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70年代前半並みまで落ちた円の価値

REER、再び70年代前半以来の安値
日本株市場は活況を呈していますが、為替市場では引き続き円独歩安の地合いが続いています。これは対ドル相場だけではなく、貿易量および物価水準を用いて算出される通貨の総合力である実質実効為替レート(以下REER)で見ても顕著で、円のREERは2021年7月時点で73.15まで下落しています。6月は72.44でした。近年では黒田体制下での金融緩和およびこれに伴う円安・株高が最も勢いのあった2015年6月に記録した70.66が変動相場制導入直後(1970年代前半)の安値に匹敵するということで話題になりましたが、今はその水準に肉薄しています。この点に言及する記事も増えています:

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2015年時のドル/円相場と言えば同年6月10日に125.86円を記録し、これがアベノミクス下での最高値となりました。この日、黒田日銀総裁が衆議院財務金融委員会で「実質実効為替レートがここまで来ているということは、ここからさらに(実質実効為替レートが)円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と語り、為替市場では円買いが殺到し、ドル/円相場が急落したことが思い返されます。その後、125.86円を超える円安は今日に至るまで記録されていません。

物価の劣後が主因
ドル/円相場が110円付近で安定していることもあって、REERがそれほど下落していることを多くの日本人は実感していないかもしれません。日本に暮らす殆どの人々にとって為替とはドル/円相場と同義であり、ドル/円相場が安定していれば円の価値変化を気にすることはないでしょう。

しかし、REERは主要貿易相手国に対する①「名目為替レート」と②「物価の相対的な変化」に依存して動く計数です。①が動かなくても、②で日本の物価が諸外国に対して下落すればREERは下がります。前掲図を見ると、2017年前後からREERの下落幅は名目実効為替相場(NEER)のそれよりも徐々に大きくなっていることが分かります。この傾向はコロナ禍で一段と強まっています。これは名目ベースで円が売られる地合いもさることながら、相対的に日本の物価が落ち込む状況が強まっていることを意味します

今年に入ってから元々劣後していた日本の物価環境はさらに世界から取り残されるようになっています:

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欧米の物価はインフレ警戒が囁かれるほど上昇する一方、日本のそれは下落しています:

理論的にはこうした物価格差は名目ベースの円高で調整されるはずですが、様々な理由からそうはなっていません。この理由は別の機会の議論に譲りたいと思いますが、日本企業の対外直接投資増加や輸出拠点としての日本経済の地盤沈下が影響しているのではないかと筆者は推測しています。名目レートで円高が進まない中でREERが下がるということはそれだけ日本の物価が突出して下がっているということを意味します。事実そうなっています。

コロナ禍で海外に出る機会が減っているので実感することは難しいが、REERの現状を踏まえる限り、「日本人が海外に出て消費・投資をする」というハードルは著しく上がっていると言えるでしょう。逆に、訪日外国人が日本で沢山買い物をする理由もこのREERの現状を見れば良く理解できます。要するに日本人以外にとって「日本は安い」という状況が強まっていると言えます。最近、新聞・雑誌等のメディアでは「安い日本」特集が増えてきたように感じますが、それは為替レートの観点からも十分理解できるものです。

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