見出し画像

日本の観光はどこに向かうのか〜関係人口を中心にすえたグローバル戦略の可能性

京都に住んでいると、外国人旅行者の増加は目に見えてわかる。まだコロナ前と比べればほんの少しだが、今後、日本政府の期待通りに観光が戻って来れば、京都は再度オーバーツーリズムに陥るのではないかと心配だ。

観光立国に戦略はあるのか

政府のコロナ後の観光施策となると、どうやって旅行者を元に戻すかの議論ばかりで体質改善の議論は聞こえてこない。政府の観光立国の議論は、観光客をたくさん集めて、どうやって各地域にお金を落としてもらうか、という売上向上計画のレベルを超えておらず、戦略不在の営業会議のようだ。

次の記事では、日本の観光立国戦略は「これから」としつつ、フランスの観光戦略を紹介する。「フランスは政府主導で観光産業を立て直す。19億ユーロ(約2800億円)を投じ、人材の確保や育成、デジタル活用、持続可能な旅行商品の開発などにあてる」という。これに対し、日本の議論は「国として何に重点投資するか」ではなく、「地域ごとの予算の取り合い」をしているように見える。

環境配慮型の旅行への注目

そんななか、「持続可能な観光」がゆっくりと広がりつつあるのは良いニュースだ。次の記事は、「旅行業界が脱炭素など環境配慮型の商品を増やしている」ことを報じている。すでに環境意識の高い欧州からのインバウンド旅行者や、修学旅行などで広がりを見せているという。

ただ、この記事にもあるように、脱炭素でできることは限られている。できることは次の二つしかない。

  1. できるだけ炭素を出さない。歩きや自転車、公共交通を使ったり、フードマイレージの低いものを食べたり、クルマを使うならEVを選ぶ。脱炭素に取り組むホテルやレストランを使うなど。

  2. それでも出してしまった炭素をオフセットする。他の地域で再生エネルギーや森林管理に取り組んでクレジット化された「CO2減少量」をお金で買うことになる。

個人の損得勘定だけでいくと、一部の意識の高い人しか取り組まないように見えてしまう。だからこそ、環境配慮型の旅行はこれまでのような「罪悪感に訴えるもの」ではなく、「もっとワクワクするもの」に転換する必要がある。

たとえば、「自動車の脇を無理して歩く」のではなく、「思い切って自動車を締め出して、まったく異なる歩きの体験をつくる」ことができるだろう。また、「輸入食材を使わない」という視点ではなく、「地域の新鮮な食材をシェフが本気で使い切る」という運動にしていくことができる。「ごみ箱がなくて不便」と感じさせるのではなく、「どのお店でもごみが出ないように配慮されている」と感じる街をめざすこともできるだろう。

経済一辺倒の観光の成功イメージ

しかし、最近のニュースを読んでも、観光地の成功イメージは古いままだ。たとえば、うきは市はナシやモモ、ブドウなど様々なフルーツ狩りを楽しめる「フルーツの里」として多くの観光客が訪れており、道の駅でフルーツを購入する観光客も多いという記事だ。

上記記事でも名前が挙がっている朝倉市だが、インスタ映えによって海外から旅行者が増えているという。確かにそうかもしれないが、「人が来てお金を落とす」という「ビジネス化した観光」には、ほんとうに未来はあるのだろうか

この記事では、最後にようやく「オーバーツーリズム」に言及し、「美しい海や山を楽しみつつ、そこに息づく独特の生態系や生活文化を守りながら観光振興を図る持続可能な観光という視点が欠かせない」と締めくくっている。

しかし、「観光客を増やし、増えすぎたら対処する」という考えは捨てたいものだ。最初から、「どんな地域にしたいか」というポジショニングを決めて、「どんな旅行者に関係人口になってほしいか」というターゲットを考える。そんな戦略を各地域が持つべきタイミングなのだと思う。

観光を地域の持続可能性を高めるためのツールに

そしていま京都市は、SDGsや脱炭素ライフスタイルを推進するために、京都の「スローな観光」を立ち上げようとしている。コロナ前にオーバーツーリズムで苦しんできた京都だけに、観光で稼ごうとするのではなく、あくまでも観光は「地域をより良くするためのツール」と捉えなおす試みだ。「どんな旅行者が、どんな体験をすることで、地域に良い影響をもたらすか」をデザイン原理に、スローな観光を少しずつ増やしていこうとしている。

関係人口をベースとしたグローバルな地域戦略へ

最近出版されたソトコトは、関係人口特集。都市と地域の新しいつながりづくりに取り組む若者がたくさん、ワクワクする物語として紹介されている。指出さんのライフワークのようになってきた関係人口だが、地域戦略を考えるうえで、とても大事なコンセプトだ。次の記事は、指出さんが関係人口のアイデアについて大いに語っている。

政府の観光立国は「観光産業の売上」のことばかり話しているに対して、関係人口は「地域のつながり」のことを話していて、これら二つは無関係にも見える。しかし、関係人口を戦略の中心にすえれば話は変わってくる

観光立国戦略は、「いかに関係人口を経済指標化するか」、つまり「関係人口が増えると日本は良くなる」ということを前提とした政策をしっかりと描ききれるかということが肝になる。そうなると、まっさきに思いつくのが「関係人口の登録制度」だろう。エストニアが「e-residency制度」によって外国人にサービス提供を始めたように、日本各地がその特徴を生かした関係人口登録制度をつくれるようにするイメージだ。一見、ふるさと納税みたいなものだが、戦略の焦点は、サービス対象を日本人だけではなく、グローバルな旅行者に広げることだ。

たとえばアニメのコンテンツと連動して、地域がメタバースを提供するなどできれば、実際に旅行に来るかどうかは重要な指標ではなくなる。あくまでも、関係人口を増やすことが政府の経済指標である。これで、たとえば「2030年の関係人口を10億人にする」といった目標を政府は掲げて、地域が乗ってこれる関係人口サービスのプラットフォームを構築することができるだろう。数が限られているインバウンド旅行者を地域で取り合うよりも、ずっとワクワクする。

関係人口を思い切って国家戦略の中心に据えてみてはどうだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?