観光で地方創生を考えるなら、国内にモデルケースを求めてはいけない
食と観光の都市である大分県は、全国的には別府と湯布院くらいしか知名度がないが、ほぼ県内全域にわたって多様な観光資源に溢れている。夏にはサーフィンやキャニオニング、キャンプにイルカと一緒に泳ぐなどのアクティビティを楽しむことができ、冬にはスキーに温泉、樹氷や霧氷を楽しむことができる。1年を通して遊び倒すことができるコンテンツを持つ。
そんな大分県は、今週末(3月30日・31日)、佐伯市で「さいき春まつり」を開催している。見事な桜並木を楽しめるだけではなく、江戸時代の菊姫伝説をなぞった「菊姫行列」に「大名行列の練り歩き」、竹灯籠でライトアップされた夜桜と武家屋敷見学と素晴らしいコンテンツが揃ったお祭りだ。
残念ながら、佐伯市は観光地としての知名度はほとんどないと言って良い田舎町だ。しかし、佐伯市は「佐伯藩」というブランドを立ち上げ、市民が一丸となって、江戸時代から続く風情溢れる城下町と漁師町の新鮮な魚介類を武器に地方創生に力を入れている。筆者は、東京から大分に移住してきて2年目になるが、佐伯市で開催されるイベントの質の高さや食の豊かさに驚かされてばかりだ。
そんな中、ダイヤモンド・オンラインで大分県の由布院に関する記事を見つけた。大分県民としては、地方創生のモデルとして由布院を取り上げてもらったことに嬉しさを感じる。
しかし、その反面、由布院の抱える問題の大きさに、この記事を素直に喜べない自分もいる。というのも、この手の地方創生の話題は「小さな成功」で帰着してしまいがちで、本質的な社会問題に目を向けられることが少ないためだ。
地方都市の現状はシビアだ。「日本創成会議」が指摘した消滅可能性都市は全国で896自治体ある。由布院のある由布市は含まれていないものの、大分県内の「消滅可能性都市」は61.1%に上り、決して対岸の火事ではない。「人口減少」「高齢化」「税収の減少」「新産業創造」に寄与しない地方創生は、鎮痛剤だけを投与して、治療をしない癌患者と同じである。
また、観光地としての由布院にも課題がある。それは、観光産業としての収益性の問題だ。日本各地の観光地が、国内旅行客だけではなく、インバウンド観光客増加の恩恵を受けている。由布院も例外なく、インバウンド観光客が増えているが、手放しで喜べる状況にはない。その理由は3つある。
1つ目の理由は、平均宿泊日数の短さだ。平成29年由布市観光動態調査によると、由布市に1年間で訪問する観光客数の総数は約386万人だ。その中で、日帰り観光客の人数が約305万人であり、宿泊客は約81万人しかない。また、外国人観光客だけに絞ってみても、約47万人の中で宿泊客は約12万人しかいない。つまり、由布院は日帰りだけで十分だと判断されており、長期滞在して九州観光を楽しむ拠点としても使われていないという現状がある。
2つ目の理由は、消費金額の少なさだ。同調査は、1年間の観光消費額を約133億円と算出している。これでは、一人当たり消費額が3,447円しかないことになる。しかも、1年間の観光消費額は平成19年の約170億円をピークに減少している。
トリップ・バロメーターによる世界調査(2017年)によると、海外旅行での予算の平均が約25万円であり、うち宿泊費が約10万円、食事代が約3万5千円、アトラクション代が1万8千円で、買い物代が2万5千円だ。以上のことを踏まえると、由布市は観光客に消費してもらうコンテンツ力が不足していることがわかる。
3つ目の理由は、グローバルブランドの弱さだ。日本国内では、別府・由布院・黒川と九州の3大温泉地として知られている。しかし、海外での知名度は低く、湯布院でどのような楽しみ方ができるのかを想像させるだけの情報発信もできていない。
そもそも、日本人は温泉が海外の観光客にも魅力的なコンテンツになると思っているが、その認識は必ずしも合っているとは言えない。ロイター通信によると、世界の温泉観光地TOP10で日本の温泉地は群馬県の宝川温泉だけが入っている。フランスやドイツ、ニュージーランドの温泉の方が、外国人にとっては魅力的な温泉地だ。Tripsavvyのランキングも同様で、TOP20でランクインしている日本の温泉は宝川温泉のみだ。
問題解決思考の理論に基づいて考えるのであれば、観光産業で地域創生を目指すのであれば、地方の観光地が抱える社会課題の解決に目を背けてはいけない。そして、残念ながら、日本国内の現状でモデルケースとなる事例を探すことは難しいだろう。もしあったとしても、そのような希少な成功例を探す労力があるのであれば、問題解決のためのプロセスにエネルギーを割いてほしい。
産業組織心理学の分野では、創造的問題解決思考法やデザイン・シンキングなど、社会問題を解決するためのアイデアを考えるのに有効な手法が数多く開発されている。それらの中に「成功事例を探して参考にする」ことを奨励している理論はほとんどない。問題の解決方法は、個人やチームの試行錯誤の中にあり、創造性が最大限発揮されてこそ生まれてくるものだからだ。
地方創生を目指すのならば、成功事例を追う旅を辞め、地元の力を信じ、創造性を最大限発揮して欲しい。
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