自分の適正価格(給与水準)を把握していますか?
こんにちは。Funleash志水です。いつもNoteを読んでくださり、ありがとうございます!梅雨ど真ん中の関東は毎日どんよりした天気が続いています.
でも夏はもう目の前です!
さて、今日のテーマは「給与」です。
会社にお勤めの皆さんはご自身のもらっている給与の相場はご存じでしょうか?満足しているかどうかは置いておいて、高い、もしくは低い、こんなものかな・・皆さんはどういう感触をお持ちでしょうか。
人事のプロとして、特にキャリアの中でも「報酬制度の設計」に長年携わってきたために、職種を聞くと給与の相場が頭に浮かびます。
先日、知人からこんなエピソードを聞きました。
「昨年の成果が認められて担当副部長に昇進したのだけど、あまり給与が上がらなかったんです。責任とやることだけは増えたのですけどね・・」
ちょっと不満そうでした。「その役職と仕事内容本来なら最低でも◎◎くらいの水準はもらうべきですね」と彼女にいうと驚いた様子でした。
もしかして皆さんご自身の水準を知らない?この問いが浮かびました。
最近、他国と比較すると日本人の給与が低すぎること、過去数十年の間、給与がほぼ上がっていない。その話題が各方面で取り上げられています。
この問題は今に始まったことではないのですが、給与も物価も上昇している諸外国との格差が年々広がってきており、ここにきて日本でも物価が上がってきたのに給与が上がらない。かなり異様な状況が起こっています。
今日は、自分の給与の水準や世界・市場での位置を認識して時には声を上げないと、私たちの生活の質はどんどん下がる一方だよというお話です。
日本の給与は諸外国と比べるとダントツに低い!
今のところはまだ経済大国である日本の平均給与水準が低いことはご存じだと思います。表にするとその数字は衝撃です。
図 1OECDのデータを見ると加盟国35カ国中で22位で38,161(円安なので今は約500万超えに見えますが、当時の為替レートで約447万円。)これは米国の約半分程度です。韓国からも抜かれてしまっています。
図2のグラフはさらに驚愕。過去20年間、諸外国は給与が上がってきていますが、日本はずっと横ばいです。
物価水準を考慮すると実質給与は下がっているということになります。生活必需品を輸入に頼っている私たちの生活へのインパクトは言わずもがなですが、海外にいくと、以前と同じものをより多くのお金を払わなくてはいけないので(さらに円安の影響もあり)より一層「日本が貧しくなってきた」ことを実感する機会が増えました。
日本人の給与が上がらない理由については諸説あります。
企業の内部留保の水準、アベノミクスの失敗、税制の問題、低迷する日本企業の業績、労働生産性の低さなど・・このあたりの論点は識者に譲りますが、誰もが異論を唱えないであろう明白の事実があります。それは日本が「悪循環のスパイラル」に陥っていることです。
「不確実で予測しづらい将来」を心配するあまり企業は社員の給与を上げない、ゆえに個人の消費が拡大しない、結果として企業の収益が伸びない。日本はこのループから抜け出せないでいます。
「最低賃金の引上げ」を提唱する記事をたまに見かけますが、諸外国の政策を見ると効果は少ないことがわかっています。実際、OECD調査で日本の上位に位置しているいくつかの国は最低賃金を設定すらしていません。
「最低賃金」ではなく、「最高」水準へ。国民の給与を引き上げるために何をすべきなのか、小手先に制度をいじるのではなく、抜本的に変える包括的アプローチが必要だと思っています。
そういう意味では、岸田内閣の「所得倍増プラン」には多くの課題はあるものの一筋の光が見えます。家庭に眠る金融資産が日本市場に流れることで活性化するのは明らかです。ぜひ実現してほしいものです。
給与はどのようにして決まるのか?決めるべきなのか?
それでは個人の給与額や昇給はどのように決まるのでしょうか?給与の決定に影響を及ぼす要因を考えてみます。下の図を見てみましょう。
大変残念なことに、多くの日本企業に共通している点として、「自社の報酬の理念・方針」と「市場の水準」が欠落しているという問題があります。
報酬の理念とはなんでしょうか?少し話がそれますが、外資系の事業会社にいたとき、
「国籍や性別ではなく成果に応じて支払います(Pay for Performance )」
「業界全体で給与は上位の◎%以内に、福利厚生を含めて報酬全体で上位◎%以内を目指します」という明確な方針を全社に掲げて、社員に実際の水準を開示していました。すべての施策は理念や方針に基づいて作ります。
もし会社の理念や方針をご存じなければ経営や人事に質問してみてください。
・うちの会社の報酬の理念・方針はどんなものでしょうか?
・マーケット水準に対してうちの会社の給与はどのあたりに位置しているのでしょうか?
もしかしたら煙たがられるかもしれませんが、皆さんの将来を預けられる会社なのか判断するリトマス試験にもなります。
市場のデータなどを見ないで何十年も同じ給与制度を使用している会社がまだまだ多いことは残念でなりません。会社の業績が良いのに社員に還元しないような会社は淘汰されるべきだと思います。
さて本題に戻します。なぜ、「自社の報酬理念」と「市場の水準」が欠落しているのか・・気になりますね。
答えは簡単です。日本企業は人材の流動性が低いからです。競争力のある給与水準を維持しなければ人が退職する外資と異なり、2%前後の退職率しかない日本企業は給与を上げる強いインセンティブが働きません。また新卒一括採用が主流であり、外部から優秀な人材を獲得するニーズがなかったことも原因です。
「給与を上げなくてもうちの社員は退職しないし」
「新卒採用を増やして少しずつ昇給すればいい(実質上がってない)」
「固定費を上げたくないから調整弁となる非正規を雇えばよい」
今時こんな思想で経営している会社は少ないとは思いますが、これまでの日本において多くの経営・人事はそう考えてきたのです。
自分の適正価格を知ることから始める
冒頭のエピソードで、昇進したのに給与がほとんど上がらない・・これは明確な説明がない限り、納得してはいけません。より大きな職責を担うのであればそれに相応しい給与を要求する権利があります。
給与交渉や要求は日本では「タブー」みたいな空気がありますが、個人の観点からだけではなく、日本社会のためにやっているのだと奮起して声を上げてほしいと思います。(当然会社と個人の業績を達成していることが前提です)誠実な対応をしてくれる会社ならきちんと対応してくれます。
給与の交渉をする際には(あるいは転職の時には)市場における自分の適正価格を知っておくことは重要になります。交渉しないにせよ、自分の給与はどれくらいなのか気になりますよね?簡単なやり方をご紹介します。
①政府やコンサル企業が発行している「給与調査」をチェックする
弁護士や会計士など専門性が高い仕事の給与が高いのは知られていますが、実は食料品やサービスのように、給与においても需要と供給の関係があります。企業からの需要が高く市場にその仕事ができる人材が少ない、つまり採用が難しい職種は人材市場において給与が高めになります。逆にその仕事をできる人が市場にたくさんいる時には、給与を高く払わなくても簡単に採用できるため、相対的に給与は低くなります。例えばリーマンショックの後は大量のディーラーやアナリストが市場に放出されたのでこれらの職種の給与が下がりました。今の時代ではDXに関連する職種、特にAIエンジニアやデータサイエンティストなどの職種は希少なので高騰しています。世界中でニーズがあるからです。
世界最大の人事コンサルであるマーサージャパンの報酬に関する調査を見てみましょう。
日本企業ではデータアナリティクス、外資系では経営企画や法務の職種の給与が上昇していることがわかります。日本企業の平均給与が、外資系企業1-3年以内の人材とほぼ同じ水準。英語ができることも関係していますが、驚きですね。
こちらのデータは一部抜粋ですが、報酬調査に関する資料はコンサルや採用エージェントが提供しています。政府統計でもネットで入手できます。産業、会社の規模、職種、役割などを見ながら自分の適正価格を知るために時々チェックすることをおススメします。
②採用エージェントに定期的にあって情報を得る
もう一つ手っ取り早い方法は、実際に採用エージエントと会うことです。
転職する予定がないから・・と敬遠されがちですが、キャリアの棚卸しや客観的に自分の立ち位置を確認できる利点があります。転職する・しないに関わらずぜひトライしてみましょう。自分の適正価格、つまり、市場でどれくらい給与を払ってもらえるのか教えてもらえます。
良いエージェントに出会えば、どのようなスキルを身に着けたら良いのかアドバイスをくれたり、キャリア相談にも応じてくれますので一石二鳥です。無料のサービスですから活用しましょう。
余談ですが、私は自分の部下に定期的にエージェントに会って自分の市場価値を確認してくるようにお願いしていました。大抵の場合は、「うちって本当にいい会社ですね、エージェントから恵まれているよといわれました」と帰ってきましたw。自社の給与水準は競争力がある、他社に引き抜かれるわけないと自信がある場合にはこちらもお勧めです。会社へのエンゲージメントが高まり、自社の環境に感謝するようになります。
重要なのは、
自分の適正価格を把握し、自分のスキルや専門性を磨いて市場価値を上げるために日々努力する。
もはや会社が雇用を保証してくれる時代ではなくなりました。有事のときにすぐに動けるよう普段から準備しておくことで将来への不安が軽減します。
お金がすべてではありません。仕事にはもっと大きな意義があると思います。一方で、何かをやりたい、挑戦したいと思ったときに経済的な余裕があれば選択肢が広がります。さらに、家族の将来を考えたときには、お金が重要になる場面もはやりあります。
冒頭に書いたように政府や経営の取り組みは時間がかかりますが、個人でできることもあります。
自分の給与水準(適正価格)を意識し、それらに影響がある要素を理解する。自分の身を守る必要な武器(知識)を身に付ける。会社の提供する報酬(給与)制度のロビイストとして意見を言う。
今まで自分の給与についてあまり考えてこなかった方に、このNoteが少しでもヒントになれば大変嬉しいです。