老舗企業は後継者をどう選んできたのか?~海外が注目する日本の婿CEO~
世界中全ての企業CEOが、後継者に悩みを抱えていると思います。後継者と言えば、ソフトバンクグループ(以下、SBG)のニュースが話題です。孫正義CEOの後継者候補と言われていた、クラウレCOO(副社長)が退任したのです。一部の報道では、クラレ氏が求める報酬が1000億円を超えており、それも原因と伝えています。SBGのようにオーナー(大株主)兼経営者の企業は、世界的にも業績が良い企業が多いと言われることが多いものの、そういう企業ほど後継者に関しても悩みを抱えていることが多いのかもしれません。しかし、世の中には何世代も続く業績好調な老舗企業が多数存在します。今回は、そうした好業績が続く老舗企業は、どのように後継者を選んできたかについて考察します。
老舗企業に多い同族企業
古くから続く老舗企業には、同族企業が多いです。例えば、大株主は代々に渡り同族一族が保有し、CEOも同族が歴任するケースや、CEOは非同族に歴任させるケースなど多種多様な同族企業が多いです。こうした同族企業に関する多くの研究では、同族企業は業績が良いケースや、悪いケースなどが報告しており、同族企業だから必ずしも業績が良いとはならないことが判明しています。しかし一貫して報告されているのは、同族企業でも、相続という形で自動的に子孫にCEOを相続させる企業は、世界各国で平均的に業績が悪い傾向なのです(以下では、企業を同族&相続企業と定義する)。しかし、例外の国が1つだけ存在したのです。それが日本です。(Chandler、1977、Porter、1990)
なぜ日本の同族&相続企業は好業績なのか?
この謎について、検証しているのが下記の論文です。日本以外の同族&相続企業は、同族の血の繋がりを持つ娘や息子にCEOのポジションを継がせるケースがほとんどです。つまり、「血族」を重視する国が圧倒的に多かったようです。しかし、日本では有望な人材を、婿要旨という形で同族に受け入れて、娘と結婚させることで、CEOを継がせる形態が多く取られていました。この論文によると、婿CEOという形態は、日本以外のアジアや、欧米の同族企業では全く見られず、日本独自の慣習と報告しています。もかしたら、日本では「血族」以上に「家」を重視する形が古くから存在していたのかもしれません。この慣習は、古くは江戸時代から報告されており、戦後の同族企業の10%が婿CEOに継がせていたとのことです。そして、この論文の検証結果を見ると、婿CEOの同族企業は、そうでない同族企業よりも平均的に企業業績がよい傾向が確認されています。
Vikas Mehrotra, Randall Morck, Jungwook Shim, Yupana Wiwattanakantang, "Adoptive expectations: Rising sons in Japanese family firms", Journal of Financial Economics, Volume 108, Issue 3, June 2013, Pages 840-854
しかし、なぜ婿CEOだと業績が良い傾向が出るのでしょうか?主な理由は2つです。一つは、外部から優秀な人材を調達できること。もう一つは、優秀な非血族の人間が同族に入ることで、非優秀な血族の人間が追放の脅威を感じて、自ら努力をし始めることで、人的資本が蓄積されることが挙げられています。後者に関しては、優秀な人がライバルになるとドキッとする、あの感覚以上の脅威なのでしょう。
ただし、この論文でも指摘しているように、婿CEOを受け入れる娘の意向は無視されるケースなど、良いことばかりではないようです。
日本の同族&相続企業の今の形は?
令和の時代には、婿CEOというのはどう受け入れるのかはわかりませんが、優秀な人材に経営にコミットさせる手段としては非常に機能したようです。この論文では、実際に婿CEOを迎えることで繁栄している上場企業名が実名で掲載されています。しかし、その中には、今では婿CEOでなく、血族者にCEOを相続させる形に転換した企業も存在します。私個人としては、それが、その後の企業経営にどのような影響をもたらしていくのか注目しています!
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崔真淑(さいますみ)
*画像は、崔真淑著『投資1年目のための、経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』より引用。無断転載はおやめくださいね♪
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