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職場で「うまくいかない人」と協働していくために大切な3つのこと

日頃、職場で「なんかあの人とうまくいかない」「どうしてこの人はこんなことをする(言う)んだろう」「なぜあの人はこんなにもうまくやれないんだろう」と、モヤモヤを抱えている方は少なくないのではないでしょうか。

私が心理学的な立場から行う、企業へのコンサルテーションでは以下のようなことを大切な3つのポイントとして挙げています(詳しくは後述)。

  1. 言葉のかけ方が大事

  2. 意図や理由をきちんと説明できているかが大事

  3. 本人の訴えが「苦手(障害)に起因している」か「単なる本人の願望」なのかを分けて考えることが大事

そもそもこの話題を取り上げたのは、この寺尾紗穂さんのエッセーを拝見したのがきっかけです。

ここでのエピソードは、まさに私が日々臨床現場で向き合っている現実に近いものがあります。

よく耳にするエピソード

「空気が読めない発言ばかりする社員がいる」
「部下のこだわりが強くて全然指示を聞き入れない」
「優先順位をつけて行動したり、業務の計画を立てるのが極端に苦手」
「言葉や表情から相手の気持ちを察することができない」
「何度も何度も同じミスをする。とにかく仕事ができない」

私が臨床心理士/公認心理師として、企業からメンタルヘルスや組織マネジメントに関して相談を受ける際に、このような悩みを(特に管理職の層から)受けることが近年とても多くなりました。以前は、うつ病などの精神疾患の相談が多く、今もそれは続いていますが、特にうつについてはある程度対処法などが知られるようになってきたからか、相対的に減っています。

代わりに多くなってきたのが、社員の方々からの「部下や同僚のことが理解できない」「どう指導・サポートしたらいいかが分からない」という悩みで、上記のような特徴はよくお聞きする問題です。もちろん全ての人がそうだということではないですが、お話をうかがう限り、その背景には「発達障害」の特性がある人たちが一定数いるであろうことを感じます。

つまり職場での「うまくいかない人」を考える上では、少なからず「発達障害」の存在や傾向も考慮する必要があるのです。
(あくまでも「も」です。一応誤解のないように・・。)

発達障害に対する誤解

最近はメディアで取り上げられることも多くなってきたせいか「発達障害」という言葉を聞いたことない人は職場でも少なくなっています。しかし一方で、理解や対応という面では、いまだ不十分であるといわざるを得ません。
その例として、全般的な誤解と正しい理解について挙げてみたいと思います。

「仕事に支障があるなら、発達障害を治してから働いたほうがいい」
→発達障害は「病気」ではありません。生まれつきの脳の特性であり、  障害です

「君は発達障害だと思うから病院行ってカウンセリング受けたほうがいい」
→仮に診断を受けたり、グレーゾーン(傾向がある)とされたとて、特定の治療法や薬が一律にあるわけではありません。また、カウンセリングは本人の動機に基づくものです

「発達障害を言い訳に使って自分の好きなようにしている」
→「苦手なことがある」と言い換えれば個人差はあれどみんな苦手なことはある。そもそも職場で自分の好きなようにって実際できましたっけ?

とまあ、いろいろあるわけですが、発達障害を取り巻く環境は近年大きく変わりました。特に2021年に改正障害者差別解消法が成立し、国や自治体のみならず、民間事業者においても合理的配慮が法的に義務化されました

たまに誤解される法律を正しく理解する

障害者差別解消法 第8条第2項
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000065


なお合理的配慮というのは、障害者権利条約において「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」とされています。

つまり「障害特性に応じた職場環境の配慮や工夫を組織ですべし」ということなのですが、「法的に義務化されたから、障害者本人のためにとにかくいろいろ変えなきゃいけない」ということではないのです。

ポイントとしては、まず「本人の訴えに基づいていること」です。つまり、本人からの「合理的配慮をして欲しい」という意思の表明がなければ事業者が義務を負うことはないのです。

またもう一つは、「配慮のために職場や他の人が過重な負担を負う必要がない」ということです。仮に本人からの訴えがあっても、それがその職場で実現不可能だったり、他の人の負担が多大であれば、できないことも当然あります。

もちろん、要望と対応のすり合わせはしたほうがいいですし、前提として障害がある当事者本人の「自分について説明するための努力」も必要でしょう。

いずれにしても、特別扱いが必要なわけではないし、特に優しくしなきゃいけない、ということではないのです。あくまでも、他の人と同じスタートラインに立てるようにしましょう、ということです。目の見えない人に紙の資料で「読んでおいて」って言わないですし、車椅子を使ってる方に「階段登ってきて」って指示しないですよね。

「うまくいかなさ」をどう考えるか

要は障害の特性や、強い苦手さがあって難しいことがあれば、スタート地点や機会が他の人と同じ条件になるように調整するということが必要なのです。普段私たちが「当たり前のこと」と思っていて、全ての人に同じように提供されているものだから、平等である、というのは実は不平等になっている可能性を踏まえておくことが大事です。

「空気が読めない発言ばかりする社員がいる」
→単純に目には見えないルールや文化を知らないのかもしれない?

「部下のこだわりが強くて全然指示を聞き入れない」
→そもそも指示の内容を耳から聞く情報だけで理解できていますかね?

「優先順位をつけて行動したり、業務の計画を立てるのが極端に苦手」
→既に決まっていることをやるほうが本人には合っているのかも?

「言葉や表情から相手の気持ちを察することができない」
→むしろ率直に意図や指示を伝えたほうが本人はやりやすいのかも?

「何度も何度も同じミスをする。とにかく仕事ができない」
→ミスをする「パターン」があるということ。その悪循環のスタートはどこ?

と考えていくと、違った切り口が見えてくるかもしれません。

「機械的に対応する」くらいの心持ちでもいい

別に取り立ててその人に心を寄せたり、感情を注ぐ必要はないんです。
正しい理解のもとに、フラットに、機械的に対応するくらいの気持ちでよいのではないでしょうか。仕事と同じで、論理的に、問題解決志向で考えられれば、と思います。

最後に、発達障害の傾向があるかどうか問わず、職場で「うまくいかない人」への接する際のポイントをあらためて挙げておきたいと思います。

①    言葉のかけ方が大事
→「うまくいかない人」は往々にして自己肯定感が低いことも多いです。ちょっとした言葉かけがいずれ関係性や仕事のパフォーマンス向上に効いてくることも。
参考:下記、記事中後半の言葉のかけ方リスト
(発達障害がある/なしに関わらず、ご参考にしていただける内容です)

②    意図や理由をきちんと説明できているかが大事
→結局はコミュニケーション量が少ないことによる認識の齟齬だったりする。話をできる限りじっくり聞いて、こちらの意図や理由を率直に説明すれば、お互い納得できることも少なくない。

③    本人の訴えが「苦手(障害)に起因している」か「単なる本人の願望」なのかを分けて考えることが大事(=後者には無理に応じる必要はない)
→問題の交通整理をして、環境を作ってサポートする部分と、本人が努力するべきところを明確にしたほうがよい。

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