フランクフルト・ブックフェア:ドイツのマンガ、日本の出版社、社会問題
国際書籍見本市「フランクフルト・ブックフェア」がドイツのフランクフルトで10月20日から24日まで開催され、筆者も最終日に会場を見てきました。
今回は1)ドイツのマンガ、2)日本の出版社の様子、3)社会問題について考えたことを書いてみます。
導入:ドイツと日本の見本市
日本でも緊急事態制限の終了に伴い、様々なレベルで社会、経済が再開しつつあります。見本市に関しても直近ではIT見本市の「シーテック」や東京ゲームショーが開催されました。
見本市のリアル開催が再開したといっても、海外からの参加は入国規制がある限り不可能な状態が継続しています。ドイツでは夏以降、国際見本市が再開しており、10月中旬にはケルンで世界最大の食の見本市「アヌーガ」が開催され、世界169カ国から7万人を超える来場者が、98カ国から4600スペースの出展があったと業界紙は伝えています。
「フランクフルト・ブックフェア」には今年、コロナルールにより1日の来場者数を上限2万5000人に制限していましたが、結果、105カ国から約7万人が参加しました。地元公共メディアHRの報道によると、コロナ前であれば例えば土曜日は8万人を動員していたそうです。
ドイツのマンガトレンド
世界各地の出版社があらゆるジャンルの書籍を展示するフランクフルト・ブックフェアですが、文学・文芸エリアにおける児童書のエリアは人気スポットのひとつです。そのなかで筆者が特に注目したのは「ハヤブサ」です。
児童書出版社の大手カールセンはドイツのマンガ出版でも最大手に数えられますが、同社で今年1月に立ち上げられたのが新レーベル「ハヤブサ」です。
「Otaku」や「Fujoshi」をターゲットとしつつも、ボーイズラブと「それ以外」のテーマを扱っていくと公式サイトでは説明されています。説明には明記されていませんが、ラインナップを見れば従来の同性愛マンガにとどまらず、性的少数者の悩みを扱う作品も含まれていることから、「それ以外」が意味するものは、いわゆる「LGBT」的なテーマだと思われます。
「LGBT」は様々な議論がありますが、社会の関心事であることには異論がないと思います。そして、ドイツでボーイズラブ・マンガはこうした社会的な関心の拡大を背景に、従来からの勢いをさらに増している印象を窺わせていました。
日本の出版社(写真多数!)
「フランクフルト・ブックフェア」では各国の出版社のエリアに、日本の出版社は合同ブースを出展していました。
写真を見れば、その規模の小ささが伝わると思います。円柱型の展示3カ所、壁の棚は3列(向かって右側)、左側の壁には小さな商談スペース(?)が設けられてました。
もう少し、棚をアップでみてみましょう。
すべて各出版社が世界にアピールしたい本だっだと思います。それにしては本の量があまりにも少なく感じてしまいました。
筆者は、過去何年もこの書籍見本市に通っていますが、以前は大手出版社がそれぞれ自前のブースを手配し、中小の出版社が合同ブースで参加していました。規模は年々小さくなる傾向があり、コロナ直前の年にはすでに大手出版社も合同ブースのみの出展となっていました。
理由はいくつも考えられると思います。
・デジタル出版の増加により展示する紙の本がそもそも減った。
・書籍見本市という「ライセンス取引の場」としてのビジネスモデルへの関心が減った。(商談ならオンラインでもできます)
・もちろん日本国政府の水際対策による帰国時の隔離義務を敬遠し参加を見送ったのもあるでしょう。
いずれにせよ、現状は知っておいて損はないと思ったのでお伝えしておきます。。。
社会問題の再来
そして、今回の「フランクフルト・ブックフェア」の報道関連で注目を集めたテーマのひとつは、極右主義の出版社をめぐる対立と作家たちのボイコット運動であったことにも言及せざるを得ません。
先に挙げたHRの報道でも、右翼出版社の扱いは未解決で根本的なジレンマであるという社会学者の言葉を紹介し取り上げています。
こういった極論主義者たちを巡る対立は、コロナ前から「フランクフルト・ブックフェア」で起こっていたことです。リアル開催を1年休み、今年再開することで再びニュースに取り上げられ、社会的な関心事となりました。
イベントが再開することは、待ち望んでいた人たちには嬉しいことです。同時に、社会の問題も再燃したのも事実です。社会も経済も再開し、様々な問題にも再び取り組んでいく必要があるのだと、改めて感じさせた「フランクフルト・ブックフェア」でした。
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(写真はすべてKatahoが現地で撮影)