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コミュニティがもたらす「ABBAの法則」

アーティストやクリエイター、そしてアスリートに限らず、われわれには少なからず「A面とB面」があり、お互いのB面を理解し合えるという意味でコミュニティが必要だと思っている。今回は、A面とB面について、そしてその両面に作用する効能について綴っていきたい。


アスリートの「A面」、一人の人間としての「B面」

先日、アスリートの萩野公介さんと対談をさせていただく機会に恵まれた。萩野さんはOSIROを導入して「.nogiha」というコミュニティを運営されている。

萩野さんは幼少期から水泳に情熱を注ぎ込み、若くして国際大会で頭角を現し17歳の頃には初めてメダルを獲得し、22歳で金メダリストとなった。才能だけでなく、人生の多くを水泳に注ぎ続けた努力の人だ。

しかし、そんななかで萩野さんを悩ませたのは、「水泳」という物心ついた頃から熱中し続けていた存在と、自分自身の「人生」についての葛藤だったという。

まだ少年の頃から将来を嘱望され、結果を出し続ける日本人トップアスリートして世間の期待を一身に背負い続けてきた萩野さんの両肩には、ぼくには想像もつかないほど重いプレッシャーがのしかかっていたことだろう。

萩野さんは、「自分はなぜ泳いでいるのだろう」と自身に問いかけると同時に、「人はなぜ生きているのだろう」と考え続けたという。その結果、いずれにも共通して見出した答えは、「幸せになるため」という、人間が持つ根源的な欲求だった。

幸福はもちろん、当然希求すべきものではある。しかし、現実では見失うことも多い。萩野さんが.nogihaを創設した背景には、本来の自分に立ち返ることができる場、「幸せ」のあり方を常に感じられる場をつくりたいという想いがあったからだ。

そんな萩野さんが「.nogiha」をスタートしたのは、自身の現役最後のレースの直前のことだった。その理由を萩野さんに尋ねると、その答えはまさにオシロ社がコミュニティによって実現したいと思っていたものと重なった。そして、それが萩野さんの心を拠り所になるようなものになれていたと知って、ぼくは涙が出るほど嬉しいお話を聞けた。以下にインタビューの本文を引用したい。

(中略)
自分にとって最後のレースとなる東京五輪の舞台では「水泳選手としての萩野公介」も「一人の人間としての萩野公介」も見てもらった上で、レースを見てもらいたいと思ったんです。

.nogihaでは人間のあり方をレコードになぞらえて「A面とB面」と表現していますが、アスリートとしての僕がA面だとしたら、もっと自分自身の本音をさらけ出せるB面の部分も知ってもらいたいと思いました。自分にとっての最後の東京オリンピックの舞台で、自分という人間を、自分がこれまで歩んできた水泳だけじゃない人生の姿も見ていただきたいと思ったんです。

(コミュニティの)スタート自体は直前になってはしまいましたが、レース前に.nogihaを立ち上げて、メンバーの方々とコミュニケーションが取れたことが、泳ぐ時にとても大きな支えになりましたね。
インタビュー全文はこちら

OSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW #11 “アスリート・萩野公介さんが語るコミュニティの意義「人間の根本的に求めるべき『幸せ』を感じられる場所をつくりたい」”

お互いの「B面」を理解し合えるコミュニティが必要

萩野さんが語るように、「プロフェッショナル」であると語られる人には、常に結果を求められる。それは萩野さんのように世界的なアスリートに限らない

ぼく自身、32歳までの歳月をアーティストとクリエイターとして過ごしてきたからわかるが、特にクリエイターは結果を出すことが当然として見られる。そのプレッシャーは大きいし、期待を裏切ってしまえば明日の仕事はなくなってしまう。そんな緊張感や不安にさらされながら創作活動を行う。そんな「A面」を生きているのがプロフェッショナルだと思っている。

しかし、アーティストやクリエイター、そしてアスリートに限らず、われわれには少なからず「A面とB面」があると思っている。

A面とはつまり、「結果」が求められる世界であり、Do(行動による成果)の世界ともいってよいだろう。一方でB面は、他者から期待されている自分ではなく、本来の自分に立ち返ることができる状態。Be(自分らしく在る)が許容される場ともいえる。

A面は本業。仕事や創作活動、試合やレースの場であり、B面はサードプレイスとも定義できる。ぼくたちはA面のなかだけで生きていると疲弊してしまうし、かといってB面だけでも生きてはいけない。まさに表裏一体のものではあるけど、自分のB面を知ってもらうことは意外に難しい

だからこそ、ぼくはお互いのB面を理解し合える場としてコミュニティが必要だと思っている。「お互いに」と書いたのは、それは決してコミュニティオーナーとメンバーの二者間が相互理解をするだけのものでもないと考えているからだ。

ぼくたちオシロ社が考えるコミュニティは、コミュニティの主宰者とファンだけでなく、ファンとファン同士もお互いの理解し絆を深め、応援団になってお金とエールを継続的に贈り続けるような「人と人が仲良くなる」仕組みを追求してきた。

その結果として、ぼくは上手くいくコミュニティには「ABBA(アバ)の法則」があると考えている。

人間関係の質は「A面」と「B面」の循環で深まっていく

ABBAの法則とはつまり、コミュニティで「人と人が仲良くなる」プロセスを指すオシロ用語である。

例えば、アーティストやクリエイターの場合、コミュニティに入るファンとの接点は必然的にA面となる。そのアーティストの作品や表現に魅了され、作者を応援したいと思うことが最初の入り口となっていく。

そして、コミュニティの中ではアーティストやクリエイターのB面に触れていく。例えばそれは趣味や意外な側面だったり、さらにはA面では決して見ることができない弱さもあるかもしれない。

そういったアーティストやクリエイターの本来の姿や本音を知ることで、その人を深く理解していきもっとその人を好きになっていく。そのような姿から、コミュニティの中ではメンバーの心理的安全性も醸成されていき、やがてお互いがお互いのB面を理解し、許容できるような絆が生まれる。そうしてメンバーがコミュニティを回遊していくうちに話しやすい関係が形成されていき、単独の応援者であったメンバーはB面を通じてやがて「応援団」となっていく

そのような応援団によって継続した「お金とエール」が贈られる状態、B面でコミュニケーションが円滑になった関係は、当然A面でもコミュニケーションをしやすくする。そして、アーティストやクリエイターはA面に専念できるようになる。このような人と人が仲良くなるコミュニケーションの順序こそ、ABBAの法則なのだ。

一方で、このようなABBAの法則は、アーティストやクリエイターのコミュニティに限らない。むしろ、企業の社員向けのコミュニティでも効力を発揮する

現在、多くの企業で社内コミュニケーションに滞りが生まれてしまい、業務にも支障が出ているケースもあると聞く。ここで課題になるのは、同じ会社で働く人同士が「どのような人なのか顔が見えてこない」ところにあると思う。やはり、職場はA面の世界であり、業務を遂行する上ではビジネスパーソンとしての姿が求められる。しかし、相互理解が進まなければエンゲージメントは下がってしまうし、連携も取りづらい

だが、職場を見渡してみてほしい。そこにいる上司や部下、同僚は皆一様に人間であり、それぞれの想いを胸に日々働いている。それは経営層であっても同じだ。だからこそ、企業には「B面」コミュニケーションが必要だ。

入り口となるのは会社というA面であり、社内コミュニティによって相互理解が促進されるようなB面のコミュニケーションで、縦軸と横軸での相互理解が進んでいけば、社内の人間関係は布のように強固になっていく。そのような社内の人間関係が構築されていけば、A面でのコミュニケーションが円滑になり、より高い生産性の実現や部門・部署を超えた共創も生まれていく。

このように、ABBAの法則を社内コミュニティでワークできれば、従業員エンゲージメントが向上し、コミュニケーションが円滑化することで業務や意思決定のスピードが向上し、従業員幸福度も上昇していく。下記記事にあるように、従業員の幸福度の高さは生産性に比例するという研究結果は、人事や組織開発を担う方々ならすでにご存じだろう。

生産性を上げるために、効率化やパフォーマンスの向上を第一に考える企業は多いだろう。しかし、従業員はロボットではなく、「働く」という土台には幸福の追求やWell-being(よりよく生きる)が含まれる。だからこそ、人の心はてこでは動かない。

まず始めるべきは、従業員一人ひとりがお互いを理解し、尊重し合えるB面コミュニケーションであり、従業員幸福度を高める組織づくりだろう。


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