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コロナ時代の飲食店経営「逆転の思考」。

中村保晴 | 事業戦略家

新型コロナによって飲食店の経営が急に困窮した」。
それはある部分その通りなのだが、果たしてそれだけなのか。

確かに新型コロナは人の買い物の仕方を変えたし、そういう意味では人の生活そのものを変えたと言っていい。飲食店経営においても、人の動きが変わったり人が人混みを避けるようになったことで流動客やたまたま客の減少はあっただろう。

しかし「飲食店のこの現状」を本質的に考えてみよう。どの産業にも「時代が変化するタイミング」があるのだ。そして飲食店はもう20年以上も市場規模を減少させている。つまり新型コロナは確かにトリガーにはなっているが、その前から「変化していかなければ難しい産業」だったのだ。

人の生活が変わるとき、市場は変わる。

例えば外食産業の市場規模が 18兆円というと 小さな個人店にとってはピンとこないものだ。自分の店舗の売上が300万円から200万円に下がったら焦るのだろうが、毎日の売上が1~2万円下がっても「今日は暇だったね」で終わってしまう。そしてそれが1年続き、2年続き「あれ?」と思ったときには大金を叩いて改装するか移転しなければ売上を作れなくなる。

これは今までも繰り返された「時代の変化」の典型的なパターンだ。

例えば、私が子供の頃には”町の電気屋さん”や”町の薬屋さん”があった。住居の1階に店を構え、その店の息子や娘が同級生だったこともよくあった。

それから大人になり、初めての給与でテレビを買おうとしたとき、私は何も迷わずに”町の電気屋さん”ではなくヨドバシカメラに行った。そしてそのテレビを部屋に持ち込んで使っていたときにふと思い出した。

「そういえば町の電気屋さんって最近見ないな。」

街には家電量販店と言われる大型店や、ドラッグストアと言われる店舗が自動車で30分も走れば3〜4店舗目に入る時代になった。その大型店舗が出店していく中で「町の電気屋さん」「町の薬屋さん」はどうなっていったのか。

当たり前だけど、どこかのタイミングで廃業しているのだ。

それを「厳しい」と捉えるか「仕方ない」と捉えるかは自由だが、問題は「その大型店ができない何か」を見出せなかったことだ。それが現実的に可能だったかどうかはわからない。それほどまでに「時代の変化」という「人の生活の変化」はビジネスに大きく影響を及ぼすのだ。

そう思うと「新型コロナウィルスの蔓延」は人の生活を大きく変えた。みんなマスクをするようになったし、入り口ではアルコールをシュッシュする。これはコロナ前には無かったことだ。

テレワークもそうだし、オンラインで完結するビジネスも多くなった。今や人々の生活の中心には「スマホ」がどっかり座っている。スマホによって生活が営まれている。それが現代だ。

飲食店経営の方も他のビジネスの方もそれはもう変えられない。ビジネスは「人の生活の変化」に大きく影響を受けるのだ。そういう意味では ①新型コロナウィルスの蔓延  ②スマホを中心にしたライフスタイル。その2点はビジネスにとって意識せざるを得ない現代の2ポイントだと私は思うのだ。

point-1: 新型コロナウィルスの存在により、人の生活行動が変わった。
point-2: スマホ中心のライフスタイルによって、人の生活行動が変わった。

まず、飲食店経営の市場はもう20年以上も「右肩下がり」だと知ることだ。

新型コロナウィルスの国内感染者が初めて確認された2020年1月15日から、まさに飲食店経営は困窮を極めている…とされている。

飲食店市場(フードビジネス市場)の現実的な市場規模においても、その新型コロナ感染者が初めて確認された2020年1月から12月までの1年間は、前年比-30.7%の18兆2000億円に落ち込み、コロナ禍において最も影響を受けた産業として厳しい経営環境を強いられているビジネス。それが「飲食店経営」の今の姿だ。

飲食店市場(外食産業市場)は1990年代の29兆円をピークに下がり続けている。つまり約20年以上もの間、飲食店の総売上高は下がり続けているということだ。これは何を意味するのだろうか。

私は外食企業(飲食店経営)のプロデュース・コンサルティングを10年以上してきて、その「市場減少のメカニズム」と「それを克服する逆転の思考」について研究し実体験として施策を講じてきた。今回はそのメカニズムと逆転の思考についての一端を記事にしていこうと思う。

※[ニュース記事]  コロナ禍で奮闘する焼肉業態の取り組み例


今、飲食店は何に力を注ぐべきか。

フードビジネスが市場規模30兆円に手が届く手前(1997年)から現在の18兆円まで下がっていく中で、まず私が感じている最初の課題は「マーケティング」だ。

飲食店は立地産業と言われるように、店がどの場所にあるかが重要なビジネスモデルだ。資金力のあるチェーンストアは好立地に出店してより高い売上を獲る。駅前のいい場所にあるのはたいていチェーンストアだし、ロードサイドも交差点の角にある好立地にはたいていがコンビニチェーンか飲食チェーンがあるものだ。

そうした資本主義、資本力優位のフードビジネスだからこそ、例えば近隣半径10kmにチラシを入れたりポスティングしたりすることで瞬間的な顧客反応を勝ち得ていた。しかもそんな時代が長かったことによって「お客さまに来店してもらう」ということに安易さを感じてしまったという側面があるように感じる。

「お客様が店に来店してくれる」

今こそその現象に目を向けるべきだ。しかもそれは他のどのビジネスも取り組んでいる普通のことだ。見込み客は誰で、その人は何を求めていて、その人が行ってみたいと思ってくれるフックは何か。そしてその人をどこで探し、どうアプローチしていくのか

私は外食のクライアントの店舗や業態をコンサルティングするときに、まずは「お客様が来店してくれる」という状態をつくるためのマーケティングを組み立てるようにしている。現代はそういう「情報」を発信できる時代だし、人々の生活の中心にスマホがあることに対応した施策こそが、多くの飲食店に不足している部分だと思うからだ。

総じて言うと、飲食店はまず「マーケティング」に力を注ぐべきだ。広告媒体に依存するのではなく、自力集客の仕組みを構築する時期に来ている。やり様はいくらでもある。自店に合った戦術で、ただ”来てもらう”という願望を持つだけではなく、こちらから仕掛けて「来たくなる」「行ってみたくなる」ような情報を意図的に発信する戦略が必要だ。

飲食店が今すべき営業戦略は、マーケティングだ。


人の問題、原価の問題。どうやるかよりも「何をやるか」。

特に首都圏の飲食店は2019年頃の客数が戻ってきているという。それは喜ばしいことだ。暗黒のコロナ禍3年間に対してその終わりを予感させる結果でとても喜ばしい。

しかし一難去ってまた一難。今度はサービスや調理するスタッフが確保できない環境にある。飲食店というビジネスは、いくらお客様が来てくれてもスタッフが不足しているとチャンスロスを直接的に発生させてしまうビジネスだ。

  • 席が空いているのにバッシングできなくて、お客様に帰られてしまう。

  • 調理スタッフが少なくて提供時間が遅れてクレーム。

  • 下げもの台がいっぱいで時間をロスしてサービスに影響。

  • スタッフ数は少ないのに、作業が先送りになって人件費は下がらない。

  • オーダーしようと呼んでも誰も来ない。

  • スタッフがバタバタしてお皿をガチャーン。

  • などなど。


日本は人口が減少している。地域によってはまだそれほど売上に影響が出ていない郊外圏もあるようだが、それでも日本全体で見ればじわりじわりと減っているのは確実だ。人口が減るということは 「胃袋の数が減る」ということだから飲食店からすると死活問題だ。絶対市場が年々減っていくわけだ。その事実は飲食店にとっては 早かれ遅かれ重く大きな問題になる。

人口減少は、店のお客様の数という点ではまだ現在は大きな問題になっていないのかもしれないが、スタッフの採用・確保という点ではどうだろう。すでに大きな問題になっている外食企業や飲食店は多いのではないか。

客数や売上はじわりじわりと下がっているのに、一人当たりの賃金は年々高騰している。それはそうだ、人手不足で困っている店が多ければ多いほど採用時給与は高くなる。高くしないと他産業に取られてしまうからだ。飲食店では今や主要都市ではアルバイトを採用するのに時給1500円以上は当たり前になっている。

原価も同じように高騰傾向にある。こちらは特にコロナの影響も大きいわけだし、難しい局面にあるのが現状なのかもしれない。

このような「ビジネスの難しい局面」に遭遇することは何も飲食店に限らず 他の業種・業界でもよくあることだ。そしてこういう難しい局面が立ちはだかったときに経営者の「人間の本質が出る」。ビジネスとはそういう営みなのだ。

「今」をどう捉えるかで次のアクションが変わる。

例えば「人(スタッフ)が足りない」という現象が発生したときに募集活動をするわけだが、そのときに働き手を「労働者」と捉えるか「人財」と捉えるかでまず行動が違ってくる。これはマーケティングでいうところのペルソナで「どんな人に来てもらいたいのか」という募集のベースを明確にする必要があるわけだ。

採用したいのは「労働者」か。
それとも「人財」か。

実際は労働をしてもらうわけだが、そりゃできれば「優秀な人財」が欲しいと思うのは自然なことだろう。ここで少し考えてもらいたいのだが、優秀な人財が何を求めて求職しているかという視点で「人の採用」をみたことがあるだろうか。

これはつまり「入る側」の目線で自分の店を捉えてみるということだ。雇う側の自分たちの考えではなくて、入る側の目線。実はそれが現代の人財採用の大きなキーポイントになる。

飲食店で働く意思のある求職者6,000人余りのアンケートデータを見てみると、「いきなり忙しすぎて教えてもらっていないのに作業をやらされる」と答えた人が32.6%もいる。あと「店に馴染めない(人間関係)ような気がする」が18.3%。「勤務時間が長い」が29.8%。

これらを総じて判断すると「いきなり(教育もほどほどに)現場作業に突っ込まれて長時間働かされる」というイメージがあるようだ。

この現象が仮にあるとして考えてみると、「入りたい店」とは程遠い現況が見えてくる。店としては人手不足だしすぐにでも作業をしてほしいし、人件費や生産性を考えると現場で作業をしてもらうことの方がメリットはある。

しかし「入る側」からみると、オペレーションだけでなく出来栄えのスタンダードやあるべき状態、あるべき作業手順をしっかり教えてもらわないと苦しいだけだ。しかも長時間労働となると、他の産業に行きたくもなるだろう。

そのスタンスを変えれらないのなら、ずっと労働してくれる人(労働者タイプ)を採用していけばいい。外国人労働者や高齢者を戦力化するという方法もあるし、私もそういう企業のお手伝いもしてきたからそれも経営者の意思決定ひとつだと思う。

しかし人の能力というのは、熟練度や技量(作業スキル)だけでは測れない。特に飲食店はチームビジネスだから、チームの役割を各人が担うことで1+1=2 ではなく、1+1=無限大という図式を生むことができるわけだ。

そんな人財の力を発揮させて店を活性化させること。それこそが飲食店がこの時代にも繁栄していくための数少ない手法だし、そのためにこそ「ただの働き手」ではなく、「人財」を採用していくことに注力するべく理由なのだ。


人財を採用するためにまず考えるべきこと。

これについて私がここ数年してきたことは「入りたくなる店舗環境」をまず整備することだった。

言い方を変えれば「求職者の不安を取り除く」ことを環境化したということ。”不安に思う点は何か”という設定は業態や店舗によっても違うと思うので様々。例えば「新人の歓迎ムードを肯定し、意図的に創る」というのもあれば「教育・評価を明確にしてチャレンジ意欲をかき立てた」ケースもある。

ここで重要なのは、単純に「時給」や「手当」で誤魔化さないということだ。時給や手当も求職者にとっては重要だということはわかる。しかしそれでは傷口に絆創膏を貼るのと同じだ。本質的な人材難ループからは脱却できない。そしてクーポンと同じでいつまでも時給を上げ続けなければならなくなる。現代は傷口の手当てではなく体質改善こそが重要なのだ。

だからこそ私は「店側の都合」よりも「求職者の不安」にフォーカスしてきた。どこもかしこも人材難のこの時代だからこそ「入ってくれる人の気持ち」にフォーカスすべきだと 私は思う。

さて、個人店はどう考えるべきか。

人は誰しも「新しい職場」には不安が付きまとう。経営者であるあなたも会社員時代はそうだっただろう。これはオーバーではなく誰でもそうだ。ましてやそれが転職であれば尚さらだ。

大手チェーン企業であれば、企業としての受け入れができるだろう。しかし個人店〜数店舗の飲食店であればできないかといえばそんなことはない。

むしろ大手チェーンよりもアットホームにできるかもしれない。またオーナーの意思が伝わりやすいというメリットもある。大手ほど労働環境の整備ができていないかもしれないけど、それさえもアットホームで働く上で不安がない職場の方がいいという人もいるだろう。

つまりこれは何が先か。何を優先させるのかという、経営者の意思決定の話だ。マーケティングも求人も、基本は「来てくれる人」の立場や気持ちになって自分の店を考えれるかということだ。

そして不十分だと思う部分があれば、それを変えていく勇気が必要だ。それに向かって団結して推し進める行動力も必要だ。

一昔前、飲食店は「待ちの仕事」だという人がいた。しかしこのコロナによって世の中の人たちの生活は大きく変わったのだ。しかも情報はスマホから毎日毎日目に入り、そしてそれを人々はきちんと活用している。

店を選ぶのも求人を探すのもネット(スマホ)でできる時代。もはや待っているだけでは縮小していくことを意味するこの時代。待ち続けるということは昔の「待ちの電気屋さん」と同じ運命になってしまう可能性があることを知るべきだ。


あの「トイザらス」だってアメリカの本社は倒産した。10数年前はあれほど盛況だった勝ち組企業が、amazonに負けたのだ。しかしトイザらスがamazonに負けたという事象の裏側には「人の買い物の仕方が変わった」という時代の変化があったことを知っておく必要がある。それほどまでに「人の生活の変化」はビジネスに影響を及ぼすのだ。

飲食店経営は今、変化の時期にある。まさに生き残りをかけてノウハウ勝負の時代が始まったのだ。



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