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政策目的としての「同一労働同一賃金」と司法判断としての「同一労働同一賃金」

明けましておめでとうございます。堀田陽平です。
本年も働き方について色々書いていきますので、よろしくお願いいたします。

2021年になり、ようやく経産省歴と弁護士歴がそれぞれ2年と並びました。
そこで、「政策と司法が乖離しているのでは」といわれる「同一労働同一賃金」について思うところを書いてみます。

「同一労働同一賃金」の政策目的は何であったか

同一労働同一賃金の導入はこれまでも何度か議論されてきたものの、実現に至ったのは今回の働き方改革実行計画によってです。
働き方改革実行計画や「ニッポン一億総活躍プラン」を踏まえると(以下リンク参照)、今回の「同一労働同一賃金」は、次のようなことを目的としているといえます。
① 正規雇用として働くことが困難な事情を抱える人材の労働参加を図る
② 日本ではパートタイム労働者の賃金水準が正規雇用と比べて4割低く (欧州諸国では2割)均等・均衡待遇を確保し非正規雇用の賃金水準の上昇を図る

そして、究極的には、これにより増加した可処分所得が消費に回りGDPの上昇につなげるという「成長と分配の好循環」を目指しています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/plan1.pdf



日本の同一労働同一賃金は、この考え方が進んでいる欧州諸国の制度を参考にしていますが、欧州諸国では「平等」の観点から議論されているのに対し、日本ではこうした社会・経済政策の観点から議論されていることは一つの特徴ともいえるでしょう。

また、こうした政策目的からすると、「派遣の同一労働同一賃金は負担が大きい」ということで批判的な意見もあるものの、パート・有期雇用労働者だけの待遇を改善しつつ、派遣労働者については何ら措置を講じないということは「非正規雇用」の政策としてはおよそとり得なかったものと思われます。

司法はどう判断したか

昨年10月、同一労働同一賃金(厳密には、旧労働契約法20条)に関する最高裁判例が3つ出されました。

最高裁は、正規雇用には賞与、退職金が支給される一方で非正規雇用にはこれが支給されないという点について、「不合理ではない」としました。他方で、手当や休暇については「不合理である」としました。

もちろん、最高裁の判断は、「当該事案について」の判断であって、どの会社のどの紛争でも同じ判断になるということではなく、今回の最高裁の判断でも「その他の事情」として、当該企業に固有の事情も考慮されたうえでの判断となっています。
しかし、社会的には、「賞与、退職金は非正規雇用に出さなくてもOK」 というある種の“誤解”が広まっているようにも思います。

元政策側/現弁護士として思うこと

一度人材政策にかかわった者としては、上記の①労働参加、②非正規雇用の賃金上昇という「政策目的」に照らすと、最高裁の判断は「非正規雇用にとって厳しいな」と感じます(上記記事中でも、東京大学の水町教授は「働き方改革の流れと逆行する」とコメントされております。)。

他方で、法律解釈の専権は司法権にあることから、「司法判断>政策目的」と捉えざるを得ませんし、現弁護士としては、上記最高裁の判断は働き方改革関連法による法改正前の条文についての解釈ですが「法解釈としては妥当な判決だったのでは」と感じています。

上記の最高裁については専門家の中でも評価が分かれていますが、経産省歴と弁護士歴が同じになっている私のなかでは両面的な感想が入り混じっています。

非正規雇用の課題は終わりではない

政策側と弁護士側から複雑な感想を抱いた今回の最高裁の判断ですが、ただ、政策目的そのものが「間違っている」とは言えないでしょう。

これにより「正規雇用」自体の待遇の見直しを迫ったことや、非正規雇用の賃金が「不合理に」低いことを是正するという目的、そうした不合理な待遇差を解消し様々な事情を抱える人々の労働参加を図るという目的、そしてこれにより「成長と分配の好循環を図る」という目的それ自体の妥当性は、否定しがたいのではないでしょうか。

上記最高裁判断がなされたからといって非正規雇用の待遇差の課題は終わったわけではなく、中長期的(もはや短期的か)にみれば、非正規雇用の待遇格差の課題は、今後も社会的、経済的に重要な課題として向き合っていく必要があると思います。

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