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政府のコロナ対策に対する臨床現場からの私見

 政府は新型コロナウイルス感染症対策として第6波を想定した全体像を決定しました。全体像は①医療提供体制の強化②ワクチン接種の促進③治療薬の確保④日常生活の回復の4本柱で構成されています。今夏の第5波で問題となった主要案件を骨格にしたものと思われます。大枠が定まったことは良いことではありますが、実際に稼働するかどうかは議論すべき余地がかなり残されているのではないかと考えているところです。今回は臨床現場の実働部隊としての私見です。

①医療提供体制の強化

 中等症者や重症者への病床確保はきわめて重要であり、第5波のピーク時には入院が必要でも自宅での療養を余儀なくされた患者さんが溢れていましたし、療養中に不幸な転機をたどった方も少なくはありません。また通常医療が制限され、新型コロナ以外の必要な医療を受けなければならない患者さんにも影響が及びました。当時も病床稼働率や入院率は公表されていましたが、実際にはいわゆる「幽霊病床」とよばれる稼働していない病床も含まれており、充分に生かされていなかったように感じます。

 今回の対策では「3割多い病床確保」を掲げていますが、実際に病床だけ確保できてもそこに従事する人材が揃わなければ稼働することはできません。また事前に人材を揃えるとはいっても、感染が落ち着いている時には業務量も減り人件費の維持がかさんでしまいます。実際に海外で感染症のアウトブレイクが発生した際にすぐに出動できる感染症に関する人材登録制度はありますので、有事の際にフレキシブルに対応できる人材の確保方法を検討しなければならないと考えます。もし対応するのであれば、どのレベル(政府・自治体・医師会・大学病院等)で行うのかは議論すべき課題でしょう。

 またワクチン接種が進み、治療薬の選択肢が増えてくれば感染者が増加しても軽症者の割合が増えてくると推測されます。中等症者や重症者の医療体制だけではなく、軽症者の管理体制も強化する必要があります。すわなち感染症法による現在の「新型インフルエンザ等感染症」という位置づけでは、かかりつけ医など診療所レベルで検査が陽性になった患者さんは保健所が管理することになりますが、これまでも保健所業務の逼迫が問題となったように、すべての管理を保健所が行うままでは同じことが起こり得る可能性があります。地域医療を担う医師会が主導となり、自宅で療養する患者さんの管理を回復するまで責任もって行うような協力体制も必要であると考えます。

②ワクチン接種の促進

 これまでのワクチン接種は「自治体などでの集団接種」「診療所や病院などでの個別接種」「職場などでの職域接種」「自衛隊などが主導した大規模接種」がありましたが、当初打ち手不足ということが取り上げられ、ワクチン接種に慣れていない人材も駆り出されていたような印象です。そのことが要因とは言えませんが、誤接種や不適切な温度管理など、日常からワクチン業務を行っている人間にとっては考え難いことが少なくなかったと感じています。一方、診療所などでワクチン接種をまとめて行うと、通常診療がかなり妨げられてしまいますので、どうしてもワクチン専用要員の確保が必要となってきます。3回目接種に関しては現場における課題や問題点をしっかりと把握していただき、効率的かつ安全な接種スケジュールを教示いただきたいものです。

③治療薬の確保

 重症化リスクがある軽症者や中等症患者を対象に投与している抗体カクテル療法薬に加え、経口薬の実用化も掲げています。抗体カクテル療法はこれまでは点滴で行われており、外来治療も可能とはいえ病床がある医療施設に限定した使用でしたが、発症予防としての特例承認と注射による投与も可能となったことは重症化を未然に防ぐ新たな手立てとなります。

 さらに経口薬が使用できるようになれば、病床のない診療所などでも治療の選択肢が広がることとなるので朗報と言えます。しかしながらインフルエンザ治療のように「かかりつけ医で検査を行い、診断を受けた段階から内服開始」というシナリオにたどり着くまでにはしばらく時間がかかりそうです。

 現段階ではおそらく「特例承認」という位置づけで政府が管理を行い、リスクの高い患者さんや設備の整った医療施設に限定した使用に限られる可能性があります。その一方で、内服薬の投与効果が見込めるのは発症後数日に限られるため、疑い患者さんがまず最初に訪れる診療所などでの使用が最も効率的であると考えられます。すなわち、検査や医療の目詰まりを解消しなければ確保した薬を有効に使えない恐れがある訳です。薬価や保険点数が決まってこないと保険診療で処方することはできませんので、どこの診療所でも処方が可能という段階まで到達することは難しいとは思いますが、せめて新型コロナの患者さんを日常的に診療している施設には優先的な使用を許可していただきたいものです。

④日常生活の回復

 ワクチン接種が進み、治療薬の使用も可能となれば、多くの日常生活は回復できると思われます。ただ新型コロナウイルスが存在する限りは診断のための検査は必要となるでしょうから、少なくとも必要な時に検査が受けられない状況は避けなければなりません。その一方で「いつでもどこでも何度でも検査をする」ことに対しては賛同しかねます。感染症検査はあくまで医療行為とセットで行われるべきで、検査結果の正しい解釈をしなければ不利益を被るヒトや社会活動が生じてしまいます。また検査にかかわる人材、物資、医療廃棄物などは想像以上になります。検査の意義をしっかりと理解したうえで、日常生活の回復に有効活用していただきたいと願います。むしろ検査やワクチン証明書などが「いつでもどこでも何度でもデジタル発行ができる」ようなシステム構築の方が日常生活回復への近道のような気もします。またこれを機に、実効性のほとんどないと思われる「やっている感の感染対策」は是非とも見直していただきたいものです。

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