デジタルトランスフォーメーション(DX):現場で感じる3つのわな
少し下火になったとは言え、産業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)の掛け声はいまだに大きい。政府や東証も後押しする。特に日本企業はオペレーションをデジタルで仕組み化せずに暗黙知と人手に頼りがち、これが万年の高コスト体質につながるという自己反省から、DXに取り組む企業は多い。しかし、改革をお手伝いするコンサルタントの立場から見ると、DXの成功はなかなか狭き道だ。その理由として、現場で感じられる3つのわなを論じたい。
まず、改革を進める目的 ――「何のためのDXか」ぶれるケースが散見される。DXによってクライアントはより高い付加価値を得ることはもちろん、経営陣にとってはリアルタイムのデータ経営が可能になり、現場はつまらない作業から即解放されるといった全方向バラ色の夢を描く誘惑は大きいが、これは危険だ。例えば、デジタル化によって、現場は楽になるどころか新しい働き方に慣れる苦労があったり、局所的にすでに改革を進めている部署や地域によっては、天から降ってきた「全社」DXのおかげで歩みが後退すると感じられたりすることがあり得る。したがって、自社にとってDXの一丁目一番地となる目的を明らかにして全社で共有し、払われる犠牲に対して丁寧なコミュニケーションがないと、道半ばの挫折は不可避だ。
次に、目的が定まったとしても、推進力は組織的な手当てに左右される。DX担当役員がほかの経営陣から孤立したり、必要な人員や予算をもらえなかったりすると、複数年かかる改革が続けられるわけがない。「DXのためのDX」ではなく、あくまでもビジネスのためという目的浸透とトップからの理解と支援が欠かせない。現場の経験では、新設されるDX組織が既存のIT組織と摩擦を起こすケースがよく見られる。どこまでの役割分担の線引きは難しいが、二つを同時に管掌するリーダーを置き、あえて線引きせずにプロジェクトベースでDXとIT横断のチームを組むなどの工夫をすると良いだろう。
最後に、外部パートナーとの付き合い方にもコツがある。馬力の面からも、最新技術を取り入れる需要からも、DXを自社のリソースだけで進めることは無理がある。自然、SI会社やコンサルティング会社の出番となるが、どこまでを外注し、その一方で何のスキルを自社育成するかの青写真を改革の初期から描く必要がある。なぜならDXは一過性のプロジェクトではなく、その後も不断のメンテナンス、ビジネスとの統合、技術進歩に伴うアップグレードなどが必要となるからだ。これを社内・社外のリソースでどのように支えるのかを想定しながらDXを進めることが理想的と言える。一社に丸投げして頼り切ることは危険だが、パートナーを増やせば増やすほどマネジメントは複雑になる。最近のトレンドとして、チーフデジタルオフィサー(CDO)として外部ベンダー出身者を招く例が見られるが、1つの解だろう。
このように、DXは魔法のつえではなく、その実行にはさまざまなチャレンジが伴う。その一方で、得られる果実が大きいことも確か――幹部の外部採用や地味な組織的手当ても含め、成功に向けて息の長いサポートが必要な、全社的取り組みと覚悟しなければいけない。