RBG、Black Lives Matter、新型コロナ...ソーシャル・インパクトをテーマにした映画制作会社〜Participant Media (パーティシパント・メディア)
9月18日、性差別の撤廃などの実績でアメリカ社会で大きな影響力を持っていた「RBG」の愛称で知られるルース・ベイダー・ギンズバーグ米最高裁判事が亡くなりました。訃報をきっかけに報じられている多くの記事と併せ、彼女の生き様を描いたドキュメンタリー映画『RGB 最強の85歳』を観る機会がありました。1人の個人が果敢に、これだけの長い期間に渡って「世の中の当たり前」と思われていた法制度や社会認識を変えていく様はとても力強く、多くの方に是非観てほしい、と思える内容でした。
この映画を観てもう一つ気づいたことがありました。それは映画冒頭に一瞬表示されていた映画制作会社、Participant Media(パーティシパント・メディア)の名前です。パンデミック、BLM(ブラック・ライブズ・マター)など、ここ最近数ヶ月を振り返った際、世界的な大きな社会問題が発生した際に観た映画、ドキュメンタリーの多くがその制作会社によって手がけられていることに気付かされます。
・コンテイジョン Contagion (2011)
・ボクらを見る目 When They See Us (2019)
・黒い司法 0%からの奇跡 Just Mercy (2019)
・監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影(2020)
パーティシパント・メディアはハリウッドを拠点に2004年に設立された映画制作会社で、eBay初代社長のジェフ・スコール氏がソーシャル・インパクトを促すことをビジョンに掲げ、数多くの映画、ドキュメンタリー作品を手掛けてきた会社です。
初期の著名な作品としてはアカデミー賞を受賞した、アル・ゴア元副大統領が環境啓蒙活動を語る『不都合な真実』があります。
以下の紹介動画では過去の制作作品の場面がが数多く登場します。観たことがある作品はいくつあるでしょうか? [作品一覧はこちらで確認できます]
自分が初めてパーティシパント・メディアの存在を知ったのは、スコール氏が社会起業家支援のために運営している財団が毎年英国オックスフォード大学で開催しているカンファレンス、「スコール・ワールドフォーラム」に参加した2010年に遡ります。パンデミックの恐怖を描くフィクション映画「コンテイジョン」の封切り前のパネル・ディスカッションに参加した際、ハリウッドで活躍する監督の他、監修に関わっていた世界的に著名な感染症の専門家が感染症予防の重要性を強く語っていたことが、今になって強く思い出されます。
今年春以降、人種差別問題が世界的な大きな関心事になる中で理解を深めようと思って観た映画2作品、『ボクらを見る目 When They See Us (2019) 』、『黒い司法 0%からの奇跡 Just Mercy (2019)』もパーティシパント・メディアが手掛けた作品です。
驚くべきはこうした作品がネットフリックスなどのストリーミングサービスが普及したことで、短期間で多くの人に届けられるようになっていることです。『ボクらを見る目』は、セントラルパークで起こった暴行事件の容疑者として、ハーレムの少年5人が不当逮捕された実際の事件に基づく、注目の監督、エイヴァ・デュヴァーネイ氏による作品です。この作品はネットフリックス公開後、最初の4週間で世界中の2,500万ものアカウントでストリーミング配信され、ネットフリックス史上の記録となっているようです。
パーティシパント・メディアが手掛けている作品は100以上あり、これまでにアカデミー賞に73回ノミネートされ、『グリーンブック』、『スポットライト』など、18のアカデミー賞を受賞するほどに成長していることに驚きます。単なる映画製作会社ではなく、社会問題に光をあて、映画を観た人がたんなる視聴者でなく、参加者(パーティシパント)として、実際に人種、環境、社会正義などの課題解決に向けての意識変革、実際の行動へと促すことを目指している点が際立っていると感じます。映画の上映と併せて、映画で取り上げた課題に長年取り組んでいる信頼に足る非営利団体ともパートナーシップを組むことで「観て終わり」にならないよう、戦略的な取り組みも力を入れている点も注目に値します。
例えば先日ネットフリックスで公開された『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』の英語版公式サイトにおいては、巨大テック・プラットフォームのもたらす弊害、問題点を考えるために上映会の開催を促したり、継続的に学ぶことができるよう、ニュースレターの登録、関連書籍・記事のリソースへのリンクなどが紹介されています。パートナーとしては映画の主人公として描かれている人物が共同運営するセンター・フォー・ヒューメイン・テクノロジーの他、モジラ財団、アムネスティ・インターナショナルなど、6つの団体の名前が掲載されています。
今後観たい映画を探す際の1つの目印としての「パーティシパントメディア」という存在を再発見できたことを嬉しく思います。そして16年以上も前にこうしたビジョンを描いていた創業者ジェフ・スコール氏の慧眼に驚きと敬意の念を強く感じます。
日本語字幕付きのジェフ・スコール氏のTEDトークは以下のリンクからご覧いただけます。