祭りの原点へ。阿波踊りとは「our踊り」

コロナ前からいろいろゴタゴタがあって、2020年はコロナで中止となってしまった徳島の阿波踊り。今年はやってほしいなあと思う。観光のための踊りじゃなくていいから、自分たちのための踊りという原点に戻ってやってほしい。阿波踊りは「our踊り」なのだから。

ちなみに、阿波踊りは男踊りと女踊りという区分けがある。そんな言葉を書くと、一部界隈の人たちがまたムキー!となりそうだが、そんなイチャモンは無視する。個人的には、「女踊り」の美しさに惚れ惚れするものがあるのだが、あれは昔からそういう区分けがあったのではなく、意外に最近で戦後になってからだそうだ。元々は男女とも同じ踊りだった(今の男踊り)し、個々人が好き勝手に踊るものだった。

なぜ今の女踊りが発生したかというと、踊り手のための踊りから、見せるための踊りに変化したからではないかと思う。

いわば、男踊りが個人芸で、特に決まった振付を周りとあわせるものではないのに対して、女踊りは集団で一糸乱れぬフォーメーション踊り(アイドルグループのような踊り)となっているが、それは観客にとって「見ごたえのある感動コンテンツ」になりえるのだ。

そう考えると、アイドルグループのダンスの原点は、この戦後に発明された阿波踊りの女踊りにあるのではないか、とも思う。

もっといえば、時代がさらに進んで、個々人が勝手に踊っていた1980年代のディスコ時代(キサナドゥ・ナバーナ・マハラジャ初期)から1990年代には皆が扇子をもって同じ踊りをするジュリアナ時代へ移行したのも、なんとなく阿波踊りの変遷を見ているようだ。ジュリアナの踊りも見せる踊りだろう。

動画を見ると一層それがわかる。女踊りによる総踊りはまさに魅せるための踊りである。以下の動画の8分過ぎは圧巻。壮観だし美しい。


とはいえ、女性が全員、女踊りをするわけではない。現在も「女法被踊り」という形態で、女性が男踊りのように踊る例も多い。

しかし、動画をご覧になるとわかる通り、女法被踊りも一糸乱れぬフォーメーションの踊りになっている。

男も女も見せるための踊りに変化しているといえるだろう。

見せるというのは何も観客だけを対象としているのではない。阿波踊りに限らず、祭りの踊りとはそもそも男女のまぐわいの前戯のようなものだ。異性に対して、逞しさや美しさを踊りという形で見せつけることで男女が結び付くという役割もあったろうと思う。

見せるための踊りとはいえ、踊る側も振付をあわせて踊るという行為は気持ちがいいものだ。ダンスをしたことがある人はわかると思うが、同じ振付で大人数で踊るという行為は、人間にとって実に多幸感を味わえる行動である。詳しい心理メカニズムはわからないが、そういうものらしい。だから、カルト宗教的なものとかはそういう踊りを踊らせて洗脳したりする場合がある。お気をつけていただきたい。


「踊る阿呆に、見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損、損」といわれる通り、本来はなんでもいいから踊ればよかったのだと思う。見るより踊れ、と。

冒頭の日経の記事で徳島市の内藤市長はこう語っている。

「阿波踊りの原点に立ち返りたいとの思いがある。祭りの成功は興行としての赤字・黒字だけでは判断できない。(中略)地域全体にとって欠かせないソーシャル・キャピタル(社会資本)の観点で、踊り事業の全体像を見直すときだ」

その通りだろう。儲けるために踊るのではない。気持ちいいから踊るのである。観光客が集まってくることや、見る者に感動を与えるのはあくまで結果であり、本来の目的ではない。にも拘わらず、本来「踊りを楽む」という目的を見失い、結果としての付属の観光収入などが目的化された挙句、コロナ前の阿波踊りのゴタゴタが生じた。

本来、目的でないことが目的にすり替わってしまう例は至るところで起きている。金を貯めるのは、本来使うための手段であったはずなのに、いつしか金を貯めることだけが目的化し、経済を回す道具でしかなかった金が使われずコレクターアイテム化していることもそうだろう。目的が見失われ、単なる道具の奴隷化してしまったようなものだ。

祭りに成功も失敗もない。そんなもんは目的じゃない。今ここで皆と祭りを行うことが目的でよいのだ。それ以上でもそれ以下でもない。そして、こんなコロナ禍だからこそ、祭りをすること自体に価値があるのだと思う。

ぜひ今年の阿波踊りは原点に戻って地元の人々に楽しんでもらいたい。応援します。



参考論文『「阿波踊り」における「女踊り」の確立と「女の男踊り」の台頭
/小林敦子』http://www.danceresearch.ac/buyougaku/2016/2016_009_017.pdf

いいなと思ったら応援しよう!

荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。