしてそうで、SNSは参加者を横に繋げていくシステムです。アーリーアダプターたちは、初期の数少ない状態で参加しているために、その繋がりは密になる可能性が高く、そこで出来上がるコミュニケーションは、その後のそのSNSの文化的な側面を決定づけるような方向性を作り出します。
そしてそれ以降の参加者が増えていったときに、行動の参照枠として常に見られるのは、その先行者たちの行動であり、個性であったりするということなんです。自然とアーリーアダプターたちはそのSNS上における主流を形成し、フォロワーも増えやすい状況を獲得します。一言で言うと、新しいSNSの初期は、参加が早ければ早いほどに、ネットワーク効果の恩恵を受けやすい状況になるということなんです。
新SNSが出たときに、狂乱のような状況になるのは、そのような特性をすでに多くの人が知っているからです。クラブハウスの熱狂なんて、まさにその典型例でした。
ただ、これは「新規のSNS」の話でしょうと思われる方も多いかもしれません。確かにメインストリームのSNS、例えばTwitterだったりインスタグラムというのは、今のところもはやライフランやインフラとして機能し始めているので、今やろうが1年後にやろうが、条件も状況もたいして変わらないように見えます。でも皆さん、自分を振り返ってみて欲しいんです。だいたい「今やらないSNS」は、「永遠にやらないSNS」になりがちなんです。もし皆さんのうちに、「このSNSやってみようかなあ」と思っているようなものが一つでもあるなら、今すぐ始めるのがいいです。
というのは、SNSというのは、SNSなんて呼ぶから何かあやしげな雰囲気を漂わせる、ガジェ好きのギークが最初に騒ぐもの、みたいな印象を持たれがちですが、根源的にSNSとは、広義の意味での「コミュニケーションの欲望」の可視化なんです。だからこそ、SNSへの参加を遅らせたり、そこに参加しないという選択は、端的に、社会における自分のプレゼンス(存在力とでもいえましょうか)を失わせる可能性が生じてしまう。そのような状況は、SNSを仕事で使うことになるフリーランサーには、ほぼ致命的な状況になり得ます。
もちろん、SNSを全く必要とせずに、自分の身の回りの繋がりや、あるいは作ったものの力だけで世の中に出ていく人々もたくさんいますし、それはとてもすごいことではあります。でもSNSって、最初に書いたように、うまくいけば自分の持っている情報を圧倒的なシナジーで拡散してくれる、情報伝達ツールとしては現状最強の効率を持った存在です。使わないのは勿体無い。
2.合わなかったら寝かせておく
そして次に大事なことは、上に書いたことを真っ向矛盾しているように見えることを書きますが、「合わなかったり不要だと思ったら、消さずに寝かせておく」です。これが割と大事なんです。
クリエイター時間もリソースも限られています。自分のやるべきこととの齟齬を感じたら、あまり拘泥せずに、とりあえず放置しておくことが大事です。SNSは個人が持つメディアとしては強力なパワーを持っていますが、メディアとはあくまでも伝達するためのツールであって、コミュニケーションするための道具にすぎません。SNSが目的になってしまうと、本末転倒な状況に陥ってしまいます。(メディア論的には、実はコミュニケーションやメディア自体がメッセージであるという議論もできるんですが、それはまたいつか別の機会に)
伝えるべき本体は、例えば僕のような写真家だったら写真でしょうし、ビデオグラファーだったら動画でしょう、ライターだったら文章でしょう。他にもそれぞれの職業に必要な成果物を作り出すことが「本来リソースを注ぐべき対象」です。そのためにも、合わなかったりしっくりこなかったり、単純に面倒だったりするSNSは、寝かせておく。例えば僕のクラブハウスのアカウントは休眠状態ですし、他にもTikTokやウェイボーは完全に放置状態ですし、なんなら本来頑張ってやるべきインスタグラムもせいぜい月に1回か2回しか投稿できてない。
そしてもう一つ大事なのは、作ったSNSアカウントは消さないってことです。もちろん、セキュリティ的な不安があるようなサービスだったり、完全に終わったことが見えているSNSは捨ててもいいですが、新興のサービスや、逆にインフラ化しているSNSのアカウントは、おいておく方がいいです。僕の場合も、何か必要があったらチャンネルとして開ける程度にはそれぞれにフォロワーもいてくださるので、アカウントは維持して、休火山のように万一の噴火の時までおいておきます。
そのように寝かせておいても、例えば過去遺産を勝手に見つけ出してフォローしてくれるかもしれない。例えば完全放置状態と書いたTikTokですが、特に何もしていない現在でも、一月に数百人程度フォロワーが勝手に増えていってくれてます。
https://vt.tiktok.com/ZSJN576Qu/
そんな状態で放っておく間に、ある時そのSNSは主流のインフラに食い込んでくるかもしれない。そのときに、寝かせておいたアカウントが役に立つ可能性がある。株でいうところの「塩漬け」と「長期保有」のちょうど中間点のような、生暖かい目線でそのアカウントを持っておくことをお勧めします。
3.「SNSのポートフォリオを形成する」
さて、ここまでが実はこの記事の長い長い前フリだったりします。上の最後の段落で、あえて「塩漬け」と「長期保有」なんていう、株の用語を出してきたのも理由があって、僕は今後は、「SNSをキャリアにおけるポートフォリオとして扱う」という観点が必要だと思っているからです。
例えば金融資産では「リスクヘッジ」という考え方は誰もが念頭に置くだろう概念の一つです。日本人だと日本の株を金融資産として持つことは至極当然に見えますが、日本を世界という基準から見たときには、潜在的なリスクがあります。この数十年単位で、日本はほぼ賃金が上がっておらず、世界を基準に見れば日本は基本的に相対的なデフレ状態であることはよく言われます。
そうした状況で、例えばアメリカや中国の株をリスクヘッジとして持っておく、なんてことが考えられるわけです。今後、日本がもっと国家として先細りしてしまう状況に備えて、アメリカや中国といった、まだ強くなりそうな国家の企業へと、今の時点で投資しておくということです。リスクヘッジとは、来るかもしれない潜在的なリスクを相殺するような行動を、未来を予見してやっておくという考え方です。
そうやって、例えば日本株30%、アメリカ株30%、中国株15%、東南アジア株15%、ETF10%、みたいな感じで自分の資産を分散して持つことは、金融資産では当然の行動で、上のような分散して組み合わせている自分の資産状況を「ポートフォリオ」と呼ぶわけです。
このマクロ経済的な動きへの対応を、我々のような個人、つまりミクロの経済の単位にまで適用できる状況が起きているのが、つまりSNSと、それが作り出す新経済圏というわけです。
乱立するSNSもまた、金融と同じく、キャリアに潜在的に含まれているリスクを軽減し、ヘッジするために、それぞれの特性や得意分野を考えて、リソースを分散して持っておくことが重要になるということです。つまり、「最適なSNSポートフォリオを組む」という意識を持つことが、これからの20年代のSNS経済圏を生き抜くときのキーワードになるかもしれないということです。
例えばTwitterは今現状では汎用性が最も高いインフラとして機能しています。その意味では、アメリカのGAFA株を持つようなものです。基本的にはS&Pを牽引する形で資産が増えていく、あの偉大なるIT巨人の株をポートフォリオに加えるように、Twitterはやはり「SNSポートフォリオ」からは外せない。でもGAFA株はすでにもう単価が高くてバシバシ買い増しできないので、投資効率は実はそれほど高くない。Twitterもすでにみんなが使っているので、今から参入しても、若いクリエイターにはチャンスがないかもしれない。ここにリソース全振りしてしまうのは、勿体無い。そこで新興国のIT産業あたりに投資するわけです。例えば15年前のテンセントなんて、まさにそんな株でした。
でも、15年前にテンセントやアリババの今の状況を見抜いていた人なんて、ほとんどいなかったはずです。そう、新興国への投資は、博打とは言いませんが、お金が紙屑になるリスクも多分にあります。例えば今、Twitterやインスタグラムを全部やめて、クラブハウスに全力で向かうのは、それに似たような行為です。あるいはまだご存知ない人も多そうな、「インスタグラムの再発明」と呼ばれているDispoに全力投資もリスクが大きい。でももしかしたら、クラブハウスもDispoも、今後もっと伸びるかもしれない。その需要が出たときには、自分の先行投資の額に基づいて、リターンがグッと大きくなる。近頃ではまさにTikTokがそういう状況でした。誰よりも早くTikTokを「若い女の子が変な踊りを踊ってるSNS」とバカにせずに、初期参入したクリエイターたちは、巨大になったTikTok商圏を利用して、自分のプレゼンスを一気に拡大できたはずです。
このようにして、Twitterやインスタグラム、Facebookやウェイボー、noteやcakes、クラブハウスやスペース、DispoやTiktok、VoicyやStand.fm、さまざまなSNSやメディアプラットフォームが林立するその全てを、
1.まずは試してみて特性を把握する
2.合わなかったり億劫だったら休眠させておく
3.自分にあったSNSに分散的にリソースを投入する
そうやって、「SNSポートフォリオ」として完成させていくことが大事ではないかなと。
しかも、これらの全ては、日々連動して動いています。日経がその前日のアメリカの動きに連動して動いているように。いい意味でも悪い意味でもシナジー効果が発生するのも、まさに「SNSポートフォリオ」の醍醐味。単独のSNSだけではなく、複数のSNSのシナジー効果を見据えることは大事です。
今はまだそういうシナジー効果のような連動が見えないという人もいるかもしれませんが、noteがまさにメディアプラットフォームとして、旧来の大メディアや、あるいは競合に見えるようなメディアでさえ、自らのプラットフォームを提供してイベントやマガジンをやっているのは、この「メディア間のシナジー効果」が、クリエイターやフリーランスの仕事を、現状視点では考えられないほどにスケールする可能性を秘めていることを、すでに運営側が見抜いているからです。
会社の四季報を読んでその会社の特性や立ち位置をよく分析するのと同じように、SNSも含めた各メディアプラットフォームの持つ潜在的な力を見据えて、今後の成長に自分の仕事を載せること、しかも各SNSのシナジーを取り込みながら。2020年代はそういう考察が必要という意味で、確かに「SNS新経済圏」と呼べるような世界になっていくのかもしれませんね。