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私たちは、なんのためにお酒を飲むのか〜「目の前の人の話を聴く」ことのススメ

Photo by Markus Spiske on Unsplash

ビール市場はどこへ向かうのか

1987年に発売されたアサヒスーパードライは、バブル時代に大学生だった私にとって、まさにお酒の象徴であった。そのスーパードライが、発売以来のフルリニューアルという。2000年ごろをピークに右肩下がりでスーパードライの販売量が減り続けていること、コロナ禍で店舗売上が下がり、ビール売上首位から転落したことなどが背景にあるようだ。

一方、キリンとサントリーは、高額ビールを強化するという。その背景には、2020年までは一本当たり50円近くも差のあった、ビールと第3のビールの間の酒税の差が、2026年には同額になる。作る側にも、飲む側にも、発泡酒や第3のビールの存在意義がプライス上はなくなるわけだ。

とはいえ、いまはビール一本につき70円の税金を払っているわけだから、国としてはドル箱である。これからも私たちは、働いたあとのビールを楽しみにして、その1/3近くのお金を国庫に税金として納め続けるのだろう。

ビールがつくりあげた組織風土

その一方で、ノンアルや微アルの市場も広がっている。次の記事は、日本独特のアルコール問題について、次のように指摘している。
「日本社会は内向きだ。だから飲みニケーションという言葉に代表されるように、企業から大学サークルに至るまで潤滑油としての酒の役割は絶大だ。しかし、酒を飲まない、飲みたくない人にとって、酒本位社会は苦痛だ」

この記事には、有名人がコメントをつけていて、これもまた面白い。ジャーナリストの池上彰さんは、「私は酒が体質的に飲めず、新人時代は、先輩や上司、取材先から酒を強要され、辛い日々でした」とコメントしている。また、リンクトイン日本代表の村上臣さんは、お酒を飲まない人の立場から、市場が必ずしも「酒の代わり」を求めているわけではないと述べている。

どうも酒本位社会というのは、「お酒を潤滑油にしたコミュニケーション」が組織風土として定着したもののようだ。その風土に合わない人に無理を強いてきた。そして、この飲みニケーション風土が、ビールに対する「演説するおじさん」のイメージを定着させてきたのかもしれない。

そしていま、コロナ禍がきっかけでリモートワークが主流になり、コミュニケーションのあり方が大きく変わった。ビールの役割も「組織の潤滑油」から、豊かな時間を過ごすためのものに変わっていくだろう。それが、クラフトビールなどの高級ビールのブームにもつながっているはずだ。

「目の前の人の話を聴く」ために飲む

日経BPから、聴くことの意味について書かれた、「LISTEN」という本が出ている。自分の人生を豊かにすることは、ただ「聴く」ことができるかどうかにかかっている、という。私たちは話すことの上手い人を過大評価する傾向があるが、聴くことでしか、他人を理解することはできず、真の友人もそんな丁寧な積み重ねでしかできない、ということを思い出させてくれる本だ。


組織マネジメントにおいては、リモートワークが増える中、組織の方針を上位下達で展開することよりも、相互理解の中で主体性を引き出すことが大事になってきている。

このような組織風土をつくっていくうえで、お酒の役割は、「先輩の自慢話を聞かせるための小道具」から、「お互いの想いを深く聴く助け」になっていくべきだろう。

ビール各社は「聴く」ためのお酒の飲み方を提案してほしいし、そのための静かに対話するためのお店づくりも進めてみてはどうか。そうすることで、組織風土をお酒の飲み方から変えていけると考えるとワクワクする。

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