見出し画像

新型コロナワクチンに関する最近の報道について思うこと

 世界では少なくとも70カ国が新型コロナウイルスワクチン接種を始めており、日本は欧米に比べて2カ月遅れのスタートになりましたが、2月17日から接種が始まりました。まずは国立病院機構など100病院の医療従事者約4万人に接種し、3月中にまず117万人分にあたる計234万回分を全国の自治体に配る計画ですが、470万人程度とみられる接種対象の医療従事者の2割強にとどまる模様で医療従事者の接種完了時期は不透明です。

 接種当日は朝から各メディアがこの様子を中継し、最初に接種した医療者を第一例目として大々的に報じました。国民の注目が集まるところではありましたが、ここまでする必要があったのでしょうか?

 これまでに開発された新型コロナワクチンの主な副反応としては、接種部位の痛みや体のだるさ、頭痛、筋肉痛などが報告されており、ファイザー製ワクチンではアナフィラキシーと呼ばれる重度のアレルギー反応はこれまでの報告では20万回に1回の割合で起こっており、確かに既存のワクチンによる副反応の頻度(おおよそ100万回に1回)よりも高い印象があります。しかしながら、現段階では新型コロナウイルスワクチンを接種した人は既存のワクチン接種者によるデータに比べてもきわめて少ない状況であり、これから接種者が増えてくればその差は縮むのではないかと推測されます。また全身の副反応の頻度が高いのもそれだけ免疫の獲得が確かなものになっているとも考えられます。

 実際に新型コロナに罹患した場合の症状や重症度と、イスラエルなど海外における新型コロナウイルスワクチンによる発症予防効果、ならびにこれまで報告されている副反応の頻度と程度を天秤にかけて考えれば、接種するメリットの方がはるかに高いと考えられます。ちなみにトラベルクリニックでもある私の診療所では海外渡航者に対して筋肉注射である海外製のワクチンを数多く使用しており、特に腸チフスワクチンの副反応としての接種部位の痛みや腫れは同じくらいの頻度です。また日本ではあまり行われていない筋肉注射に過度の不安を抱いている方も少なくはない印象ですが、慣れている医療者が行えば手技や接種時の痛みはほとんど変わりません。但し、テレビ等の映像を見てお分かりのとおり、日本の医師は筋肉注射に慣れていない現状があります。針を刺す角度や逆血を確認していることなど、皮下注射の手技のようにもみえました。

 接種と並行して国は先行接種を行った医療者に関する接種後の健康状況を観察して定期的に公表する予定ですが、早速20日にワクチンの副反応と思われる事例の公表がありました。

じんましんの症状が出た人は、富山労災病院(富山県魚津市)で19日に接種を受けた。同病院によると、接種後にじんましんが生じ、すぐに消えた症状が出た人の職業や年齢、性別は答えられないとしている。
厚労省によると、ほかに接種を受けた1人に悪寒や震えの症状が出た。接種場所などは公表していない。急性のアレルギー症状である「アナフィラキシー」ではないという。

 接種直後に出現した症状と思われるのでワクチンの副反応と考えられますが「すぐに消えた」とか「アナフィラキシーではない」のであれば、大々的に公表する必要があるのでしょうか?今後も「発熱した」とか「痛みが続いている」など既存のワクチンでも一定の割合で発生する副反応をいちいち公表していたら過度の不安を煽ることに繋がりかねないと考えます。時にはワクチン接種前からの健康上の問題があり、たまたま接種後にその問題が発生する可能性もある訳です。定期的に公表することも重要ではありますが、起こった事実をただ公表するだけではなく、因果関係を明確にした上で医学的に重要であることを詳細に報告していただきたいと思います。さらに例えばですが、今後新型コロナウイルスワクチン接種が進んでいくにあたって「また副反応の報告」「アナフィラキシーの疑いか」「高齢者の接種に暗雲」等々、国民の不安を煽り接種を滞らせるような報道も控えていただきたいと思います。

 余談ですが、専門医として20年来ワクチン関連領域を研究し、小児・成人・海外渡航者に10,000回以上のワクチン接種を実践し、論文を報告している私の個人的見解として、注射が「痛い」「痛くない」「副反応の頻度」というのは薬液の成分や接種部位によるところもあるとは思いますが、やはり「接種する人の手技」によるところ(つまり上手・下手)が大きいと思います。ちなみに私はこれまでアナフィラキシーや某教授は良く経験すると仰っていた接種直後の迷走神経反射などを経験したことはありません。

#日経COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?