欧州EV政策の失敗から、何を学ぶか?
世界的にEV市場が失速している。日経記事はEVシフトで先行した欧州に「エネルギー政策に誤算」があったとする。しかし、たとえウクライナ情勢がなかったとしても、欧州の急激なEVシフトが自分の首を絞めることになったのではないかという見方が市民権を得つつある。
最近、欧州を本社とする重工業コングロマリットのCEOと話す機会があったが、彼の見解はこうだ;まず、脱炭素の命題のために乗用車のEV化を進めること自体、順番が間違っている。なぜならば、欧州の中をつなぐような短距離のフライトや大型クルーズ船を減らすほうがよほど脱炭素につながるから。さらに、急激に内燃エンジンの車をEVに置き換えることで、せっかく強かった地域の自動車産業を傷つけることになってしまった:技術は更新されなくなり、サプライヤーを含め雇用にも影響がでる。
一方で、安いエネルギーコストと労働力によって段違いの価格競争力のある中国のEVに大きく扉を開けることになった。慌てて追加関税をしようとするが、消費者にとっては価格が上がるだけ。さらに、補助金などの政策が変わりやすいため、新車全般の買い控えが起こっている。
その点、日本は賢かった―と彼はため息をついた。政治は性急なEV化から距離を置き、日本の自動車OEMはハイブリッドを含めたすべてのタイプに対応している、と。実は日本から見ると、気候変動対策を掲げた欧州の巧みなルール作りをいつも仰ぎ見ているだけに、この褒め言葉は額面で取りにくく、面はゆいものがある。
日経記事に引用されている欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏の発言は、「(欧州におけるEVの現状は)産業政策なく気候変動対策を推し進めた計画不足な事例だ」-加えて、気候変動対策に本当に何が効くのか吟味した上で、正しい分析に基づいて国民の理解を得るというプロセスも必要だろう。
EVシフトの腰折れをひそかに喜ぶよりも、気候変動対策と産業政策を両立しながら日本の競争力を高めるような構想を官民が描くことが求められている。