見出し画像

「文化の火」をつなげる「恩返しのリレー」

お疲れさまです。uni'que若宮です。

今日は「文化の火」をつなげていくための「恩返しのリレー」について書きたいと思います。


ミニシアターエイド

先日、ミニシアターエイドというクラウドファンディングの支援者懇親会に行ってきました。

「ミニシアターエイド」は、コロナ禍で経営難になったミニシアターを救うため、深田晃司監督が声をかけ、濱口竜介監督と発起人となって、motiongalleryで実施されたクラウドファンディングです。このクラウドファンディング、当初の目標額は1億円のところそれをなんと3日で達成!最終的には3億円以上もの金額が集まり、日本クラウドファンディング史上最高額で大成功となり、多くのミニシアターに支援が分配されました。

「ミニシアター」は比較的小規模な映画館ですが、大手映画配給会社によるメジャーな作品よりも「ミニシアター系」と言われるようなインディペンデント系の映画を上映したり、少しマニアックな独自の企画をしたりと、映画館ごとにそれぞれ特色を持ったユニークな存在です。大型のシネコンは全国ほぼ上映ラインナップが一律で画一的なのとは対照的です。

「ミニ」と名前がついてると小さな存在に思えてしまいますが、実は日本で年間1500本ほど公開される日本映画のうちなんと70%はミニシアターが上映しており、全体のうち4割500本くらいは、ミニシアターでしか上映されていないのだといいます。つまりミニシアターがなかったら4割の作品が日本では放映されないということで、映画文化にとってすごく大事な存在なんですね。


小さいけれど、文化の源

ミニシアターに限らず小劇場やライブハウスなどもそうですが、大きな資本をもたない小さなお店が実験の場や文化が生まれてくる土壌になっています。

大きなチェーン店はどこでもメニューが一緒ですが、個人経営の飲食店が土地土地の特色を生かし、それぞれ工夫したメニューをつくることで、日本の食文化の豊かさが生まれています。

しかしやはり、小さなお店は経営が大変であることが多くちょっとした不景気でも閉店してしまうケースもあります。そして僕たちはしばしば、好きなお店がつぶれてしまってから後悔します。そんなに経営大変だったら言ってくれたらもっとお金落としたのに!とか、潰れたあとでいくらいっても「後の祭り」です。

そして一度なくなってしまい、文化の火が絶えてしまうと、再び火を起こすのは大変です。火が消える前に支援してその火をつないでいければよいのですが、まさにその時に困っていることに気づいて支援するのはなかなか難しく、手遅れになることも多いでしょう。

実は今回、僕が一も二もなくすぐに支援をしたのには、原体験があるからです。地元の映画館が20歳くらいの時につぶれてしまって、町から映画館がなくなったのがすごくショックだったんですよね。パチンコ屋は儲かっているのに映画館はつぶれる。ここまで文化が大事にされないのか!とすごくがっかりして、町に失望した記憶があります。

映画館がなくなってしまうと、映画に触れる機会が減り、さらに映画の良さを知る人は減ってしまいます。文化はどんどん廃れていきます。でも、つぶれてから不平不満をいっても遅いんですよね。


当事者はSOSを出しづらいかもしれない

ミニシアターエイドの何が素晴らしかったかというと、そんな小さくてもとても大事なミニシアターの困窮に際して、映画監督が旗振り役となって「みんなで助けよう!」と声を挙げたことで大きなうねりになり、結果として大きな支援が集まった、というところです。

もし、ミニシアターがそれぞれ単館でSOSを出してもこれほど大きな金額は集まらなかったのではないかと思います。それになにより、大変な状況でも自分達から助けて!というのって結構難しいと思うんですよね。

日本では困っている時であっても自ら助けてといえるかというとちょっと抵抗があったりしますし、経営難を外に向けて発信するのはなかなか勇気が要ります。コロナ禍は本当に不測の事態ですが、新自由主義的というか自己責任で解決しましょうみたいなのが強いと、経営が立ち行かないのは経営努力が足りないからだ、とかつぶれるのは自己責任でしょ、みたいな感じで、SOSを挙げると甘えみたいに思われて叩かれたりすることもあるとおもうんですよね。


そもそも本当に困っている当事者は、ギリギリの中で声をあげる余裕すらないかもしれません。だからこそ映画館が大変な状況の時に、いち早くある程度成功していたり影響力がある映画監督が声をかけてこの支援が実現できたのが素晴らしいし、そういう形だったからこそ実現したところもあると思います。

「恩返しのリレー」

で、こういう文化をつなぐ「恩返しのリレー」みたいなのが大事、と改めて思ったわけです。

深田監督たちも「デビュー作はこの映画館だけが唯一かけてくれたんですよね」とおっしゃっていたんですけど、今では大きなシネコンとか全国で大々的に上映されるような映画の監督でも、やっぱり一番最初はやっぱミニシアターから始まったわけですよね。

俳優さんとかもいまテレビや映画やらで活躍していても小劇場がデビューだったり、ミュージシャンもまずは小さいクラブからライブしたりしていたわけですよね。だから今の成功も、最初の一歩を踏み出せた小さな存在があったからこそあるわけで。


一定成功したり影響力が大きくなったからこそ、そういう人たちが自分たちの源流であるような小さくて大事な存在を助けてあげられたらいいと思うんです。食えない学生時代に安く腹いっぱい食べさせてくれた定食屋さんとか。


小さい存在って公の支援が受けづらい構造もあったりします。たとえばコロナ禍でみんなが困っているときに、政府からの補助金とかそういう制度設計の時に声を届けやすいのってチェーン店とかの大企業だったりします。やっぱり政治家とかも動かしやすい。一方、個人経営は横のつながりも薄いので、声を上げづらい、届けづらい。

小さな飲食店に対しても山下ハルさんという世界的なシェフが声をかけて「日本飲食未来の会」っていうのをつくって支援を呼びかけたり国に声を届けたりしていらっしゃったのですが、僕自身、Arts for the Futureという文化庁の補助金の時に同じようなことを感じました。

文化芸術に関わる人達は個人事業主で力が弱く、困窮していてもその声は小さい。そこで当時署名を集めて参議院議員に要望書を届けたり、企業から集めた協賛金を500万円ぐらい分配したりしました。

そしてこうした動きができたのも僕が当事者そのものではなくて、ちょっと外にいたからっていうところがある気がします。ビジネス畑でコロナ禍のダメージも比較的小さいITの業界にいたからこそやれた。ミニシアターがあの大変な時ってのはミニシアター全部大変なんでお互い助け合う余裕はなくてみんなすっからかんみたいな状態になってしまう。

だからこそ、困っている業界のど真ん中にいるわけではない人で、少し余裕があったり影響力がある人が、過去自分をつくってくれた小さな存在に恩返しをする、みたいなのってすごく大事だと思うんですよね。


そういう風に文化の恩返しがリレーになって、文化の火が消えずにつながっていくとすごくいいなとミニシアターエイドの取り組みから改めて思いました。

誰しも自分を育ててくれた、小さいけれど大事な存在はあるのではと思います。そんな存在のことを思い出してみてください。そして、いま余裕があったらちょっとでもいいので恩返しを考えてみていただけたらうれしいです。文化の火が絶えてから嘆いても遅いのですから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?