見出し画像

総合経済対策に対する評価

2次補正28.9兆円、見えぬ効果・使途 予備費・基金が半分: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 政府は物価高対策や新しい資本主義の加速などを掲げた経済対策は事業規模71.6兆円のうち財政支出は39兆円、第2次補正予算案の一般会計は28.9兆円となりました。しかし、政策効果が未知数の事業も混じったものになっています。

直近の2022年4-6月期のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば▲2.7%、年換算で▲15兆円程度の需要不足が存在していることになります。ただ、過去のインフレ率とGDPギャップの関係に基づけば、安定して2%物価目標を達成するためには、GDPギャップは15兆円程度の需要超過になることが必要と推定されます。このため、政府が目指す安定成長のために必要な需要額は、GDPギャップを埋めるため必要な15兆円に加え、+15兆円の超過需要を加えた30兆円以上の規模が必要となります。

今回の経済対策のGDP押上げ効果は合計すると最大10.3兆円、率では+1.9%程度となると推計されます。主に訪日客の回復拡大や農産品の輸出拡大、防災・減災、経済安全保障強化の公共投資が中心的役割を担いますが、GDPギャップ解消に必要な15兆円のうち2/3程度を埋めるにすぎず、また2%物価目標達成に必要な需要額には20兆円程度不足することになります。今回の経済対策の財政規模は少なくとも金額面だけで見れば、+2%の物価安定目標を達成するのに必要な需要規模には不十分ということになるでしょう。

「目玉」とされる電気・ガス代等の負担軽減措置は、何もしなければさらに増える家計の負担を政府が肩代わりするというものです。GDPギャップについても、家計の負担増による消費の落ち込みを抑制して、本来ならもっと拡大するはずの需給不足を維持するということに過ぎないでしょう。本当の意味で電気・ガス料金の負担軽減の効果を期待するのであれば、それは省エネ関連の投資の促進によってどの程度エネルギー効率が高まるかにかかっています。

物価高対策で継続的な賃上げ促進策として、従来の賃上げ促進税制の活用促進や中堅中小企業の事業再構築や生産性向上支援などの効果は来年の春闘の結果次第。来年も家計一人当たりの負担増加額が+1.8万円程度(4人家族で7.2万円程度)になると試算されます。来年の春闘でアベノミクス下でも2%代前半までしか上昇しなかった賃上げ率を最低でも3%程度に引き上げることが求められますが、それもそれぞれの企業がどう対応するか次第でしょう。

水際対策が今月から大幅に緩和され、25年には大阪万博が予定されていること等から、3年後にはインバウンド消費5兆円目標を達成する可能性が十分にあるでしょう。仮に3年後の目標達成前提で計算すれば、今年から来年にかけてインバウンド消費額は+1.5兆円程度押し上げられる計算になります。一方、農産物の輸出拡大については、すでに21年時点で1.2兆円まで達していることからすれば、円安も生かして来年は+0.3兆円程度の農産品の輸出拡大が期待されます。

今回の対策では、ほかにもジョブ型雇用への転換を促進する取り組みも掲げられたが、本気で賃上げに取り組むのであれば、更に大胆な労働市場改革が不可欠でしょう。具体的には、正社員の解雇ルール明確化や転職者に対する所得税優遇などにより労働市場の流動化や活性化をすすめることが同時に必要ですが、今回の経済対策にはこうした点までは踏み込まれていません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?