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社会課題解決を前提としない新規事業が社会課題を解決する

新規事業で地方の社会課題を解決するサイクルができている

2023年10月31日の日経新聞で、「未利用魚」の活用で新たな取り組みが次々と生まれていることが紹介されている。「未利用魚」とは、水揚げされたが、料理法の難しさや知名度などの問題から流通には乗らずに廃棄されてしまう魚たちだ。しかし、しっかりと処理をして調理すると美味しい魚も多く、料理人や商社・卸売業者などが課題解決のためにビジネスへとつなげている。

このような取り組みはフードロスにつながり、SGDsの事例としてとらえることができるだろう。しかし、新規事業を考えるうえで気を付けたいこともある。それは、「廃棄されている魚がある」という目の前の課題から新規事業が生まれているが、「社会課題を解決したい」という思いがスタートで事業として成果を出すことはあまりないということだ。この2つは似ているようで大きな違いがある。

「社会課題を解決したい」が先に来る若者

大学教員として、起業家精神の育成に携わっていると、非常に多くの相談が来る。その多くは学生や20代の会社員で、たまに地域おこし協力隊の若者が来ることもある。そして、「社会課題を解決したいです」から始まる事業アイデアが披露されるケースがとても多い。
若者が社会課題に関心を持つこと自体は悪いことではないし、大学生としては健全ともいえるだろう。オックスフォード大学の学生活動を起源に持つオックスファム・インターナショナルのように、世界的な活動となった例も少なくない。しかし、「フードロスを解決したい」「待機児童問題を解決したい」「海洋プラスチック問題を解決したい」のような社会課題ありきで出されたビジネスアイデアは、頭を悩ませるものが多い。
ここには、学生起業で陥りがちな罠を、社会課題解決というバイアスがかかることで更に悪化させる現象が起きがちだ。その罠は、課題に対するリアリティの欠如と顧客の解像度の低さだ。
学生が持ってくる事業アイデアは、そもそも論として、解決する課題に対するリアリティと顧客の解像度の面で未熟なことが多い。例えば、「高校のサッカー部では練習ノートを真面目につけることが少なく、PDCAを回すことができていないことから、効果的な練習ができていない」という課題を持ってきたとする。そのとき、「なぜ効果的な練習ができていないのか」「なぜノートをつけないのか」「どのような情報が記録され、フィードバックがあると練習の効果を高めることができるか」「練習の効果とはなにか」などの課題の深堀りが不十分なまま解決方法を考えようとしてしまう。その結果、どこかネット上で拾ってきたような安易な解決策が提示される。
よく言われるように、「なぜを5回繰り返す」といったことができていない。
加えて、「誰のための課題解決か」ということも絞り込むことができておらず、「そのビジネスアイデアで誰が幸せになるのか」が考えられていないこともよくあることだ。
社会課題の解決を振りかざすと、課題の深堀りも、誰を幸せにする事業アイデアなのかもまったく不足したものになりがちだ。フードロスのために、フードロスに関心の高い農家と共にフードロスに関心の高い人のためにバザーを開いたりする。下手をすると、待機児童ゼロの町で「待機児童をゼロにするための保育ママ研修をやりたいという学生もいた。
「社会課題を解決せねばならない」という思いが強すぎて、目の前で誰がどのように困っているのかまで気が回っていないのだ。しかし、社会課題を解決する事業は、社会課題を解決するためにやっているというよりも、目の前にある課題を解決するために事業アイデアを生み出している。
目の前に体調に廃棄されるパンがある、それをなんとかしようと思い、パンからクラフトビールを開発し、オーガニック・スーパーやレストランに販売する。知的ハンディキャップを持つ兄弟のために、同じようなハンディキャップを抱える人によるアーティスト・コミュニティを立ち上げる。
まずは自分が解決すべき目の前の課題を真正面から見つめ、事業の結果として社会課題が解決される。

「ビジネスは課題解決」信仰のリスク

新規事業開発の現場では、「ビジネスは課題を解決することから生まれる」という言葉がよく聞かれる。この言葉自体に間違いはないだろう。しかし、そのために課題ありきでビジネスを考えることは筋としての悪さを感じる。課題解決は結果としてそうなるのであって、その根幹にはリアリティのある目の前の事象と向き合うことが大切だ。それは、ジェームス・ダイソンが紙パック式掃除機がすぐに吸引力が弱くなってしまうことに怒りを覚えたような、リアルな目の前の事象だ。課題解決にとらわれ過ぎてしまうと、自分の目の前にあるリアルな事象に気が付かず、見過ごしてしまう危険性をはらんでいる。

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