「なぜ女性の起業を支援するんですか?」というしょっちゅう聞かれる質問に対する5つの回答
お疲れさまです、uni'que若宮です。
以下の記事を書いたのをきっかけに、この一年想像以上にジェンダーに関するイベントに登壇したり講演したりという機会が増えました。
そうした時に一番最初に聞かれる質問に
Q. 若宮さんは(男性なのに)どうして女性の起業を支援しているんですか?
というのがあります。
あまりに毎回聞かれるので、今日はちょっと改めて「どうして女性の起業を支援するんですか?」に対しての自分なりの答えをまとめてみようと思います。
A1. 支援ではなく一緒に冒険する仲間です。
女性活躍の文脈で、よく「起業支援」という言葉が使われるのですが、「支援」っていうとどうも上からな感じがあったり、支援/被支援という構造というか序列も感じて実はこの言葉にはけっこう違和感があります…
弊社では事業アイディアをもった女性が複業や子育てをしながらでも事業を起こせるインキュベーション事業「Your」を運営していますが、
そこには毎週のように色んな事業アイディアが寄せられています。(後に述べますが、その熱量をみると「女性は起業に向いていない」とか「女性は起業したがらない」というのは全くの迷信だということがよくわかります)
応募者とアート思考的な壁打ちをしながら事業アイディアを固め事業化していくのですが、一緒にチームとなって事業を立ち上げていくので、「支援」という感じは全然ありません。もちろん事業オーナーとなる方の強い想いが起点になっているのですが、メンバーはそれを外から応援するというよりも共感・共鳴し、一緒に悩んだり喜んだりしながら事業をつくっていきます。「支援者ー被支援者」という1wayの関係ではなくて、お互いに助け合いながら一緒に冒険する「頼りになる仲間」という感じです。
A2. 目詰まりがすごすぎて勿体ないからです。
同じように女性活躍の文脈でよく使われる言葉に「empower」というのがあるのですが、これも暗に「女性には力が弱いから」というようなニュアンスがあるような気がして違和感があります。
講演などの際にお話することもあるのですが、僕は実は4人きょうだいで男ひとりの家庭で育ちました。家庭では女性がむしろマジョリティーだったのもあり(そしてきょうだいがまあまあやんちゃだったのもありますがw) そもそも女性の能力や可能性については当たり前に確信しているのですね。
(生涯ずっと短パンじゃねえかおれ…)
よく、
女性活躍に必要なのはempowerではなくてuncover
だと言っているのですが、女性はpowerが足りないのではなくそれに蓋がされているだけだと考えています。残念なことに現状では、女性の能力とか可能性が十全に引き出され社会に解き放たれているか、というと全くそうなっていないのです。
よくこれを「フィルターの目詰まり」に例えます。エアコンとかもそうですが、フィルターが目詰まりしていると上手くパフォーマンスが出ませんよね。それはエアコンの性能に関わらず。
起業前、大企業で新規事業を長くしていたのですが、ご存知のように日本企業の管理職の女性比率は国際的にみてすごく低い状況にあります。
結果、ほとんどの組織で決裁者は男性ばかり、ということになってしまっています(その象徴が内閣ですが…)。するとどうなるか、というと、女性が提案する事業やアイディアについて男性マネージャーがニーズを理解できないために企画にGOが出ない。そうしたケースをものすごく沢山見てきました。
これはまさに「目詰まり」で、あまりにも勿体ないと思います…
起業に関しても同様で、投資家は男性ばかりという問題があります。↓のANRIさんのようにこうした状況に問題意識をもつ投資家も増えてきましたし、女性の投資家も増えてきたのでこれからに期待したいです。
A3. 偏りのせいでアクセスが悪すぎるからです。
環境的な課題は管理職比率の話だけではありません。領域での偏りもとても激しいのです。
「新規事業」という領域でもジェンダーの偏りはとても大きくあります。大企業にいた時の経験でいうと、会社全体の男女比は6:4くらいだったのにも関わらず、新規事業部では女性の比率は1割程度。そしてスタートアップではさらに低い印象です。
また、いわゆる「理系/文系」でも偏りがいまだに大きくあります。(女性でSTEMを学ぶ人はOECDの中で最下位レベルです)
僕が最初に行った大学は工学部でしたが、なんと1,000人の定員に対し女性は50人しかいませんでした。またも5%です。この偏りはは高校くらいに顕著になりますが、「理系は男性、女性は文系」という謎の迷信がいまだに根強く残っています。この「偏り」は、実際には文字通り「偏見」によって生み出された結果なのですが、生物学的とか脳科学的な事実だ、と信じて疑わない人もまだまだおり、「偏り」が再生産されています。
(テストしたら男性は理系の点数が高い、という人もいますが、これは「晴れ女」「雨男」くらいの迷信だと思ってます。本来は有意な差分がないのに信じ込んでいるために「ほら、また雨が降った」とどちらか一方だけを強く記憶するのです。小さい頃から「あなたには向いていない、苦手なはず」と言われ続けたらそりゃあ苦手意識が先行して成績下がりますよね。…ていうか男性が理系に強いならなんで医大で点数一律下げたりするんじゃあああ!!!)
こうした偏りの結果、こんな感じの状況になっているのですね。
女性は社会の偏見によって文系や家事に「寄せられ」、理系や事業の方には男性が集まっている。よく、
女性は武器や仲間をさがすだけでも一苦労
という話をするのですが、たとえば男性だと起業しようとおもったら、エンジニアリングの知識とかに離れているし、エンジニアの友人とか投資家とかけっこうすぐ見つかるんですよね。で、すぐ冒険に出られる。でも女性はそうではなくってスタートラインに立つまでになぜか一つミッションをクリアしないといけないっていう… そして異性ばっかりたむろしているところに入っていくのって、コンビニとかだってちょっと気まずいですよね。
よく「女性は起業に向かない」とか「女性は起業したがらない」とかいいますが、こんなにアクセスが悪いんですよ???ドイツと日本からフランスに訪れる人数比べて「日本人はフランス嫌いだ」とか言います???
このようにものすごく不自然な「偏り」が現状あって気持ち悪いし、それによって現状ではあまりにアクセスが悪いので徐々に解消していきましょう、と言っているだけなのです。
A4. だからこそチャンスの宝庫なのです。
こうした「目詰まり」や「偏り」は、女性を事業から遠ざけてきました。
尊敬する奥田浩美さんがよく「両目を開けてみましょう」とおっしゃっていますが、
新規事業や起業にはこれまで男性が多かったので、市場ニーズとかも男性の視点(片目)でばかり見てきたところがあります。
先日、ドイツの起業番組で男性の起業家が「生理用品を捨てるためのピンクな手袋」っていう事業アイディアを出して女性から批判の声が上がるということがありました。(しかも驚いたことにこのアイディアには出資提案があり、女性起業家の生理パンツの事業アイディアは投資を受けられなかったという…)
こういうのってまさに「片目つぶってる」せいですよね…
政治や社会の仕組みも含め、当事者の多様な視点がないといかに的外れなことをしてしまうかの実例でもありますが、当事者だからこそわかるニーズというのはまだまだたくさんあります。昨今フェムテックが注目されていますが、これまで少なかった女性の視点は「チャンスの宝庫」なのです。
これまでは男性が優先されて起業や事業に多くひしめいてきましたが、裏を返せばそれって、そっちの視点はすでに「掘り尽くされている」という事でもあります。どちらにチャンスがあるか、というのはとらえ方次第だと思うのです。
A5. そして未来をつくるためです。
そして、これまで不足していたこそ、女性の起業は未来をつくります。
A4.で触れたフェムテックもですが、いま、事業や産業の価値軸は大きく変わりつつあります。これまではとにかく規模を大きく利益を大きく、を目指しそのために搾取や消費を拡大してしまっていましたが、それでは「地球にとっても社会にとっても産業が持続可能ではない」ということにやっと人類が気づいた。これからの事業や経営はSDGsへとそのゴールを方向転換してくことが求められます。
するとどうなるか?
これまで既定路線であり、至上命題であった「拡大成長」の軸は、
こんな風に変わります。
すると軸の変化に伴い、企業や事業の価値も大きく変わるのです。
規模が大きい企業こそがトップランナーであったこれまでの価値観からみると、女性の起業やフェムテックは先頭集団にも入れず、隅の方にいるように見えていたかもしれません。しかし価値の軸が変わるとそちらの方がむしろ「未来のフェアウェイど真ん中」になり、「未来のトップランナー」になります。これまでとはちがう価値の軸で事業をつくる女性の起業は、未来をつくっているのです。
そしてまた、女性の起業家が増えることは働き方の面でも未来をつくります。
(少なくとも今のところは)女性は妊娠・出産するしかありませんから、大きなライフスタイルとワークスタイルの変化の影響を受けます。また、日常でも女性はホルモンバランスにより心と体の状態が変化し、また個人差も大きくあります。こうしたライフステージや体調の変化に対し、画一的な組織や働き方が阻害要因となって、女性の可能性が発揮される大きなハードルとなっていました。結果として仕事は「男性の方が有利なゲーム」となり、ジェンダーギャップが固定化されていました。
しかしそもそもをいえば、働くというのは組織に人が合わせるものではなく、人に組織が合わせてつくられ、チームのパフォーマンスを最大限発揮するために工夫されるべきものだと思います。
女性の管理職比率向上」を掛け声にしても、その実は男性がつくりあげた直線的な組織に女性が無理をして合わせないと昇進できない、という状況もあります。もちろん、組織のルールを変えるために組織の中で上にあがっていくことも重要です。
しかし、「変えるために(いったん無理に)合わせる」という皮肉なプロセスを無理に通らず、「最初から人の働き方に合った組織や働き方」をつくることも出来るのではないでしょうか?
女性の起業が増えると「従業員がライフステージや体調の変化に合わせ、柔軟に活躍できる組織」自体がもっとたくさん生まれていくはずです。
つまり、みなさんが起業することで、「組織や働き方の未来」も増えるのです。
社会の創造性を高めるために。
このような発信をしていると「フェミニストなんですね」と言われることがあります。しかし僕は女性だけの応援をしているのではないのです。
女性だけを応援するなんて不平等だ!逆差別だ!というような声もあります。しかしすでにみたように、現状こそがあまりにも不平等なのですからそんなことを言ってはいられません。日本の産業もずいぶんと長いこと停滞していますが、これ以上女性の可能性を制限しているような余裕があるのでしょうか?
女性の起業を増やしましょう、というと、男性の起業家が不利になる!というような声も聞きます。しかし社会を変えようという起業家はそんなちっちぇえことを言わなくていいのではないでしょうか。そもそも起業家のパイはゼロサムではないはずです。起業は社会全体の価値を増やすことなのですから、女性の起業家は自分の取り分を減らすライバルではなく、いっしょに社会の価値を増やす頼もしい仲間だと考えてみませんか。
環境破壊、社会の分断、そしてウイルスの猛威。社会にはたくさんの課題があります。もっともっと進化できるはずですし、このままの状況を未来に渡すのではなく、今変えることができると信じます。
(これは本来は男性/女性という二分法の話ではありません。LGBTQ含めより多様な価値観を生かしていくためにもモノクロに一つずつ色を足していけたらいいなと思っています)
現状の「目詰まり」や「偏り」を減らし、女性がたくさん起業できる社会になることは「チャンスの宝庫」であり、「未来」をつくるものです。そしてそれは、それは事業においても社会においても「頼れる仲間」を増やすことに他ならないのです。
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