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DXの本質がわかる「デフレーミング」とは何か

日経COMEMOのKOL(キー・オピニオン・リーダー)に就任しました、東京大学の高木です。よろしくお願いします。

さて、早速ですが、初回はデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、私なりの考え方をお伝えしたいと思います。

皆さんも「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にしたことがあると思います。一般的にはデジタル技術を用いたビジネスの抜本的な変革を意味する用語ですが、その方向性や内容は必ずしも明確ではありませんでした。キャッシュレス、API連携から、レガシー刷新までありとあらゆるものがDXの名のもとに語られることがあり、「一体何がDXなのか?」「これまでのデジタル化と何が違うのか?」という疑問を持った方も多いでしょう。

また、DXは組織の変革、ビジネススコープの再定義が重要といった指摘もあり、いずれもその通りではありますが、「どういう方向で変革を検討すればよいか」を考えるための手がかりは少なかったのです。

私も同じような疑問を抱えていましたので、何かDXの本質を描き出せるような概念を明らかにしたいと考え、過去数年間の世界各地のITイノベーションの状況をつぶさに観察し、経済学の視点から一つの概念・フレームワークにまとめました。それが「デフレーミング」です。

デフレーミングとは、フレーム(枠組み)が無くなるという意味の造語です。その定義を簡潔に示すと、『伝統的なサービスや組織の「枠組み」を越えて、内部要素を組み合わせたり、カスタマイズすることで、ユーザーのニーズに応えるサービスを提供すること』です。デフレーミングには3つの要素がありますので、それらを簡単に見ていきましょう。

デフレーミング

図 デフレーミングの3つの要素

第一が「分解と組み換え」で、従来の業界や事業の枠組みを超えて、その内部要素を分解し、柔軟に組み合わせ直すことです。これは企業にとっては事業ドメインの見直しを意味するもので、例えば送金とメッセージングを融合したアプリなどが挙げられます。中国の巨大IT企業の一つであるテンセント社は、QQやWeChatといったコミュニケーション領域のサービスに、ペイメントという金融の機能を融合し、WeChat Payという送金サービスを組み込むことで大きく成長しました。さらには、膨大なユーザー数と金融機能を背景として、第三者がWeChatアプリの上で動作する「ミニプログラム」を提供できる機能を生み出しており、クラウドプラットフォームへと進化しています。従来の通信、金融、ITサービスの要素を分解し、縦横無尽に組み替えたサービスといえるでしょう。

第二の要素は「個別最適化」です。これは、画一的なものを大量に生産して販売するのではなく、ユーザーによって細かくカスタマイズしながら届けることです。例えば、ナイキ社による「Nike By You」のような製造業におけるマス・カスタマイゼーションのサービスや、様々なウェブサイトで導入されているパーソナライゼーションの機能が挙げられます。ビッグデータとAIの時代になったことで、膨大なユーザーのニーズを形式知化し、オーダーメイドのサービスへとつなげることが容易になりました。しかも、既製品と比べて大したコストアップをせずに、カスタマイズすることが可能になったのです。

そして第三の要素が「個人化」です。これは、企業に所属し、専属的に働くだけでなく、フリーランスやクラウドソーシングなど、個人として働く場面が増えてきていることを指します。個人事業主として働くだけでなく、これからは兼業・副業など組織に所属しながらも、補完的に個人のスキルや意欲を発揮する場面も増えてくるでしょう。国内外でフリーランサーやクラウドワーカーの増加という形で広がりが見られますが、YouTuberやインスタグラム等で活動するインフルエンサーといった働き方も出てきています。その一方で、個人に立脚して働くうえでは孤立化を防いだり、知識の創発に必要なコミュニケーションをいかに確保するかも重要であり、その観点からコワーキングスペースの重要性も高まっています。「個人化」は、デジタル化がもたらす組織運営や働き方に関する変革です。

 以上の3つの要素は、いずれもデジタル化がもたらす「取引コストの削減」という共通の要因によってもたらされる変化です。デフレーミングはすでに世界中で始まっている大きな変化の潮流をとらえる概念です。そこには、革新的な顧客体験を持つサービスを実現し、利便性の高い社会を実現したり、個人個人が自らの能力や意思を存分に発揮できる社会へと導く可能性があります。

その一方で、課題も多くあります。分解と組み換えにより、既存の事業には大きな影響が出るため、業界の再編成等で仕事が大きく変わったり、業界構造が変わることもあるでしょう。また、個人化が進む中で、収入の安定化・保障をどのように担保するか、個人のプライバシーをどのように守るかという点も重要です。デジタル化がもたらす変化にどのように対応していくか、ビジネスと社会の両面から、考えていく必要があります。

今後の投稿でも、デフレーミングの概念を用いてどのように具体的に革新的なサービスを創出できるのか、折に触れて取り上げていきたいと思います。


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東京大学大学院情報学環准教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://soichirotakagi.wordpress.com/をご覧ください。