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アリババとテンセントに対する独占規制の行方と想像を超えるプラットフォームブロック合戦

今年も12月に入り、もうすぐ終わろうとしていますが、今年は中国政府の規制に関する報道がたくさんありましたね。アリババへの規制も含め、中国政府による大手IT会社への取り締まり強化のニュースを目にする機会が多かったです。

実はIT、メディア、金融関連だけではなく、政府による反独占や市場環境の改善に関する動きは他にも多数あります。ただ、国有化やら独裁やらどうなっているんだと判断が難しいことも多く、海外メディアではそんなに話題にならなかったと思われます。

日本ではあまり取り上げられていない中から、先日話題になった「Wechatの独占解除」についてを紹介します。

■Wechatについてを簡単に解説(お急ぎの人はとばして下さい)

新しい読者のために簡単にWechatについて紹介します。日本ではよくLINEみたいなものと紹介されますが、IMアプリでありながら、決済やEC、飲食店のセルフオーダー、水道ガス料金の支払い、友達との割り勘などはできます。これらはLineでも似たような機能があると思いますが、いずれもWechatが先行しています。

そしてこれ以外にも、公衆アカウントやアプリ内ミニプログラムなど様々な機能があって、日常生活の利用から重要な情報源の一つにまでなっています。これが使えないと中国で生活できないよ、と思うほど重要なインフラツールです。

データを久しぶりに調べてみたんですが、既にユーザー数が12億を超え、DAUが10.9億。各サービス利用状況は、毎日ビデオ通話を利用するユーザーは3.3億、モーメンツをチェックするユーザーは7.8億、モーメンツに書き込む人が1.2億、公衆アカウントの文章を読むユーザーが3.6億、ミニプログラムを利用するユーザーが4億です(テンセントで2021年1月の講演会でWechat事業を担当する副総裁である張小龍さんが発表)。

以前にWechatを運営してる会社のテンセントについて詳しく書いたので気になる方はこちらをどうぞ↓

■ことの経緯

11月29日、Wechatが「Wechatの外部リンクコンテンツ管理規則についての更新声明」を発表し、個人対個人のチャットでは直接外部リンクへアクセスできるようになり、グループチャットにもECリンクへのアクセスが可能になりました。

これは9月17日に個人チャットでの外部ECリンクへのアクセス制限解除以来の動きで、Wechatがタオバオのリンクをブロックしてから8年間経過しての解禁となります。

あまりにも急な出来事でタオバオはWechatへのシェア機能の更新もまだ間に合っていません(2021年12月1日時点)

実はこの一連の行動にも、政府による行政指導が入ってます。今年の9月、中国工情部が「外部リンクの遮断問題に関する行政指導会議」を行ったんですが、この会議でIMアプリのコンプライアンス基準が提示されました。「期限内に各プラットフォームが基準に備えてブロックを解除しなければならない、もしも対応しない場合は法的措置が行われる」というもの。これをうけてタオバオ、Wechat、Tiktokはオフィシャルに積極的な姿勢を示しています。

工信部の部長が取材に対して「プラットフォーム経済が好調で急成長していて社会経済の発展と国民生活の便利性の向上にも非常に役立っているが、今後はプラットフォーム経済の健康かつ秩序ある発展を進めていきたい」と言ってました。

■具体的にはどうなっていたの?

テンセントのメイン事業であるWechatは、長年競争相手であるアリババ社のサービスや外部リンクへのアクセスをアプリ内でブロックしています。例えば、外部URLリンクや公衆アカウントの文章、BiliBiliの動画、Weiboなどでの面白い内容を友達にシェアしたい場合は、TwitterやインスタにシェアするようWechatでも簡単にシェアはできます。しかしタオバオの買い物リンクやTikTokの動画はシェアできないです。

ECサイトでとある商品を見た時、買うべきかどうか友達の意見を聞きたいとか、お得な買い物があるから一緒に買いたいとか、面白い動画があって共有したいとか、全部禁止でした。ここはソーシャルニーズが非常にあるところなんですがね。

そして、タオバオをはじめとした一部ブロックされたECサイトの今までの解決策はこうでした↓

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アプリ内でWechatの友達にシェアしてアクセスすれば、自動的に↑の意味がわからない文章が作られます。中国語っぽいけど中国語ではない、でも似たような感じや発音でピンインと文字をミックスしてなんとなくどのアプリから発信されたものなのか分かります。

この文字をWechat画面の友達に送っても直接リンクやアプリへ飛ぶことができませんが、友達がこの内容をコピーしてタオバオで立ち上げれば、アプリが自動的にペーストされリンクが認識され、指定されたリンクに飛ぶことが可能になります。

また、Tiktokブロックの解決策もありえない方法でした。動画が短いからWechatの友達にシェアしたいと押せば自動的にダウンロードができてその動画そのものを送ることになります。なぜありえないかというと、視聴のシェアはできますが、その動画にコメントしたい場合はロゴの下に書かれたアップ主のIDを暗記してTiktok内でリサーチしてからその人のアカウントにアクセスしてアップされた内容の中からその動画を見つけ出して...(rya。インスタ内に書かれた外部リンクみたいです。

なんとも中国っぽい抜け道ですよね。今まではできなくはないが、非常に面倒くさかったのです。

■今までも起きていた中国ITプラットフォーム間の不便加速合戦と現在

今までの遮断の歴史も面白く、2008年には既にIT大手各社で行われていたんです。2008年9月、タオバオが最初に百度のクローラを遮断。つまり市場シェア1番の検索エンジンからリサーチしてもタオバオの商品がいっさい出てこないのです。一見クレイジーに思いますが。タオバオ側の当時の理由は、不徳の出店者が百度の有料サービスを利用して検索結果での順位を操作することが可能なので、これによって自社プラットフォームの信用が落ちるから、というもの。。

その後テンセントと360の間では壮絶なセキュリティーソフトに関する「2者1択」事件がありました。これもまた面白いのですが今回は割愛。この件以来競争社の間のサービスブロックがますます増加していきます。

2013年7月、アリババがWechatとの第三者サービスを全面的に中止すると発表し、Wechatからのデータの利用を全面的に遮断。出店者にも商品情報ページにWechatのQRコードの使用を禁止したり、なんと「微信」のニ文字の利用すらもタブーになってました。

そして2013年の11月に両社の断絶は決定的に。Wechat内でのタオバオリンクが全てアプリのダウンロードページに飛ばされ始めたのです。タオバオによる見解は「Wechatからのリンク訪問は本物のタオバオリンクか偽物なのか非常に判断が難しく、その画面でタオバオのIDとPWを入力すれば非常にリスクが高い」とのこと。無理がある解釈ですよね...

すると、テンセントもすぐにタオバオのダウンロードリンクをブロック。もしアクセスしてもリンクがブロックされているので、どうしてもアクセスが必要であれば手動でコピペしてブラウザからアクセスしてくださいとの画面になります。アクセスブロック合戦の本格開始でした。

それから8年間経過。どう解釈しても一般的な認識としては、これは競争者の間のアクセスブロック競争にしか見えない。だってテンセント(Wechatの運営企業)の資本が入ってるJDのリンクはWechatで普通にアクセスできるし、JDでの買い物はアリペイで支払いできないですから。

この間、同じ遮断に対してTiktokが法的対応を行いました。2020年に反独占法が修正され、今年の2月、Tiktokが北京知的財産裁判所に「テンセントによるWechatやQQでのTiktokシェアの遮断は反独占法違反で、その行為を直ちに中止すべき」と訴え、9000元の損害賠償も主張しました。(この争いはまだ途中なので判決が下されたら詳しく書く予定です。)

今回の動きは一連の反独占行動の一つではありますが、中国のネット民がアリババ傘下のタオバオ、TmallなどでのWechatペイの利用可能も期待しているでしょう。ユーザー的には便利になるのでもちろん歓迎しています。

そして思うに、タオバオもWechatもウカウカしてられない、つまらない争いをしてる場合ではなくなってきたのかも。ネットショッピングではpinduoduoが急成長しててアリババの絶対的なポジションに挑戦してきているし、TiktokもKwaiもEC事業がますます伸びているのです。アリババがこれからどう対応するか非常に楽しみにしています。

(参考資料)



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