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フルリモートワークを条件にした転職も採用も難しい

2024年も折り返しになりました。このnoteでもリモートワーク、特にフルリモートワークについて度々話題にしてきましたが、企業の採用状況の変化も相まって様相が変わってきています。

今回はX(旧Twitter)でも反響を頂いたフルリモートワークと採用についてお話します。


リモートワーク実施状況は横ばい

採用のお話に行く前に、リモートワークの実施状況についてまとめておきます。

東京都労働局のテレワーク実施率(6月)を見ると横ばいです。週あたりのテレワーク実施回数を見てもここ数ヶ月に大きな変化はありません。

コロナ感染者数の増加を根拠にテレワーク実施を訴える声もありますが、インフルエンザと同じく特に増加はしないのではないかと予測しています。


テレワーク実施率
テレワークの実施率

https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/jissiritukekka202406.pdf

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボの発表ではリモートワークがゴールなのではなく、「ビジネスパーソン一人ひとりが目的などに応じて出社と在宅勤務を自律的に使い分ける時代」の到来について言及しています。

フルリモートにしても採用に成功するわけではない

取引先を含む私の周囲にもフルリモートワークの会社は複数あります。

中途採用成功に向けて人材紹介会社やスカウト媒体の方々と意見交換もするのですが、ほぼ必ず「フルリモートにしてください」「フルリモートを全面に押し出してください」と言われます。しかしながら成果にはほぼ繋がらず、中途採用成功にフルリモートワークは言うほど貢献しないのではないかと訝っています。

採用要件が上がっているので、応募されても採用しない

コロナ禍の金余り現象で投資環境がバブリーだった時期は、エンジニアの正社員数が投資の意味合いを持っていました。投資家と正社員採用目標人数を合意していたスタートアップも多くありました。

ここ1~2年は財務的に厳しい状況にあることから、ごく一部の数社を除くと固定費を抑えるために正社員採用をしている企業が多いです。同時に採用人数を求めるのではなく、採用ハードルを上げ、厳選採用をしています。往時のように他社の提示年収を見ながらさらに上を提示していくようなこともまずありません。年収を理由に転職の意思決定をすることも少なくなっています。

スタートアップはフルリモートを選択するが、スタートアップに行きたい人が少なくなっている

往時のスタートアップ投資が賑わっていた頃と異なり、提示年収やワークライフバランス訴求が難しくなってきました。オフィス利用料の固定費を削減する意味合いもありますが、採用で訴求できるものが乏しいために「フルリモート可」として訴求します。

しかし転職市場を見ると、「スタートアップからその他」へ行きたい方に多くお会いします。

  • 現職スタートアップだがレイオフされたので資金的に安定した大手に行きたい

  • 資金が危うくなったタイミングで人の裏の顔を見てしまい疲れたのでそういう不安のないところに行きたい

  • 外資ITから転職したが、ホラクラシー的な動き(自身に課せられたミッション以外の動き)を求められて合わなかった

  • SIerやSESから転職したが、能動的な提案行動が強く求められ、合わなかった

中途採用市場においてスタートアップを見ている母集団が減少しているようです。

ジュニア層のフルリモート希望が決まらない

現在、フルリモートワークを希望する人たちには下記のような方々が居られます。

  • 介護・看護がある

  • 通勤困難な場所に(安い)家を買った

  • 地方移住してしまった

  • これから実家に帰る

  • フルリモートワークができるからエンジニアになった(ジュニア層)

受け入れ企業からすると、介護・看護についてはやむを得ない事情に思えますが、それ以外はなんとも感情移入しにくいところです。強いて言えば、住宅事情がかなり高騰しているので理解されるかもしれません。

問題は最後の「フルリモートワークができるからエンジニアになった」というジュニア層です。バリュー発揮が怪しく、サポートがまだまだ必要な状態にも関わらずオフラインには居ないということで育成のしにくさがあります。

自社の求める人物像である「利他性」を満たさない象徴が「フルリモートワーク以外不可」

顧客貢献や事業貢献を求めている企業が増加しています。顧客あっての事業のため自然な流れです。2021年ころのスタートアップなどは顧客が不明にも関わらずまとまったお金が調達できていたという意味では異常事態だっただけです。

顧客貢献や事業貢献は利他性と言い換えても差し支えはないでしょう。利他性を求める企業にあって、いの一番に「フルリモートできますか?」と条件にするのは利己的な姿勢そのものであるとする企業が見られるようになりました。

フルリモート可の求人であっても、あまりに利己的な人材からの応募が増えた結果、あまり表に出さずに求人票の後ろの方に小さく書いてある企業も登場しています。

出社を依頼するにしても居住地が遠すぎることから出張を伴う

同じく企業側が頭を悩ますのが「出張費が出るなら出社しなくもない」という条件での応募です。住所からすると飛行機や新幹線、宿泊が必要であろうと思うと二の足を踏みます。2022年前半くらいのコロナ禍の金余り現象のまっただ中では「全国採用をしているが、帰属意識を高めるために月に1~2回出張扱いで出社をしてもらっています」という企業もありましたが、今はレアです。

フルリモートのポイントは「アウトプットの確からしさ」ではないか

2024年夏現在におけるフルリモートワークのポイントは、アウトプットの確からしさにあるのではないかと考えています。

現職の社員に対してフルリモートワークを許可する場合は次の3つのパターンがあるように思われます。

  1. 目の届かないところであっても業務の遂行が期待できる状態(信頼)

  2. 売上が高く、多少のパフォーマンス低下についても目を瞑ることができる状態(企業の余裕)

  3. オフィス代という固定費が嵩む選択肢が取れない

一方で中途採用の場合では次のような3パターンであれば採用される傾向にあります。

  1. 自社で依頼したい内容がタスク分解されており、それをこなしてくれれば良い(SIerなどで見られる)

  2. 界隈で有名人であり、凄そう

  3. リファラル採用であり、社員の誰かが確からしさを担保してくれている

特に最後の要素であるリファラル採用とフルリモートワークの相性は良さそうに

感じられ、多少のスキル不安があったとしても既存で活躍している社員が「私が面倒を看ます」と言えば採用されるケースが観察されています。

逆に言うと、リファラル採用以外の経路から来た人を採用するのは確からしさに乏しいため、企業の採用意思決定としては厳しいように感じられます。

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久松剛/IT百物語の蒐集家
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