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ワクチン接種証明書は海外渡航の際に必要なもう一つのパスポートとなり得るか?

 政府は海外渡航者への新型コロナウイルスワクチン接種証明書を7月中旬にも発行すると発表しました。諸外国では入国および検疫管理を円滑にするためにこのような取り組みが広がっており、グローバリゼーションの正常化に向けた環境整備が急がれている状況下での判断とみられます。発行は接種記録を管理する市区町村が行う模様です。既に必要な方は少なくないようで、先週私のところにも「渡航するので英文のコロナワクチン接種証明書を発行して欲しい」という方が来られたので、これまでに使用してきた他のワクチン接種証明書のフォーマットを改訂してお渡ししました。

 ワクチン接種証明書は「ワクチンパスポート」などと言われることもあり日本観光振興協会は早期に導入すべきだと会見しています。さらに一人でも多くの人にワクチン接種を広げるため観光業界として職場接種に協力する方針を示し、その進展に合わせて国際基準に沿った形で「ワクチンパスポート」を導入し海外との往来再開を早期に実現すべきだとも強調しています。

経済効果をもたらしたインバウンド(訪日外国人)など観光分野においても「ワクチンパスポート」は必須だ。国際的に後れを取らないよう、検討の加速が求められる。欧米などでは新型コロナウイルスワクチンの接種歴を証明するパスポートの導入が進み、観光再開が広がる。日本観光振興協会の山西健一郎会長(三菱電機特別顧問)は「国際交流が回復し、地域経済の活性化にもつながる」と期待を寄せる。

 その一方で「ワクチンパスポート」には倫理上の懸念も避けられないところです。健康上や宗教上、あるいは自身の価値観からワクチンの接種を控える人、接種対象外の12歳未満の小児(特に小学6年生は11歳と12歳ともに同じクラスにいます)などとの間に生じる差別やハラスメントなどにつながりかねない可能性があり、日常生活での導入には多くの議論の余地が残されています。最近になってワクチン接種にまつわる議論がなされるようになりましたが、これまでにもワクチン証明書が必要とされるケースはいくつかあります。

① 黄熱ワクチン接種証明書(イエローカード)

 蚊で媒介する感染症の一つである黄熱の流行地域や流行可能地域は出入国管理に際して国家機関発行による国際予防接種証明書(イエローカード)が求められ、携帯していないと入国拒否されます。但し、9か月未満の乳児は接種禁忌であり、60歳以上の高齢者も重篤な副反応出現率が優位に高くなることから、禁忌証明書を発行することがあります。

② 海外の学校に入学するためのワクチン接種証明書

 主に北米の大学入学の際に要求されるのが、MMR(麻疹+おたふく風邪+風疹の3種混合ワクチン)Tdap(破傷風+ジフテリア+百日咳の3種混合ワクチン)の接種で、接種記録があることまたは抗体が陽性であることが必須となっている場合がほとんどです。この証明がなければ入学できませんので、母子手帳などで接種記録が確認できないような場合にはワクチン接種をしなければならないことになります。

③ 医療従事者の入職時の抗体価証明書

 大学病院など感染管理部門が機能している施設では入職時に必ず流行性ウイルス性疾患(麻疹・風疹・おたふく風邪・水痘)とB型肝炎の抗体検査を実施します。基準となる抗体価に満たない場合はワクチン接種をすることになります。強制となっているわけではないと思われますが、院内感染対策上は必要な対応と考えられます。

 COVID-19ワクチンはイエローカードのような位置づけまでにはならないと思われますが、諸外国でのワクチン証明書の導入が進んできた場合、国境を越えた自由な往来を目指すためには接種したワクチンの相互承認が必要となります。また現在日本では海外から帰国した場合、自宅待機などで2週間の健康監視期間があり、仕事を含む通常の社会生活が送れないことから、諸外国で入国後の隔離免除があったとしても2週間以上の休暇を取らなければ海外渡航ができない状況です。海外旅行を待ち望んでいる日本人は相当数おられると思います。水際対策の緩さが問題視されていますが、せめて2回のワクチン接種済の人には、感染対策の徹底を促すことを前提に健康監視期間を短くするなど海外渡航緩和の方向性を検討していただきたいものです。自身も早く海外渡航したいですし、何よりも渡航外来の受診者が戻ってきて欲しいところです。

#日経COMEMO #NIKKEI

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