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Femtech Fes! 2021:アートワークショップによる共視効果

femtechという波があります。起業、投資、新規市場、センサー、サービス、社会課題など、さまざまな文脈で注目を集め始めています。

fermata株式会社は、その中でも、グローバルな視野を持ち、サービスの社会実装を通した社会変革の波を引き起こす可能性を大きく秘めた組織です。

今回、そのfermata株式会社が主催したFemtech Fes! 2021は、海外で展開されているプロダクトも数多く参考出展されていました。日本国内において未認証医療機器も多数あり、社会実装までに超えねばならない壁の存在とともに、大きな可能性を感じました。

タブー感に目を向けるアートワークショップ

fermata株式会社主催・日本医療政策機構共催で「Femtech Fes! 2021」というイベントが、2021年10月22日〜24日まで六本木アカデミーヒルズにて開催されました。光栄なことに、このイベント内カンファレンスにお誘いいただき、参加してもまいりました。登壇させていただいたのは、『「valvaわらい」でからだと向き合う』というもの。

「生殖器は命に直結する大切なからだのパーツ。しかし、身体の中でも意識しないと見えにくい場所にあるため、自分の外陰部がどのような構造や形をしているか、全く知らないという人も少なくありません。今回は、女性器、特に外陰部(=Vulva)を「福笑い」形式で思い思いに作り上げ、あらためて自分の体と向き合うきっかけを提供します」というもので、女性器をフェルトでかたちづくる、というアート系ワークショップでした。

女性器は、身体の器官のひとつなのに、なかなか話題にしづらい部分です。その「なかなか話題にしづらい」という感覚自体が、文化的背景も含めた教育、社会的抑圧などによってもたらされるタブー感を根に持っています。

そのタブー感について、アートのアプローチで目を向けよう、という実に興味深いワークショップでした。僕自身、とても大切にしている「共視」というコミュニケーションの構造にもつながるもので、とても楽しみに参加させていただきました。

「共視」という構造

カンファレンス内の自己紹介の中で、共視の構造について触れました。

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僕は、Holoeyesというソフトウェア医療機器ベンチャーの役員を務めています。CT/MRIなどのデータから構築された患者固有の3Dデータを空間として把握する、ホログラム手術支援を提供しています。写真のように、術前カンファレンスや術後の振り返り、また手術室内での確認などに活用いただいています。

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創業当初から、ひとつの課題に向き合ってきました。写真(右)のように、人体は3次元構造体、手術も3次元空間内にて行います。しかし、写真(左)のように、CT/MRIなどの医用画像は2次元です。もちろん、2次元データをもとに3次元データ化されるようになってきましたが、その3次元データを閲覧するのは2次元モニター上です。この2次元モニターでの閲覧による錯覚の可能性については長くなりますので、また別の機会に述べたいと思います。

いずれにせよ、医師は、頭の中で3次元構造体を想像し、理解し、記憶して手術に望みます。

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ベテランの医師は、この2次元データを3次元かする上での、想像し、理解し、記憶するスキルを身につけています。しかし、若手医師、メディカルスタッフ、医学生は、ベテラン医師ほどのスキルレベルに到達していない場合があります。ベテラン医師が、症例ごとに構造を説明し、術式を説明したとしても、相手が頭の中で同じ3次元構造を想像しているかどうか、確認のしようがありません。想像しているものを、共に視ることができないからです。

僕も含めて、患者は、解剖学的な理解がゼロである場合も少なくありません。インフォームドコンセントで語り合うべき臓器の位置や大きさすらわからない。その状態で、術式説明を受けても理解は難しいものがあります。

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そこで、XR技術の出番です。XR技術を用いることで、患者固有の3次元データを、空間として体感することが可能となります。体感を伴う空間的認知の向上は、3次元構造の理解を圧倒的に向上します。昨年、東京都と共に行った実証実験でも、その効果が定量的に示されました。(参考:東京都デジタルサービス局 実証実験の進捗状況_最終報告

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患者さんが自分の体を理解することは、とても大切です。写真は、腎臓移植後の患者さんのものです。小さな紫色のものが、機能していない腎臓です。腰のあたりにあるピンクの大きなものが、ドナーから提供された移植腎です。患者さんがこれをみて、自分の体に新しく移植された腎臓を抱きしめていました。「大切にします」と。腎臓移植後には、免疫抑制剤を服用する必要があります。しかし、服薬を怠ってしまい、移植された腎臓が無駄になってしまうというケースが一定数あるそうです。このように、自分の体に向き合うことによって、理解が進み、行動が変わっていくことが期待されます。このことは、服薬コンプライアンスの向上への期待、透析に戻らなくて済むという医療費への影響、なによりも提供してくださったドナーに対して、とても大きな意味を持つと思うのです。

理解することが、行動を変えていく、その大きな一歩につながるのだと思います。

ヘルスケアサービス開発での学び

女性の生理について。僕自身も、理解をすることで行動が変わりました。7〜8年ほど前、基礎体温計というセンサーと連動する女性の生理周期の乱れの検出と受診勧奨をするヘルスケアサービスの開発に、コンセプト設計から開発チームマネジメントまで関わらせていただく機会がありました。

この仕事の中で、必然として女性の整理について学び、会議の中でもメンバー同士で話すことが日常となりました。メンバー自身が生理中であったり、月経前症候群であったりすることを、仕事の中で話すようになりました。

こうした経験により理解が進んだことで、家庭内においても、タブー感なく話したり聞いたりできるようになりました。頭痛がするとか、風邪気味だとか、便秘だとか下痢だとかと同じように、当たり前の体の状態変化として話せるようになったのです。

共視構造を促すもの

コミュニケーションの構造として、「共視」という形があります。かつて、カリフォルニア大学にてバウンスというゲームがつくられたことがあります。20歳以上離れた見ず知らずの人と、20分間電話で対話する、というものです。かなりハードルの高い対話です。この際に、行動リストのようなものを突き合わせ、同じような経験を探すと、対話がはずむということが見えてきたといいます。たとば、「考え事をするときにゼムクリップを伸ばす」というような、些細な行動です。これは、互いに直接向き合うのではなく、何かを介して対話するというコミュニケーションの構造をつくる、というものです。

この形は、仕事の場面でも、教育の場面でも、プライベートの場面などでも、みなさん経験的にご存知かもしれません。対面して座るよりも、隣同士もしくは斜めに位置して座ること。お互いのことを直接的に話すよりも、同じ映画やドラマについて話したり、読んだ本について話したりした方が話がはずみます。お酒の席で、気に入らない上司や案件についての愚痴が盛り上がるというのも、この共視の構造のひとつです。

今回の「Valvaわらい」は、まさにタブー感のある部位に目を向け、それをアートワークショップという形式で、作り上げることで、それを共に視る構造を生み出していました。

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社会全体の対話を促すもの

さらに、素晴らしかったのは、fermata株式会社グローバルビジネスマネージャーのカマーゴ李亜さんが用意されていたプレゼン資料です。女性器の部位ひとつひとつを説明する際に、その部位ごとに関連するプロダクトを紹介されていました。どこかのタイミングで、このプレゼン資料を公開していただけたらと思います。解剖学的な説明だけではなく、その器官が持つ意義や課題のようなものと、そこへ介入するためのプロダクトが合わせて紹介されることで、自分ごととして想像できる文脈が生まれていました。

それは、Femtech Fes! 2021にて150以上のプロダクトが展示されている会場全体にまで広がる、大きな「共視」の形を示唆するものですらありました。

以前、カンブリアナイトにて、fermata株式会社Co-funder/CEO杉本亜美奈さんに、いくつかのプロダクトを紹介いただいたことがありました。その際にも、プロダクトを介して、とても大きな反響があり、活発な対話がありました。

サービスやプロダクトが生まれてくるということは、その対象となるものについて共に語り合うきっかけが、社会のそこここに芽生えることだと思います。こうしたサービスやプロダクトは、それを利用する人だけではなく、全ての人が共に視ることで、社会全体として対話そのものを大きく変わえていくきっかけになるものだと思います。

すべての人が、妙なタブー感に苛まれることなく、もっと自由に語り合えるような世界が近づくことを願っています。

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